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声でパイロットが「見えてくる」管制官の頭の中 殺到する交信をどうやってさばいているのか

東洋経済オンライン / 2024年6月25日 17時0分

管制官の交信予定のリストにない機が呼びこんできたときは、便名を正確に聞き取り、現在の位置や要求を把握したうえで、本当に自分が指示してよい対象なのかを管制官同士で確認する必要があります。こうしたさまざまな観察を、管制官は耳だけを頼りに行なわなければならないのです。

そういう意味では、管制官はヒアリングがもっとも重要です。イヤホンから聞こえてくる声には、常に神経を集中させます。すると、しゃべっているパイロットが「見えてくる」ようになります。

日本人なのか、それとも英語のネイティブスピーカーなのかはもちろんですが、同じ英語をしゃべっていても、その発音で国籍の違いまで聞き取れるようになります。パイロットの国籍が特定できれば、相手を識別する情報が1つ増えます。

管制にとって、いちばん大切なのは安全を守ることです。そのためには、自分が管轄しているエリア、周波数の交通状況を常に把握することが肝要です。自分のエリアに今どんな飛行機がいて、自分がそれぞれの機にどんな指示を出し、実際その通りに動いているか監視します。

その把握さえできていれば、間違えて呼びこんできた飛行機がいたとしても、テリトリーのなかを保護するためには何を指示すればよいのか、明確にすることができるというわけです。

交信中のパイロットが突然「消えて」しまうことも…

管制官がパイロットに話しかけても、まったく応答がないことがあります。さっきまで交信していたのに、消えてしまうのです。

管制官が、現在担当している機を次の管轄の管制官に受け渡すときは、「(管制を○○に引き継ぐので)周波数○○に合わせて、次の管制官に通信設定(コンタクト)してください」とパイロットに指示します。逆にいえば、この指示があるまでは、周波数を勝手に切り替えてはいけないのです。ところが、パイロットにとっては、このルールが面倒に思えることもあるのです。

前述した通り、周波数をプリセットする事前対応ができるわけですから、次の管制官の周波数を知ることは簡単です。各国が発行する航空路誌(Aeronautical Information Publication:AIP)も公表されており、誰でも世界中の空港、空域を管制する管制官の周波数などを閲覧することができます。パイロットは、管制官にいわれるまでもなく、その運航で交信する周波数を事前に知ることができるわけです。

周波数の切り替えはボタン操作で簡単に行なえるので、交信の切り替え指示を受けていないパイロットがうっかり次の周波数帯にセットするということも起こり得ます。しかし、それをされてしまうと、管制官はまさに今、指示を出したいときに指示を出せないという状態になってしまうのです。

そんなときは、どこの周波数に行ってしまったのか、捜索が始まります。隣の管轄エリアを担当する管制官なのか、もう1つ先まで行ってしまっているのか。もしかすると誰も存在しない周波数をセットしてしまい、孤立しているかもしれません。

こういうケースさえ起こり得るので、あらゆる可能性を考えて、自分の管轄するエリアを安全に保つために、両方の耳を使って常にモニタリングしながら状況を把握する必要があります。無線交信の合間を見つけて、状況のアップデートを継続するのは大変な労力がかかります。

タワーマン:元航空管制官・航空専門家

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