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「虎に翼」"振り切りキャラ"で異例ヒットの背景 王道じゃない異色の朝ドラ、なぜウケた?

東洋経済オンライン / 2024年6月28日 11時0分

リーガルエンターテインメントとしても面白い同作。これまでの朝ドラとは違う描き方が随所に見られる(画像:NHK『虎に翼』公式サイトより)

朝ドラこと連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)の勢いが止まらない。

【画像】「虎に翼」明律大学時代、大人気だった同級生といえば

6月21日放送の第60話の世帯視聴率は18.1%と番組最高を記録した。昨今、18%超えは快挙。もはや世帯視聴率が人気の指標にはならないとはいえ、ほかのドラマが10%前後であることを思えば、圧倒的な強さを感じざるを得ない。

「振り切った人物」を描いてきた脚本家

安定した人気を誇る朝ドラの中でも『虎に翼』はとりわけ評判がよく、若い世代にも支持されている。これは30代の気鋭の脚本家・吉田恵里香の起用が大きな要因のひとつであろう。    

2022年、恋愛に興味のない男女の交流と共生を描いたオリジナルドラマ『恋せぬふたり』で向田邦子賞を最年少受賞した次世代のエースによる朝ドラの突出した個性を、6月27日に放送された第64回を例にあげてみよう。

妻として母としてすべて失敗しながら、あっけらかんと再出発する人物が描かれた。

ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)の法学部の同期・梅子(平岩紙)の夫が亡くなり、遺産相続問題で揉めていたところ、夫の妾と梅子が溺愛していた3男坊とが恋愛関係にあったことが判明する。

夫の妾が息子まで奪っていくという昼ドラのようなドロドロのエピソードだが、この衝撃的な悲劇によって梅子は嫁や母という役割から完全に解放されるのだ。なかなか振り切っている。

もともと夫に妾がいて、ないがしろにされていた梅子が、弁護士資格をとった暁には離婚して息子の親権をとろうと努力していたことがすべて水泡に帰したにもかかわらず、遺産の相続放棄までして、じつに清々しい顔でこれからの人生に向かっていく。

法律の勉強を諦めてまで子育てを優先したのに報われなかった。妻としても母としてもうまくやれなかったと敗北を認めながら、むしろ爽快な顔をしている梅子。妻にも母にも向いてなかったと認めて開き直るのも悪くないというかのように。

朝ドラでこのような振り切った人物を描いた吉田恵里香が、これまで手がけたドラマにも異色作が多い。

男性が女性の生理に理解を示すオリジナルドラマ『生理のおじさんとその娘』(2023年、NHK)や漫画原作ながら男性同士の恋愛を描いた「チェリまほ」こと『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年、テレビ東京系)など。ドラマがあまり取り上げずにいた題材を軽やかな感触で、誰もが親しみが持てるように描いてきた。

フィクションでは曖昧にされてきたこと

『虎に翼』は、日本で女性初の裁判官になった三淵嘉子をヒロイン寅子のモデルにしたリーガルエンターテイメントとして、開始早々から、戦後、国民の平等を謳った日本国憲法第14条を登場させ、視聴者の心を震わせた。

このドラマ独特の現象だが、女性問題に興味の強い女性や、法律の仕事に従事している女性たちがSNSでしきりに賛同している。それがドラマの人気を底上げしていることは確かなのである。

男性優位社会で、スンッとした澄まし顔で爪を隠して生きていかざるをえない苦労や、せっかく実力で仕事を得ても結婚や出産によって一時キャリアを諦めないとならなくなる理不尽や、妻や母や仕事やすべてにおいて満点を求められる重責……など、登場人物の体験と心情を自分に重ねて涙してしまう人たちも少なくない。

これらもまた、これまでしっかりと言及されてこなかった現実であり、フィクションでは曖昧にされてきたことをフィクションでこそしっかり描く、その姿勢に支持が集まっているのではないだろうか。

いまの朝ドラブームの火付け役となった『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)で語られた名台詞に「見えんでもおる」というものがある。

これは妖怪、あるいは亡くなった人たちと人間は共生しているのだという認識だが、『虎に翼』の場合、現実に存在しているにもかかわらず言及される機会の少ない少数派の人たちの存在を、当たり前にテレビのフレームの中に存在させようとしている。見えなくない、そこにいる、ということなのだ。

とりわけ第11〜13週にかけて続々と、先入観を揺さぶる描写を盛り込んできた。

まず、寅子の同期の轟(戸塚純貴)の、同性の友人・花岡(岩田剛典)への恋愛感情らしきもの。それまでそれらしき素振りはなく、轟自身も自覚がなく、よくわからないながら彼が自分にとってとてもかけがえのない存在であったことだけは自覚するという場面が突然描かれたことに、共感する視聴者、戸惑う視聴者、さまざまな意見がSNSで飛び交った。

