紫式部「アラサーで夫と死別」幼い娘との壮絶経験 気持ちがすれ違う中で起きた悲しい出来事
東洋経済オンライン / 2024年6月29日 15時0分
しかし、いざ、夫が自分のもとに通ってくる頻度が減ってくると、やはり腹立たしさや悲しい気持ちになったのだと思われます。
「入る方はさやかなりける月かげを 上の空にも待ちし宵かな」(あなたのお目当ての所ははじめから他所の方(女性)とはっきりしていたのに、私は今か今かとあなたを待っていました)という紫式部の歌からは、夜になってもすぐに眠らず宣孝の訪れを待つ、健気な様子が垣間見えます。
それに対し、宣孝は「さしてゆく山の端もみなかき曇り 心も空に消えし月かげ」(訪ねようと思っても、あなたの機嫌が悪そうなので、途中で逃げてしまったのです)と歌を送りつけてきました。
2人の仲は、危険水域と言っていいかもしれません。紫式部は、手紙上での夫婦喧嘩のときでも「罵り合って2人の仲を絶ってしまうおつもりなら、それでもかまいません。お怒りになるのを怖がってはいません」と夫にキッパリ主張するタイプの女性でした。
堂々とした態度には好感が持てますが、宣孝は紫式部の気の強さが段々と苦手になっていったのかもしれません。
「夫の訪れを待つ」としていた紫式部ですが、次第に心境の変化もあったようで「おほかたの秋のあはれを思ひやれ 月に心はあくがれぬとも」(他の方に心を惹かれているのはわかりますが、いつも悲しみに暮れている私のことも思いやってください)と哀願ともとれる歌を詠むようになります。可哀想な紫式部です。その紫式部を更なる悲劇が襲います。
49歳で宣孝が急死する
長保3(1001)年4月、夫・宣孝が急死するのです。49歳でした。このとき紫式部は30歳前後とされています。
その前年から、「死病の者が京中に満ちている」とも言われるほど、疫病が流行していたのです。朝廷では祈祷を行いますが、効果はありませんでした。
同じ年の2月には、宣孝は藤原道長から呼び出しを受けて、所用を命じられていますが、「痔病」を理由に断っています。痔は命にかかわる病ではなく、宣孝の死因とはまた別のものでしょう。おそらく、宣孝も疫病によって亡くなったのだと考えられます。
紫式部が夫の死に際して、詠んだ歌は残っていませんが「世の中の騒しきころ、朝顔を人の許へやるとて」という詞書のもとで「消えぬ間の身をも知る知る朝顔の 露とあらそふ世を嘆くかな」との歌を詠んでいます。
「世の中の騒しきころ」というのは、疫病が流行していた頃を指すのでしょう。この歌は、宣孝が亡くなった年の7月か8月頃に詠まれたと推測されます。「いつ死ぬかわからないと覚悟はしていながら、朝顔の露と競い合うようにして人が死んでゆくのを悲しんでいます」との歌意です。
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