原生林由来のバイオマス燃料、輸入国日本の責任 森林生態学の専門家がビジネスの危うさを指摘
東洋経済オンライン / 2024年7月12日 7時0分
バイオマス発電は、燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量をカウントしなくてよい再生可能エネルギーとされている。日本では2012年にスタートした再エネ固定価格買取制度(FIT制度)によって導入が進み、FIT制度および後続のFIP(フィードインプレミアム)に基づく導入容量は2023年度に約463万キロワットに達している。
その中身は輸入バイオマスを中心とした一般木材や液体燃料などが8割近くを占め、林地残材など国内の未利用木質バイオマスを主体とした未利用材は1割程度にとどまる。そしてベトナムやカナダ産の木質ペレットが輸入バイオマス燃料の主柱となっている。
しかし、カナダでの木質ペレットの生産の実態について、専門家は「カーボンニュートラルとはほど遠く、森林生態系に悪影響を与えている」と指摘する。森林生態学者で独立コンサルタントのレイチェル・ホルト博士に、カナダの現状と日本との関係について聞いた。
――ホルトさんは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州での原生林皆伐と、日本のバイオマス発電の関係を問題視しています。
【写真で見る】カナダ・ブリティッシュコロンビア州北部の皆伐現場
カナダ西部のブリティッシュコロンビア州は、カナダでもとりわけ林業が盛んな地域です。同州では原生林を片っ端から切り倒す「皆伐」が行われ、得られた木材を住宅用建材などとしてアメリカや中国、日本などに輸出しています。
また、製材所で発生したおがくずなど(原材料全体の約8割)に加え、丸太の一部(原材料の約15~20%)が木質ペレットというバイオマス発電用燃料に加工され、日本や韓国、イギリスなどに輸出されています。
原生林由来の森林を伐採し、その一部をペレットに加工して長距離輸送し、発電に利用することは、実態としてはカーボンニュートラルとは言えません。石炭を燃やすのと同じように短期的には地球温暖化を促進します。
輸送でもCO2排出、発電効率も悪い
――どういうことでしょうか?
製材所で発生したおがくずをペレットに加工し、地元地域で暖房用燃料として使うのであれば、廃棄物や資源の活用方法としては良い方法だと言えます。
他方、日本で使用するとなると、海上を含めた長距離輸送が必要となり、輸送時に大量の二酸化炭素(CO2)が発生します。加えて発電用の場合、熱利用と比べて非常に効率が悪く、エネルギー効率は20~30%程度にしかならない。そのため、木質ペレットのようなバイオマスをグローバル市場において発電用として利用することは良い利用方法とは言えません。
――この問題を深く理解するためにも、ブリティッシュコロンビア州の森林の現状についてご説明ください。
ブリティッシュコロンビア州の面積は日本の2.5倍もあり、そのうち約半分が森林で覆われています。ブリティッシュコロンビア州での林業のやり方は、そのほとんどが原生林の皆伐によるものです。
伐採した後には植林が行われますが、ブリティッシュコロンビア州で成熟した森林になるには、平均で80年かかります。原生林を伐採すると、失われた炭素貯留や生物多様性の価値を取り戻すには少なくとも数百年を要します。
毎年、東京都に匹敵する面積の皆伐が続けられてきた結果、害虫の大発生も相まって、ブリティッシュコロンビア州の森林はもはやCO2吸収源としての役割を果たせなくなってしまっています。
このことは、ブリティッシュコロンビア州が作成した温室効果ガスインベントリーのデータでも示されています。加えて森林火災が状況を著しく悪化させており、大気中に大量の炭素を放出しています。
――ブリティッシュコロンビア州の林業の現状や今後の見通しは?
ブリティッシュコロンビア州の林業はうまくいっていません。過剰伐採に加え、老齢林の大量伐採、害虫の大量発生や森林火災が重なり、利用可能な木材供給量は近年、過去40年の伐採量のほぼ半分にまで減少しています。
製材所の閉鎖が相次ぎ、機械化と木材量の減少により、製材業の雇用者数も減っています。そのためブリティッシュコロンビア州は、伐採量に見合うだけの雇用を創出するため、付加価値のある産業の育成にも取り組んでいます。
同時に木質ペレット産業も成長してきています。ペレットの生産は増加の一途をたどり、森林生態系にさらなる負荷をかけています。
日本はカナダにとって最大のペレット輸出国
――日本の貿易統計(2023年)によれば、カナダはベトナムに次ぐ世界第2位の木質ペレット輸入相手国です。2023年に日本はカナダから158万トンの木質ペレットを輸入し、発電用燃料として使用しています。カナダからの輸入量は年々増え続けています。
ブリティッシュコロンビア州で木質ペレット産業が誕生したのは今から15年ほど前のことで、おがくずや林地残材などをもとに木質ペレットを製造し、イギリスや日本、韓国などに輸出してきました。しかし、それだけでなく、丸太も木質ペレットの原料となっています。
いまや日本は、カナダにとって木質ペレットの最大の輸出相手国です。そのほぼすべてがブリティッシュコロンビア州からのものです。
政府や業界の発表によれば、木質ペレットの約8割は製材所や林地残材に由来するものであり、残る2割が丸太からであるとされています。しかし、実際に原料がどこから来ているのかについて十分に情報開示されていないのが実情です。
ブリティッシュコロンビア州で生産された木質ペレットのうち、2割が丸太から製造されたと仮定した場合、長さ20メートル、積載量40立方メートルの大型トラック2万7000台分という計算になります。1列に並べると東京から大阪まで届く距離になります。なお、木質ペレットの原料は、残材であれ丸太であれ、すべてが原生林由来のものです。その一部は老齢林由来です。
認証制度が間違って使われている
――発電用燃料として木質ペレットを使用することに合理性はないとおっしゃいました。なぜそうしたことが行われているのでしょうか。
日本の再生可能エネルギー発電促進のための固定価格買取制度(FIT制度)は、カナダから木質ペレットを輸入するための補助金としての役割を果たしています。そうした仕組みがなければ木質ペレットの輸入は経済的に割が合わないのです。
――FIT制度では、林野庁が策定した「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に基づき、森林認証を取得した森林から得られる原料などの使用が求められています。その点では持続可能と言えるのでは?
森林認証を受けたものであれば、原生林を皆伐して得られた木材が原料であったとしても、その木質ペレットは持続可能であるとみなされています。つまり森林認証制度は間違った使われ方がされているのです。
岡田 広行:東洋経済 解説部コラムニスト
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