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「仕事を選ぶ人」は幸せになれない"残念な真実" 名物記者が語る「量が質を凌駕する」という真理

東洋経済オンライン / 2024年7月4日 10時30分

「量より質」と言いますが、果たして仕事にもそれは当てはまるのでしょうか(撮影:今井康一)

「人はなぜ、働くのか?」。この永遠の問いに、「幸せになるため。ナイスな日々を過ごすためである」と、朝日新聞記者でベストセラー『三行で撃つ』の著者である近藤康太郎氏は答えます。

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一日の大半、人は〈仕事〉をしています。毎日をハッピーに過ごすには、「好きな仕事の比重を増やすこと」と「好きでない仕事を面白くすること」が重要だと言います。では、どうすれば仕事が面白くなるのか、好きになれるのか。

近藤氏がこれまでの仕事人生で見いだした、仕事を面白くするためのコツについて、新著『ワーク・イズ・ライフ 宇宙一チャラい仕事論』より、一部抜粋・再構成のうえお届けします。

すべての発注にYESと言う

仕事をするうえで大事なこと。それは、局地戦を戦うなってことです。

たとえばライター仕事でいうと、発注された記事を出稿すると、原稿を受け取ったデスクが勝手に直す。そういうやつ、けっこういるんです。

自慢話になっちゃうんですが、わたしは27、28歳のころから、ほとんど原稿が直らなくなった。一文字も変更されない。でもそれは、例外中の例外です。

わたしのところで仕事や勉強を学んでいる子たち、20代、30代の売り出し中の記者、フリーライターは、そりゃあもう、原稿は直されまくります。

彼女、彼らが望めば、事前に原稿を見てあげることもある。デスクに出稿する前にわたしが見て、アドバイスする。

わたしがその原稿を見て、「オーケー。おもしろくなったね」と、ある程度まで完成稿になったとしましょう。その原稿を、なにも知らないデスクがけっこう直す。文章もそうだけど、構成を大きく変えたりもする。

それで、案の定、下手になってるんです。文章の基本が崩れていたり、構成が弱くなってスピード感が落ちていたり。すると、若い子たちは「近藤さん、これ直されちゃったんです。前の方がいいと思うんです」って文句を言う。

絶対、そんな文句を言うな。下手になってていい。「ありがとうございました。勉強になりました」とにっこり笑って頭を下げていろ。

文章をいじられて、下手になってしまった。そんなこと、小さなことなんです。局地戦を戦うんじゃない。ビッグピクチャーを見ろ。

NOと言わない。すべての発注にYESと言う。それで、なにがしたいんですか? 最終目的はなんでしたっけ?

幸せになりたいんですよね。〈仕事〉によって、ハッピーに、ナイスになるんですよね。

もう少し具体的に考えると、「いいライター」になりたいんですよね? いろんな媒体から発注が来るようなライター。原稿を出すたびに「おもしろい」「独自だ」と言われるライター。やがて、大きなテーマを書ける。ライフワークを見つけられる。それがビッグピクチャーですよね。

まだ駆け出しの記者が、デスクや編集者に文章を直されたからって、いちいち御託を並べるな。そういう小うるさいひよっこライターと、「勉強になりました」と受け入れ、グラブを構えて「次、カモン」みたいに準備してるアグレッシブなライターと、どちらが使いやすいのかってことです。

〈仕事〉するやつが、〈仕事〉できるようになる

相手の立場に立ってみる。相手の論理構造を理解する。これは、働く人間にとって死活的に重要です。

・NOと言わない

・局地戦を戦わない

そういう態度でいれば、洪水のように仕事が押し寄せます。そして書けば書くほど、うまくなる。そのうえに、書き手としての立場も強くなる。趣味直しをしてくるデスク・編集者が、勝手に手を入れられなくなる。

もう、空気が変わるんです。あまりに忙しい売れっ子ライターには、「こいつの原稿に下手に手を入れちゃまずいな」という空気が流れる。

無能なデスクほど、そういう空気だけは分かる。彼らは空気を読むから。ポジション取りだけで生きてきたから。

この話は、ライターに限らないです。学生時代からずっと貧しかったので、いろんなアルバイトをしてきました。皿洗いに居酒屋のホール係、調理人の見習い、ビル掃除にホテルのベッドメイク、土方、家庭教師、八百屋の配達にレジ係……。

でも、アルバイトだろうとなんだろうと、口がうまいやつじゃなくて、だまって、陰で、誠実に働くやつ。そういうのが、正社員からも一目置かれる。じきに、くだらない嫌みもなくなる。難癖をつけられなくなる。

書くやつが、書けるようになるんです。〈仕事〉するやつが、〈仕事〉できるようになるんです。トートロジーです。

量が質を凌駕する。

話は少し前後しますけれど、そういうわたしも、会社内でいつも書いてきたわけではないんです。社外でフリーライターの仕事をずっとしているから、その意味ではいつも書いてはいたんですけれど、新聞社で考えると、ずっと書く場所にいられたわけではない。

外されました。いちばんいやな仕事をやってました。

会議するのが仕事ってことがあった。しかも他社との協同事業だったから、そのときはテレビ朝日とKDDIと、毎日、会議していた。

わたしは、会社を辞めようと思っていたんです。これ、意味ないわ。こんな人生を送りたくない。辞めようとして、じっさい、準備もしていた。

そうしたら、見るに見かねて上司が、記者に戻してくれた。「ただし、ヒラの記者だけど、いいのか?」、「ありがとうございます! 恩に着ます!」と、完全に舞い上がってました。形式的には降格なのに、なにがそんなにうれしいか。

「スニーカーが5ミリぐらい宙に浮いて歩いてる」と、周りの人間にしばらく言われました。

ヒラのライターに戻してもらって、そこからは水を得た魚雷です。どんな仕事にも飛びついて、周囲の人間がどん引きするくらい、激烈に仕事した。その間に本も出版したりして。「こいつ、いつ寝てるんだ」って感じでした。

以来、会社内でも、ずっと書くポジションにいます。わたしも、〝罠〞にひっかかりました。罠にかかったけれど、なんとか自力で脱出した。くくり罠から、自分で足首を引きちぎり、逃げ出した。足首の欠けた猪です。かわいそうに、山の中にいくと、たくさんいますけれど。

筋肉と語学は裏切らない

書けない部署にいるときに、なにをしていたかというと、筋トレです。

そのときはもう、ジムに通い詰めました。会社の地下にも簡単な体調室があって、いくつかマシンが置いてあった。ずっと筋トレしてました。

それから、外国語の勉強です。単語帳を縮小コピーして、手のひらに入るサイズの紙片にして切っておくんです。退屈な長い会議で、ずっと、その紙片をめくっている。まだ目がよかったからできたんですが。

手のひらのメモをひっくり返している分には、「なにか資料でも見ているのかな」と勘違いしてくれる。だから、ずっと単語を覚えていました。

不遇の1年間で、シャツが合わなくなるほど体は大きくなって、単語もすごく覚えたんです。あのときに英単語は1万語覚えましたね。英語の本を、辞書を引かないでストレスなく読めるようになった。

いま、英語を原書で読めるようになったのは、書く場所から外されていたおかげです。

あとで聞きましたが、同僚はみな、わたしの行動を不審に思っていたそうです。

「近藤さんが会議中に見てるの、あれはなんだ?」「(相撲で行司が呼び上げるときに見る)番付表か」って言われていたらしい。式守伊之助かよと。

近藤 康太郎:作家・評論家

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