この轟のエピソードははっきりした答えを出さず、そのままになっている。はっきりしないものもあっていいということなのだろう。

次に、寅子の兄嫁で、30代の花江(森田望智)と16、17歳の未成年との恋愛疑惑。

寅子が、戦争孤児の道男(和田庵)を猪爪家に居候させると、彼は花江に親しみを覚えていく。夫を戦争で亡くした彼女に夫の代わりになれないかと切り出し、花江の子どもたちは許容できず取っ組み合いの喧嘩がはじまった。道男もまた、自分の真意が自分でもわかっていなくて、よくよく気持ちを整理すると、家庭の愛に恵まれなかったため、猪爪家の子どもの一員になりたかっただけだった。

“理想形”ではないヒロインだって、いていい

年上女性と少年のエピソードは、問題解決後も「こんな色男がいたらうれしいだろう」みたいな発言もあり、どこまで親子的な心情で、どこまで恋愛なのかはっきりしない描き方をあえてしているようにも見える。

血のつながらない男女の関係性には恋愛以外にも、もっといくつもの可能性があっていいということと筆者は受け止めた。

小さな息子が、みるみる道男の存在を肯定していく流れなど、どうにもうまく咀嚼できない視聴者もいるだろう。おそらく、作者はそういう反応も織り込み済みなのだろう。

そして受け止めきれない人のことも肯定している。許容できてもいいしできなくてもいい。ただし、この社会には、自分の認識をはるかに超えた人生がいくつもあるのだ、とばかりに作者はせっせとこれまでにドラマで描かれてきた規定路線を超えた人物を描こうとしている。

出身を隠して日本で暮らす外国人もいれば、同性を好きな人もいれば、男装する女性もいれば、年齢差など関係なく接する人もいていい。さらに、妻や母の役割を捨てて自立する人や、母の期待を裏切って母を苦しめた女性を愛してしまう人も。

ヒロイン寅子もまた、仕事を優先し、家事を兄嫁・花江にまかせている、極めて自由なヒロインである。

これまでのヒロインはたとえば、明るくさわやか善意成分多めで、仕事と子育てに迷い、悩みながらなんとかやりとげていくというような理想形があった。だが、そうではないヒロインだって、いていいではないかという問いかけが寅子像である。

寅子は家事や娘の世話をほぼ家族にまかせっぱなしだが、それを誰も責めないし、自身も必要以上に責めない。実際、現実世界には、仕事を優先している妻や母親だっているだろう。

なぜか女性は仕事も結婚も子育ても、自分が求めるからにはすべてに満点を期待されるようなところがあるが、仕事70点、家事30点だっていいではないか。ときにはすべて赤点だっていいではないか。寅子を見ているとそんな気楽な気持ちにさせてくれる。

視聴者は形骸化したものに辟易している

とかくドラマでは、母親は母性の象徴、お父さんは厳格、あるいは逆張りで酒浸りや借金をするダメ人間で、メンターな人物は絶対的に正しくなければならない、というように、固定化された役回りというものを描きがちだが、『虎に翼』はそれがない。

本来なら寅子のメンター的な存在になりそうな人物・穂高(小林薫)は、寅子を女子部法科にいざなったものの、そのあとは、悪気はないながら、ことごとく寅子の意に沿わない助言をして、寅子を憤慨させ続ける。

これまで当たり前に描かれてきた人物像や展開から外れていくことが、社会の価値観を変えていくときに来ている現代と呼応して、絶賛の声が増加していくのだろう。視聴者はこうであらねばいけないという形骸化したものに辟易しているのだ。

社会の当たり前を変えていく希望にもつながる『虎に翼』が優秀なのは、SDGsの基本理念「誰も置き去りにしない」に即していることである。

NHKは、2018年9月に設立された「SDGメディア・コンパクト」という、世界中の報道機関とエンターテインメント企業に対し、その資源と創造的才能をSDGs達成のために活用するよう促すことを目的とした事業に参加し、番組づくりにSDGsを取り入れている。

『虎に翼』に取り入れられた目標

『虎に翼』の制作にももれなく、SDGsの意識は注入されているだろう。そう思って、SDGsの17の目標を見てみると、同作ができるだけ目標に合う内容を書いていることがわかる(マーカー部分)。

目標1 あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ ←ヒロインが戦災孤児の救済にあたる

目標2 飢餓をゼロに ←法律に倣い闇物資を拒否した判事をモデルにした人物が描かれた

目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する

目標4 すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する ←戦災孤児の救済 愛の家庭裁判所を作る

目標5 ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る ←男女平等を強調したストーリー展開

目標6 すべての人々に水と衛生へのアクセスを確保する

目標7 手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する

目標8 すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する

目標9 レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る

目標10 国内および国家間の不平等を是正する ←日本国憲法第14条を強調している

目標11 都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする

目標12 持続可能な消費と生産のパターンを確保する

目標13 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る

目標14 海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する

目標15 森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る

目標16 公正、平和かつ包摂的な社会を推進する ←日本国憲法第14条を強調したストーリー展開

目標17 持続可能な開発に向けてグローバル・パートナーシップを活性化する ←朝鮮からの留学生がヒロインの友達にいる

『虎に翼』はこれから折返しに入る。まだ取り入れられていない目標も描かれるだろうか。目標3などは朝ドラらしい目標だと思う。

木俣 冬:コラムニスト

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