都知事選で「都内の"不動産価格"」今後どうなる? 「住宅や再開発政策」はもっと争点になるべきだ
東洋経済オンライン / 2024年7月2日 13時0分
住宅購入は人生で一番大きな買い物。それは令和の現在も変わらない。しかし東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど、一部のエリアでは不動産価格の高騰が止まらない。
不動産市場の変遷や過去のバブル、政府や日銀の動向、外国人による売買などを踏まえ、「これからの住宅購入の常識は、これまでとはまったく違うものになる」というのが、新聞記者として長年不動産市場を研究・分析してきた筆者の考え方だ。
新刊『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』では、「マイホームはもはや一生ものではない」「広いリビングルームや子ども部屋はいらない」「親世代がすすめるエリアを買ってはいけない」など、新しい不動産売買の視点を紹介。変化の激しい時代に「損をしない家の買い方」をあらゆる角度から考察する。
今回は、7月7日に行われる「都知事選」と「衆院選小選挙区」「不動産市場」の深い関係を解説する。
都知事が変われば、再開発に歯止めがかかるのか?
7月7日(七夕)投票の東京都知事選で、再開発問題が初めて主要な争点のひとつとなっている。
【"区割り地図"でわかる!】今後の不動産戦略「5つの有力な仮説」とは?
都政と不動産価格が直結するわけではないが、小池百合子知事時代の8年間で、東京23区の新築マンション価格は2倍近くにも跳ね上がり、ファミリー用マンションの平均価格は1億円を超えたままだ。
バブル経済時代の最高値を優に超え、子育て層の都民が住宅取得時期に周辺の県に流出するという事態をも招いている。
マンション価格の高騰によって、都心や湾岸だけでなく、23区外や歴史や趣のある街で次々と再開発が進み、高層マンションが建てられている。
では、神宮外苑の再開発の見直しを掲げる蓮舫氏が当選すれば、再開発に歯止めがかかるのだろうか。
残念ながら、大きな期待はできない。
知事ブレーンに、
民主党政権化において、「脱ダム政策」が結局は既得権者の抵抗で失速した過去も思い起こされる。
しかし、もしも実際に再開発やタワマンの供給を抑えるなら、既存の開発中のマンションや中古物件の値上がりの要因になるかもしれないのだ。
アイドルの人気投票だって「総選挙」を名乗るくらいだから、マイホーム選びにも「総選挙」があってよい。
全国的に人口減少・少子高齢化の波に揉まれる中、都知事選や総選挙からどういった住宅戦略が考えられるのか、考察してみたい。
実は、激変を続ける衆院選の区割りは、住宅選びの参考になる。
次回の衆議院選挙の選挙区の数は、東京都で5増加し、25区選挙区から30選挙区に増える。
神奈川県でも2増加、3つの県(埼玉県、千葉県、愛知県)でそれぞれ1増加する。
1票の格差を考慮して、全国で見れば増えるのは10選挙区だが、1都3県の首都圏で増加の9割を占めることになる。
区割りについては本稿の後半で改めて解説しよう。
区割りとともに「再開発促進区」をチェック
どのエリアのマンションが値上がりするのかを予想するなら、都市計画法の「再開発等促進区」の指定も大きなヒントだ。それが大規模開発の突破口になるからだ。
つまり「これからの再開発促進区はどこなのか?」を考察することが、不動産戦略では重要だ(ちなみに、筆者は促進区の“乱用”には反対の立場である)。
そういう意味では、中選挙区時代の旧東京第1区であった千代田、中央、港の都心3区は、これからも大化けしそうだ。
旧1区の中でも特に注目したいのは、中央区の築地周辺エリアだ。
築地市場跡地の再開発といえば、「ジャイアンツの本拠地(スタジアム)移転はあるのか?」が話題に上るが、裏のテーマは住宅開発である。
築地市場跡地は都有地(都民の財産)であり、原則として70年の定期借地期間の中で開発される。
したがって、超大手デベロッパー、富裕層、外国人らの関心事といえば、定期借地付きのマンションがどれだけできるか、なのだ。
築地周辺が一大高級マンション群に変貌すると……
築地市場跡地に、周辺の航空規制の変更など水面下の事情の変化で摩天楼ができるとする。そうすると、市場跡地周辺も、再開発促進区等に指定される可能性が大きい。
さらには市場跡地の北側には、築後半世紀前後のビル群がある。
これらがマンションを含めて連鎖的に再開発されると、一大高級マンション群に大変身する確率は高い。
銀座や東京駅に近いうえ、隅田川と東京湾にも至近で、都心で最高のウォーターフロントの高級住宅エリアに大化けする可能性は大きい(同時に、乱開発の懸念もともなうが)。
黒船の襲来に備えてお台場に砲台ができ、築地に疎開地ができたその後の開発の動きを、幸か不幸か凌駕してしまうかもしれないのだ。
