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録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか

東洋経済オンライン / 2024年7月5日 7時30分

クレディ・スイスのAT1債は、この企業存続事由のトリガーがヒットして元本が全額毀損した訳だが、会話のやり取りからは、営業担当者がCET1比率のことしか認識していなかったことが読み取れる。

代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う。

公的支援アナウンス後も販売を継続

それどころか、必要があればクレディ・スイスに「流動性を供給する」という、スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ。

ほかにも、この期間にアドバイスを求めた顧客に対して、「今回は資本注入ではなく、流動性供給ですので今のところ問題ございません」とメールで回答している。また、録音データには、トリガー事由となる公的支援のアナウンスを、営業担当者がポジティブ材料として受け取っていた会話のやり取りもある。

山崎弁護士は「三菱UFJモルガン側が商品性を正しく認識できていなかったことは明らか。商品の複雑性やリスクの高さを誤って認識していたのだから、説明義務違反などに加えて適合性の判断も正しく行われていなかった」と主張する。

一方、三菱UFJモルガンの広報担当者は「第3次提訴の訴状を確認していないのでコメントは差し控える」とし、「当社の主張については裁判の中で明らかにしていく」と話す。

最終的に和解に至る可能性もあるが、早期に和解すると提訴する人が次々に出てきてしまう。元本削減を知った時点から3年で時効となるため、和解の場合であっても時効ギリギリまで裁判が長引くとみられる。

日本で蔓延するモラルハザード

クレディ・スイスのようにリスクが極めて高いAT1債がある一方で、日本の金融機関が発行するAT1債はトリガーが引かれるリスクは小さいと考えられている。クレディ・スイスの問題以降も日本のメガバンクが立て続けにAT1債を発行し、投資家から絶大な支持を集めているのは、このリスクの小ささ故だ。地銀の群馬銀行までもが今年1月に2.244%の低コストでAT1債を発行している。

そして最も懸念されるのは、日本のこうした実態が、投資家と金融機関の双方に「モラルハザード」をもたらすことだ。

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