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小田急「宿泊体験ツアー」なぜ開成駅だったのか 参加者だけでなく乗務員もうれしい企画の裏側

東洋経済オンライン / 2024年7月18日 7時0分

小田急電鉄の乗務員宿泊所から見た開成駅。奥には展示車両のロマンスカー「ロンちゃん」も(記者撮影)

神奈川県西部に位置する開成町は面積6.55㎢と同県で最も小さい町だ。1955年に旧酒田村と旧吉田島村が合併して誕生した。町名は明治時代に設立された開成小学校に由来する。

【写真50枚を見る】「周りに何もなかった」1985年の開業当初の開成駅。急成長した現在の駅と乗務員宿泊所の裏側を独占取材

2020年の国勢調査での人口は1万8329人。2015年の調査と比べ7.7%増え、神奈川県内の市町村で増加率トップだった。古民家「瀬戸屋敷」のひなまつりや「あじさいの里」といった観光資源もある。

小田急で3番目に新しい

小田急電鉄小田原線の開成駅は1985年に開業した同町唯一の鉄道駅。小田急の中では多摩線のはるひ野、唐木田に次いで3番目に新しい駅だ。2023年度の1日平均乗降人員は1万2389人と、小田急全70駅中で60位。橋上駅舎で2面2線の相対式ホームを備える。

駅を中心に大規模なマンションや戸建てが目立つ。県西部でとくに成長が目立つエリアで、2019年春にはホームの10両編成対応工事が完成し、急行が停車するようになった。

駅東口を出てすぐの公園にはロマンスカーNSE(3100形)の姿がある。1963年に登場したNSEは運転席を2階に配置した展望席が特徴。展示されているのは2001年に小田急から町に譲渡された新宿方の先頭車で、「ロンちゃん」の愛称が付けられている。

【写真】1985年の開業当初は「周りに何もなかった」開成駅。急成長した駅や、乗務員宿泊所の内部、窓口や券売機の裏側は?(50枚)

ロンちゃんは2023年5月に塗装を全面的に塗り替えて装いを新たにした。毎月第2・第4日曜日のほか、6月の「あじさいまつり」開催期間中や、夏休み中の土日などには車内も公開する。普段の開成駅は特急は通過するばかりだが、あじさいまつりの間の土日には開成駅に一部が臨時停車するなど、ロマンスカーになにかとゆかりのある駅でもある。

一方、西口ロータリーからは、富士フイルムの事業所方面などへのバスが出ている。スーパーマーケットの「マックスバリュ」も駅前すぐの場所に。開成駅の駅員、小田原管区主任の藤林克則さんは「24時間営業で、出勤前や休憩時間に買い物に行くのに重宝する」と話す。

藤林さんは「新松田から小田原までの区間にある駅は昔ながらの雰囲気でお年寄りからの問い合わせも多い印象だが、開成駅は周りに新しい世帯が多く、通勤通学利用の割合が大きい」と駅の特徴を語る。

宿泊所で体験ツアー

開成駅の駅東側に3本の車庫線が並ぶ。夜に車庫線へ電車を入線させたり、朝に出庫させたりする乗務員用の宿泊所は駅の西側にある。小田急は6月22日、この宿泊所に1泊する「体験ツアー」を開催した。料金は3人または4人1室2万3800円から1人1室2万9800円。

募集人数は最大でも12人と小規模だが、ツアーのコンテンツは盛りだくさんに用意した。1日目は13時30分に小田原駅に集合すると、普通電車で1つ隣の足柄駅に移動。運転士や車掌が所属する足柄乗務所を訪れる。小田原駅に戻り、同駅でのロマンスカーの分割・併合作業を見学したり、引き上げ線の乗車体験をしたりする。

さらにロマンスカーMSE(60000形)を貸し切って海老名駅まで行き、海老名車庫を見学。再び小田原駅へ戻ると、貸し切りの普通電車で開成駅に到着。車内と宿泊所のテラスから入庫整備の様子を眺める。そしてようやくメインイベントとなる宿泊所での就寝となる。

翌朝は7時に起床し、今度は出庫作業を見学する。貸し切り普通電車に乗り、小田原駅で9時15分ごろ解散、という日程だ。

小田急には運転士や車掌が拠点とする喜多見、大野、海老名、足柄の4つの乗務所、新宿の出張所のほか、経堂や相武台、片瀬江ノ島など9カ所に宿泊所(外泊地)がある。そのなかで、なぜ開成の宿泊所をツアーのコンテンツとして選んだのか。

小田急電鉄の担当者、運転車両部技術員の新井友章さんは「この2、3年の間に小田急は鉄道資産を使ったさまざまなツアーを展開してきたが、お客さまに喜んでもらう一方で、乗務員には負担をかけてしまうという課題があった。乗務員側と『ウィン・ウィン』になるような企画をやりたいと考えていた」と背景を説明する。

なぜ開成に泊まる?

今回のツアーでは、普段宿泊している乗務員には代わりに近くの「ホテルとざんコンフォート開成」に泊まってもらうことにした。「お客さまは小田急の施設、乗務員はホテルに泊まって、双方とも非日常感でワクワクしてもらえるのでは」と話す。乗務員にとっては、同僚に気を使わずに自由に使える浴室やテレビがあるホテルの客室に滞在することが快適かつ非日常体験になる、という狙いだ。

開成を選んだのは、施設が独立している、泊まる乗務員の数が少ない、徒歩圏内にホテルがある、足柄乗務所が近く人の手配がしやすい、といった条件がそろっていたためだ。宿泊体験のアイデアは、近畿日本鉄道が2023年夏に吉野線の大和上市駅で「駅業務体験と駅舎仮眠(宿泊)体験」を実施したのを見て「勉強させていただいた」という。

今回、日曜の朝9時過ぎに小田原駅で解散としたのは「小田原・箱根エリアを観光でまわってもらいたい」という思いもある。新井さんは「今回はトライアルだが、できれば毎週のように土曜日に実施したい」と話す。乗務員にも何らかのメリットがある企画は、これから増えていくかもしれない。

橋村 季真:東洋経済 記者

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