築地エリアは、もともと江戸時代の大火で本願寺が浅草方面から築地に移転するため埋め立てられた(築地とはそもそも埋立地の意味)。
旧築地市場敷地には、松平定信が設けた最高傑作の潮(海水)入り式の池泉回遊式庭園である浴恩園の遺跡が地中にあり、現在は東京都指定の旧跡となっている。
これは大正時代の関東大震災によって魚市場(魚河岸)が日本橋から築地に移転し、戦後はGHQに占領(連合国兵らのクリーニング工場などに活用)された経緯も彷彿とさせる。
今後、日比谷公園や旧跡指定されている築地市場跡地はどう再開発されていくのか。
東京五輪の選手村のようにタワマン街になるのだろうか。
再開発の未来は、数年先も読み切れないところがある。
ちなみに、ほとんど知られていないが、築地市場移転に反対していた方々の社宅の跡地等は現在、東京都の大規模再開発でツインタワーに変貌中だ。
都知事戦で変わる「再開発のあり方」
過去に東京の中心部を独占していた旧東京1区(中選挙区時代)は、浅沼稲次郎(日本社会)、 野坂参三(日本共産)、鳩山一郎(日本自民)などの政治家を当選させてきた。
現在の千代田、中央、港の3区は、築地のほか、日比谷公園、神宮外苑(一部)など、再開発のメッカとなっている。石原、猪瀬、舛添、小池の保守系都知事4名が、2回目の東京五輪誘致・実施をテコに再開発を進めてきた東京の心臓部だ。
「小池都政を止める」という蓮舫氏の出馬宣言は、実は迫る総選挙ばかりか、東京都内の再開発の在り方も大きく左右するだろう。
しかも、衆院補選で自民候補は不戦敗や敗戦を続けている。
さらに2022年の新宿区長選では、神宮外苑再開発に反対した新人女性区長候補が開発推進の現職男性区長に大敗を喫した。
だが、今年6月の港区長選挙では、同様に神宮外苑開発反対を抱えた港区の女性区議がベテランの男性区長の6選を阻み、大番狂わせとも言われた。
下は東京都の選挙区の区割り地図である。
まずはじっくり見てみてほしい。
この区割り地図から、次のような仮説が成り立つ。しかもそれは有力だ。
選挙区からわかる「これからの不動産戦略」とは?
①原則として、駅名になっていない地名は不動産市場において強くなさそうだ。
②不動産市場において人口が多いのはよいことだが、2区に分割され、その区割りが1桁台と2桁台にまた裂き状態にされている区については、慎重に検討したい。
23区の人口増による1票の格差を解消するために、人口の多い区の選挙区の分割が急務となり、また裂きとなった区が続出した。分割された区は、選挙区そのものにつぎはぎ感が残る。人口の多い区の分割先の「引受先」になる場合もある。有力者が優位に選挙区を分ける「ゲリマンダー」という現象も起きやすくなる。
たとえば、世田谷区、大田区、杉並区、板橋区、足立区など、23区の外周部の区が2つ(複数)に分断されていることがわかる。
③選挙区行政上の区割りにすぎないが、実は大正時代以降の東京の人口爆発を背景としている。昔から中心だったエリアは、第7区(港区、渋谷区)、第10区(文京区・豊島区)を例外とすれば、住宅価値や地価の高い上位に入るところがほとんどだろう。
④今後、東京の人口が23区でも減るとすれば、過去の人口爆発の結果、1つの区を2つに割っている人口の多い区の人口減少が目立つ可能性がある。
⑤したがって、注意が必要なのは、1つの区を2つに割っている区、つまり世田谷区、足立区、杉並区、練馬区、板橋区などのうち、有名でないところ。つまり駅名などになっていないエリアだ。
不動産政策はマクロで考えたうえ、自治体が許認可をもつ都市計画の政策がどうあるかで決まる。
住宅や再開発政策は、もっともっと争点になるべきだ。
都市計画や不動産政策は「住民の暮らし」に直結する
小池都知事の肝いりで2022年12月に都の環境確保条例が改正され、全国で初めて新築戸建て住宅に太陽光パネル設置が義務づけられた。この結果、新築戸建て住宅に100万円程度の価格上昇が起きている。
また、知事は過去に決定した都市計画道路の整備を急いでおり、板橋区や杉並区、品川区などで賛否両論が湧き起こっている。
都道建設や再開発事業は、都市計画全般の許認可権を握る東京都次第でもあり、用地確保を巡って問題が起きやすい。
移転・立ち退き・補償など、住民の暮らしに直結する大きな政策だからだ。
そう考えれば、「選挙で都市計画・不動産政策が問われる」という現実は重い。
その意味では、次回急増する東京の衆院議員と有権者は大きな責任を負っている。
区割り地図と再開発予定地を重ね合わせて、誰に投票するか、家を買うならどこにするのかをしっかり吟味しよう。
山下 努:不動産ジャーナリスト
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