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「発達障害で親から毎日叱責」彼女が見つけた幸せ 「障がい者向けマッチングアプリ」が導いた出会い

東洋経済オンライン / 2024年7月24日 12時30分

発達障がいが知られるようになり、理解も進んだように思えますが……(筆者撮影)

【画像】「出会いがほしいが、騙されないか不安で踏み出せない」と悩む人が多い

「自分は誰にも釣り合わない人間だ」。西日本に住むエミさん(仮名、30歳女性)は、そのように悩んでいました。

小学生の頃から数字の扱いが苦手だったという、エミさん。両親に「同級生や他のきょうだいと比べて、あなたは出来が悪い」と言われて育ってきました。

「その影響か、つねに『私は人と比べて何もできない人間だ』という考えが抜けませんでした。就職先では、仕事ができていたとしても『自分はできていない』と思い込んだり、わからないことがあっても『何もできない自分が他の人の業務を止めてしまうのはダメなことだ』と聞けずにいたりしていました」(エミさん)

「知り合いに障がい者だとバレてもいいのか」

そして5~6年前、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されました。それまで生きづらさを感じていた原因がわかりホッとしたものの、診断結果を伝えた両親からは「そんなわけがない、診断結果がおかしい」と言われショックを受けたと言います。

「障害者手帳を申請する際にも、『知り合いに見られたら恥ずかしいからやめなさい』と言われたり、『知り合いに障がい者とバレてもいいのか』などと散々言われ、健常者からどう見られるのかを気にするようになりました。学生時代の知り合いとも疎遠になってしまいました」(エミさん)

就職の際には両親からは教師になることを強く求められ、気が進まない教員採用試験を4年ほど受けさせられました。他の会社に就職することも許されない日々だったそうです。

それに伴い、ADHD以外にうつの症状も出て、具合はどんどんひどくなっていきました。ようやく両親が教師になることを諦めてくれたものの、その頃には就職活動をする気力は残っておらず、仕事を探すことは難しい状況でした。

当然、恋愛にも前向きにはなれませんでした。出会いがあっても、発達障害を持っていることが負い目になっていたと言います。

その後、アルバイトとして就職し、とある男性と知り合いました。

「その方に『お付き合いしてほしい』と告白された際、うつや障害を持っていることを打ち明けました。『それでも気にしない』と言ってもらえたものの、『何もできない人間だ』と昔から両親に言われてきた言葉が頭を離れず、告白を断ってしまいました」(エミさん)

そして、「男性とお付き合いしたい」という気持ちにもふたをしてしまいました。

障がい者の結婚の実態について情報は乏しい

昨年、軽度知的障害のある女性と健常者のラブストーリー『初恋、ざらり』というドラマが話題となりました。知的障害はなくとも、発達障害を持つ方の生きにくさや恋愛事情についても、メディアでは多く取り上げられています。障がいを持った方々が当事者として発信するようになり、理解は進んだかのように見えます。

しかし、結婚の実態については、いまだ健常者と比べて情報が乏しく簡単ではありません。

データが少し古くなってしまうのですが、内閣府「障害者白書 平成25年度版」によると、身体障害者で配偶者がいる人は60%と健常者に比べても若干多い傾向にありましたが、精神障害者は34.6%、知的障害者ではわずか2.3%です。

その結果を受けて、障がい者総合研究所が実施した意識調査によると、障がい者の方で結婚したいと回答したのが66%です。独身障害者の71%は障がいが結婚の支障になると思うと回答しています。

筆者が調べたところ、障がい者の結婚率についての公的な調査はこれしかありませんでした。それだけ情報が乏しいのです。障がいを持つ方が出会い、結婚することはまだまだ難しい現実があるようです。

エミさんはその後、障害者雇用で働くこととなりました。手取りは17万円。それまでのアルバイト生活と比べても生活環境が整ったと言います。おかげで自分のことを考える余裕が少し生まれ、出会いを求める気持ちも出てきました。

そこで、同じ悩みを持つ人とつながりたいと思い、大阪にある発達障害者が集まるカフェに行った際、障がい者向けのマッチングアプリ「IRODORI(いろどり)」の存在を知りました。

現在、累計ダウンロード数は4万以上と堅調に利用者を増やしているアプリです。報告された数だけでも200組以上のカップルが誕生しています。

年齢層は、20、30代が最も多く全体の約6割、次いで40代が多いそうです。ユーザーの約6割が精神障害者(発達障害やうつ病等)で、身体障害者は約2割、知的障害者は約1割程度といいます。

