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「かき氷も日本料理のうち」老舗店が追求する潔さ 四季折々の素材を生かして一年中楽しむものに

東洋経済オンライン / 2024年7月3日 12時0分

私がこの世界に入るきっかけとなったのは、天然氷との出会い。

初めて食べたその氷のおいしさと、当時はまだあまり語られることのなかった「地球温暖化」によって、何年かあとには採れなくなってしまうかもという不安感とのギャップ。

限りないポテンシャルがありながら、また同時に危機的な状況にもあるというその儚(はかな)さに当時の私は魅せられたのです。

なので、この天然氷でかき氷のお店を開くことになったとき、直感的に「市販のシロップをかけるのは違うな」という気がしました。

この氷にとって、いちばん正しいかたちってなんだろう。

自分なりに考えて考えてたどり着いた答えが、「いちごの氷なら、本物のいちごからシロップをつくったほうが正しいんじゃないか」ということでした。おいしいかき氷ではなく、氷にとって正しいかき氷。いまとなっては言いにくいことですが、出発点はそこでした。

新しいかき氷は常に考えていかないといけないものですが、シロップのアイディアというのはそんなに無限に生まれるものでもありません。

あまりかき氷の食べ歩きはしないのですが、ときどき話題のかき氷屋さんを訪れると、そのつくりの複雑さに、「いま都心では、こんなに手をかけないといけないんだ」と驚かされることばかりです。

かつては新しいといわれた埜庵のかき氷も、いまとなっては違います。シンプルなかき氷が埜庵の信条で、そこを変える気はないのですが、それがかえってうまい差別化にはなっていると思います。

というのも、埜庵はかき氷を一年中食べる人が少ない時代に始めているので、まずは広くお客さまに受け入れてもらう必要がありました。シンプルなフルーツのかき氷が多いのはそのためです。

かき氷のかたちが違うのではなく、対峙しているお客さまが違う。結果的にさまざまなかき氷が生まれて、多様性につながり、かき氷の発展にもつながっていると思います。

3年勤めたら「のれん分け」

新しいアイディアの話に戻ると、私の場合は、むしろかき氷以外の食べ歩きのなかから生まれることが多いです。特に旅行や出張で地方に出かけたときに、その土地独自の食べものから影響を受けるということが数多くあります。

レシピは何種類くらいあるのですか?と聞かれますが、実は自分でまとめたレシピ帖のようなものはありません。

手を動かしながらつくり、最終的に決めたレシピを、そのときどきの「ニバン(店でNo.2の人のこと)」を務めている人が書きとめます。そして、その「ニバン」の人がお店を卒業するときには、それまでに書きためた原本のコピーを私に渡す。

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