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ふるさと納税にも採用「遺伝子検査キット」の危うさ 専門家が自粛を求めても広がる子ども向け検査

東洋経済オンライン / 2024年7月1日 8時0分

(写真:Usis / PIXTA)

人の命を左右することもある医療情報。SNS上では私たちの不安につけこんだ、根拠に乏しい情報があふれている。『週刊東洋経済』7月6日号の第1特集は「不安につけこむ『医療情報』の罠」。何を信じ、何を疑えばいいのか。

「遺伝子検査でお悩みを解消! 福岡市子育て応援!」

【画像】学会や医師会などは未成年の遺伝子検査自粛を求めている

これは、福岡市のふるさと納税紹介ホームページに掲載されている、ある返礼品の売り文句だ。

中身は子ども向け遺伝子検査キットで、寄付金額は5万5000円から全9種類。最も高い30万7000円の検査キットは「記憶力」「リスニング力」「愛情要求」「絶対音感」など、被検者の19の能力が鑑定できるという。

米国や欧州と異なり、日本では民間の遺伝子検査に関する規制がない。そのため、科学的根拠が不明な遺伝子検査キットが、野放し状態で利用されているのが実態だ。

学会は自粛するよう求めてきた

今の状況を懸念する専門家は多い。遺伝子医療に関連する学会は、子どもに対する不必要な遺伝子検査を自粛するよう求めてきた。2003年に関連10学会が共同で発表したガイドラインでは、子どもへの遺伝子検査に対し「検査結果により直ちに治療・予防措置が可能な場合や緊急を要する場合を除き、本人が成人に達するまで保留するべきである」と明記している。

福岡市によると、子ども向け遺伝子検査キットが返礼品リストに入ったのは昨年6月。公的機関が科学的根拠の不十分な遺伝子検査を提供することについては「選定の段階で、国と県が定めた基準を満たしていれば、すべて返礼品として登録している」と回答した。子ども向け遺伝子検査キットを「福岡市子育て応援!」と紹介していることについては、「事業者が作成した文章」と説明した(取材後、この文言はホームページから削除された)。

今年3月には、日本医学会などが民間の遺伝子検査について「科学的根拠が極めて不十分」として、政府に規制のあり方を検討するよう提言した。提言書の検討委員会で委員長を務めた信州大学医学部の福嶋義光特任教授は、こう話す。

「子どもの能力は遺伝子よりも育った環境など後天的な要素の影響のほうが大きい。検査の責任者となる医師の名前や科学的根拠となるデータも明示されていない。医療行為ではなく占いレベルだ」

厚労省と経産省の暗闘

今年4月には、東京都内の保育園が「子育てに役立つ」として子どもの遺伝子検査を受けることを呼びかけ、保護者の3割が応じていたことが毎日新聞の報道で発覚した。これを受けて加藤鮎子こども政策担当相は「子どもの教育・保育を担う施設が遺伝子検査を推奨することは極めて慎重にしてほしい」と注意喚起したばかりだ。

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