タクシー界が注目する「電脳交通」とは何者か? ブレイクスルーを目論む徳島発のベンチャー
東洋経済オンライン / 2024年7月13日 14時0分
ただし、こうした「現場」への対応を大事にしながら、企業としてさらなる成長を目指すには、電脳交通側が「現場に出向く数」「現場での作業や交渉の質」「現場から本部へのフィードバック」、そして「それらを総括する評価」などについての対応の進化が求められる。
「現場目線」といっても、実に奥が深い。電脳交通の経営陣も、そうした点はよく理解している。
規制緩和やライドシェアで生まれた「差」
もうひとつ、別視点での「現場目線」の議論がある。「現場や事業経営者の課題を解決するだけでは業界変革(社会変革)ができない」という強い意識を、電脳交通は持っているのだ。
そうした観点が必要とされる背景として、北島氏は「市場の大きな変化」があると話す。
たとえば10年ぐらい前までは、タクシー事業者の課題認識に大きな差はなかった。それが、タクシー事業の規制緩和やライドシェア導入の議論が高まったことで、自社の事業を積極的に変化させようとする事業者が増えてきているという。
そのため、課題認識とその解決方法に対するバリエーションも急増しているのだ。
また、地方と都市部、または地方でもエリアの属性で差が広がっている。これは、インバウンドの影響など、市場からのニーズでさまざまなケースが顕在化してきたためだ。
電脳交通としては、「現場目線」で日々の事業活動を積み重ねながらも、目線を一歩引き上げて、「社会全体を冷静に見ながら、今後の展望を考えていくことが重要だ」との認識がある。
直近では、社内の営業と開発との間にプロダクト企画を担当する部門を置き、「先を読み解くための土台」を作った。そのうえで、経営陣が市場変化や顧客からの要望に対して“手触り感”を持って、事業戦略の優先順位を考慮している。
では、電脳交通は将来的にどういった方向を目指す可能性があるのか。北島氏は「地域交通オペレーターだ」と話す。
地域交通の課題解決に向けた方法が無数にあることを、電脳交通は日々の事業の中で実感している。
たとえば、自治体が中心となって地域の交通事業者などを取りまとめる形もあれば、交通事業者同士が、それぞれの事業の継続をかけて、事業者の壁を超えて自主的に連携する形もある。
そうした地域の特徴を十分に踏まえたうえで、電脳交通が自治体と事業者の間、または事業者と事業者との間に入り、「落としどころ」を見つけていく。
こうした領域の事業に前述の「DS Demand」も含まれ、今後はそれをさらに進化させた組織体系をイメージしているという。北島氏は、将来に向けて「社会変革に対するリーダーシップをとっていきたい」との強い意志を示した。
自治体/地域事業者/地域住民で議論を
地域交通の変革については、電車、バス、コミュニティバス、乗り合いタクシーなどの再編や、AIオンデマンドバス、自動運転、自家用有償旅客運送、ライドシェアの導入などさまざまな選択肢がある。
変革を成し遂げるには、地方自治体、地域事業者、そして地域住民が「この地域をこれからどうしていきたいのか?」という意思を持って、粘り強く、そして真剣に議論することが必須となるだろう。
そうした中で、電脳交通が目指す「地域交通オペレーター」の重要性が、さらに高まっていくことは間違いない。一方で、地域交通オペレーターという領域を単独企業の事業として成り立たせるには、難しい面もあるはずだ。
パートナー企業との連携や斬新な組織形態に向けた発想など、電脳交通のみならず、地域交通オペレーターという存在に対する議論が、さらに活性化していくことを期待したい。
桃田 健史:ジャーナリスト
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