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都内「タワマン乱立」で"下町消滅"は問題ないのか 「商店街をなくす再開発」で"下町情緒"は消え…

東洋経済オンライン / 2024年6月25日 11時30分

再開発によって、昔ながらの商店街などが消えていく現状を考察します(写真:PIXSTAR/PIXTA)

住宅購入は人生で一番大きな買い物。それは令和の現在も変わらない。しかし東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど、一部のエリアでは不動産価格の高騰が止まらない。

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今回は、あちこちで昔ながらの商店街などが再開発で消えていく現状を考察する。

再開発のターゲットとなる「昔ながらの巨大商店街」

東京23区では不動産価格が高騰し、ファミリー向けの新築マンションは1億円を突破している。

そこで新たにターゲットとなるのが、東京特有の巨大商店街との連結効果を狙ったタワマンだ。

その最前線には、たとえば品川区がある。

なかでも、全国的にも知られる全長800mのアーケードからなる武蔵小山商店街は開発最前線になっている。

行政はこうした開発を「再開発」と称し、巨額の補助金を注ぎ込む。

マイナス金利効果と相まって、コストの高い超大手デベロッパーによる再開発の採算の壁を破り、その高さは天を貫くほどだ。

今後も、公園など公有地周辺における再開発規制の緩和に加え、巨大商店街との連結が社会現象となるだろう。

ますます激化する再開発は、どこまで許されるべきなのか。

タワマンバブルに湧く府中駅前や、杉並区の再開発などを例に考察したい。

近年は「マンションなど中高層住宅が建てば、それでよい」という安易な開発視線の自治体が急増し、「街の個性」が失われつつある。

駅前に降り立つだけでは、ここがどこなのかわからないほどだ。

歴史ある街並みも「駅前再開発」で様相が変わる

三多摩地区でも住宅建設バブルが発生しているが、代表的なのが府中市(駅前エリア)だ。

府中は江戸時代まで国府の置かれた由緒ある都市で、駅前から大國魂神社までは鎌倉時代に由来するけやき通りが南北に貫き、比較的低層なビルで緑の美しい景観を作り出してきた。

しかし、平成初期の京王線の高架化と新駅舎完成により、駅周辺は「府中スカイナード」という空中歩行通路(ペデストリアンデッキ)が完成した。実際にはデッキ下は薄暗く、決して多くない人通りをさらに分散させた。

2019年には「駅前再開発の目玉」として出店した伊勢丹が撤退するなど、落ち目感は拭えない。

そんな府中で、筆者から見ると「レッドカード」を出したいような開発が進んでいる。

府中のタワマン開発に「レッドカード」!?

由緒あるけやき通りから府中街道に至る、渋い飲食路地だった宮西国際通りが、タワマン街に変身中なのだ。

この付近には将来的にタワマンなど中高層のマンションが30〜40棟(建設・計画・構想中含む)も現れ、「供給過多」の懸念が出ている。

近隣市の駅前開発事業が進む中、府中市は集客力の減少が懸念されるとして、さまざまな手を打ったという。

飲食街の空き店舗対策や土地の売買などを進めた結果、マンション開発が急ピッチで進んだ。

筆者は、「古い店舗や建物が消える」と聞いて毎年のように様子を見に通っているが、コロナ後はマイナス金利効果が効きすぎて開発が止まらなくなっているようだ。

「都市の魅力を集積させ、都市間競争を勝ち抜く」という一見美しいシナリオには、「タワマン系住民を増やし、市の財政を豊かにしたい」という本音がいつも隠れている。

乗降客や駅前来訪者(駐車台数)、大規模店舗の売上高などが総崩れの中、人口増のため、市はマンション誘致で税収増を図ったが、そのハードルをクリアするためには、「昔ながらの面影を残す商店街」を高級化させるしかなかった。

「駅近・新宿まで25分」を売り物にしているが、そのマンションの間隔は狭く、雨後のタケノコのような状況になりそうだ。

今後、府中が「レッドカード」をもらうか「MVP」となるかは、新住民、不動産業者、旧住民の中で見方(味方も)が分かれそうだ。

杉並にも「行政による再開発」の魔の手が…

一方、再開発が進むのがJR中央線の中野駅周辺エリアだが、それが西隣の杉並区まで及ぶと、どうなるだろうか。

杉並区が誇る、高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪という、戦後長年かけて成熟した古い街並みと文化が、再開発で変質する恐れがある。これまで培ってきた「杉並らしさ」を毀損しかねないのだ。

古着店など、中央線文化を象徴する高円寺では、商店街やその住民が商店街を分断する道路の新設にかつて反対し撤退したが、計画そのものは残っている。

隣の文士の街の阿佐ヶ谷では、改革派区長が前区長の再開発計画を実行に移そうとしている。

行政に「商店街を守る人情」はあるのだろうか。

「人口が増えれば、税収が増えて、自治体はラクになる」という短絡的な発想の首長は多く、その手段として自治体が仕切れる再開発に頼りがちだ。

再開発事業に「街としての多様性や潤い」を求めるのは限界がある。

冒頭で紹介したように、品川区の東急武蔵小山駅付近にも、複数のタワマンが立地し、新しい商業施設が立ち並ぶ。

それらは武蔵小山の歴史ある商店街が醸し出す空気とは異質で、武蔵小山に豊洲を接ぎ木するようなものだ。

その豊洲でも、最後に残された4丁目の商店街の動向が注目される。

豊洲駅前の都営住宅が高層化され、余った大量の都有地が再開発に供せられる可能性が高いからだ。

下町情緒は消え去り、「銀座に近い」だけがメリットとなる日も近いだろう。

「再開発の功罪」東京の未来はどうなる?

近年の不動産価格の高騰により、これまでは不可能だったような地価の高いところでの開発が可能になった。

「ユニークな商店街がタワマンと連結させられる」という事態は、功罪両面があることを押さえておこう。

また、再開発は道路や防災防火事業とセットで行われることも多く、武蔵小山界隈にも買収済みの都道用地が途切れ途切れ存在する。

金網で囲われ、異様な景観を作っているのだ。

あちこちで「いびつな再開発」が進む東京の未来はどうなるのか。

東京圏全体を大宇宙ととらえると、大宇宙の中には多くのエリア(小宇宙)が多数存在する。そうしたローカルな新規需要や撤退需要を考えながら、マクロ視点で眺め続けよう。

山下 努:不動産ジャーナリスト

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