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「ブラック・スワン」の根本原理とは「指数関数」 トランプが真剣に受け止めなかった「小論文」

東洋経済オンライン / 2024年7月24日 10時0分

「武漢で今起きていることは要注目だ」とタレブは言った。

バーヤムも同意見だった。

精鋭を集めた研究機関、ニューイングランド複雑系研究所(NECSI)の創設者バーヤムは、何年も前から世界的なパンデミックのアウトブレイクへの懸念を深めていた。彼はエボラウイルスに関して国連と共同研究を行い、このウイルスがアフリカからはるか遠くに飛び火しかけた様子をまのあたりにしていた。

2016年にバーヤムは「絶滅への移行─つながった世界におけるパンデミック(Transition to Extinction: Pandemics in a Connected World)」という報告書を執筆した。致死率の高い病原体は当初またたくまに広がった後、宿主をすべて殺して死滅する傾向がある。ほとんどの悪性の病原体が広く拡散しにくいのはそのためだ。

しかし今後はそうではない、とバーヤムは警告を発した。長距離移動が日常的になるとともに、「病原体が攻撃性を強め、宿主集団が全滅する臨界点が存在する。(中略)この段階を我々は絶滅への移行と呼んでいる。グローバルな移動のレベルが上がるとともに、人類の文明はこの臨界閾値に近づいているかもしれない」。

トランプ政権は迫る危機への対策を立てているのだろうかとタレブは思った。それを知ろうと、彼はホワイトハウスの国家安全保障会議にいる知り合いに電話した。「そちらでは武漢で起きていることを把握している?」とタレブはたずねた。「深刻に考えている?」。

「把握してますよ」と官僚は答えたが、2つ目の質問については答えられなかった。

トランプは新型コロナを真剣に受け止めているようにはまったく見えなかった。最高顧問たちもだ。官僚はタレブに懸念点のあらましを書いた小論をホワイトハウスに送ってくれないかと頼んだ。

タレブはバーヤムに電話した。「我々で何か書くべきだ」。1月24日のことだ。

パンデミックについての小論

タレブもバーヤムと同様、何年も前からパンデミックの不吉な数学的予測を研究してきた。数十年前に学んだ金融市場の特徴は、パンデミックとよく似た動きをした。

突然の暴落は、予測できないことの多い極端な事象だった――伝染病とパンデミックにそっくりだ。感染力の強いウイルスは指数関数的に広がり、大量死を招きうるのを彼は知っていた。『ブラック・スワン』でタレブはこう書いている。「私たちが地球上を旅行することが増えるにつれ、伝染病は重大化していく。(中略)非常に特異で重大なウイルスが世界に広まるリスクが私には見える」

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