心配なのは、トラブルです。見ず知らずの人と高度なコミュニケーションが求められるマッチングアプリで、例えば、会話のキャッチボールが苦手とされる発達障害の方や知的障害の方が安全にアプリを使いこなすことが可能なのでしょうか。

「障害者手帳」または「お薬手帳」の提出を義務付け

「一般的なマッチングアプリでは、登録時に身分証の提出が求められず、年齢や性別を偽って相手を検索することが可能です。マッチングして相手にメッセージを送るタイミングではじめて身分証の提出が必要になるのが標準的な設計なのです。

IRODORIでは登録審査を厳格に行っており、登録時に顔写真、身分証、障害者手帳または障がいが軽度の方はお薬手帳の提出を義務付けています。顔がはっきりと写っていない写真は審査を通過できません」

そう語るのは、IRODORIの事業責任者の結城伊澄さんです。

結城さんは10代の頃、医師や臨床心理士からADHDの可能性を指摘されました。学生時代は学校生活に馴染めず息苦しさを感じたり、衝動的に学校を飛び出してしまったりすることもあったと言います。

そうした自身の経験に加えて、ある存在が結城さんの人生観を変えました。

「幼少期、近所に知的障害をもつ叔父が住んでいました。私にとって叔父は一緒に楽しく遊んでくれる“普通の大人”でした。でも、成長するにつれて、叔父が収入の安定した正規の仕事になかなか恵まれず、孤立しがちな生活を送っていることに気づいたんです」(結城さん)

その頃から結城さんは、叔父のような人の役に立ちたいと強く思うようになったと話します。大学卒業後には製薬会社のMRに就職。仕事では精神障害者の話を聞く機会が多くありました。そこで、障がいを打ち明けることに対する不安が、人間関係を築くうえで大きなハードルとなっていることを知ります。

そこで知人の精神科医と協力し、障がい者を対象にどんなことに困っているかを調査しました。その結果、悩みの半数が人間関係に関するもので、続いて多かったのが恋愛・結婚に関する悩みでした。特に回答が多かった悩みは、以下のようなものでした。

「外見で判断されず、趣味や好きなことを通したつながりがほしい」

「障害を打ち明けた瞬間に拒絶されたことがあり、傷ついた。障害を打ち明けることを躊躇してしまう」

「出会いがほしいが、騙されないか不安で踏み出せない」

この経験から、2020年に障害者向けのマッチングアプリを立ち上げようと決心し、2年の開発期間を経て、2023年IRODORIをリリースしたのです。

障がいを持った方が安心して利用できるように、前出の工夫に加えて、視覚障害者が登録しやすいように読み上げ機能を搭載しました。一般的なマッチングアプリはテキストメッセージが中心ですが、知的障害のある方から「文章が苦手」という意見をもらったためライブ配信機能(グループ通話)も追加しました。

また、女性ユーザーから「同性の友だちを作りたい」という要望があったため、期間限定で女性同士のマッチング機能も搭載したそうです。

「子どもは絶対かわいがれない」

前出のエミさんも、こうした機能に助けられ、新しい出会いに恵まれました。

実はエミさんはIRODORIに登録する際、プロフィール欄に「育てる自信がないから子どもは要らない」と明記していました。障害が遺伝するかもしれない、それに自分の収入で子どもを育てていけるのか心配だったからと話します。

「何より、親から言われ続けてきたことがずっと心に残っていて、どうしても自分のことを好きになれず、自分の血を受け継いだ子どもは絶対かわいがれないと思いました」(エミさん)

登録後間もなく、子どもに関して同じ希望を持つ35歳の男性とマッチングしました。アートやカフェ巡りが好きという共通点もあり、マッチングして1カ月ほど経ってからカフェで会う約束をします。

「最初はお互いにすごく緊張していてあまり覚えてないのですが、好きなものに対して真っすぐな印象がありました。『もっとどんな人か知りたいな』という気持ちが大きくなっていきました」(エミさん)

絵を描くことが好きといった共通点もあって次第に距離が縮まり、3回目のデートで告白されました。彼はASD(自閉スペクトラム症)でしたが、そのときに一度も女性との交際経験がないことを打ち明けられたと言います。

「でも、そういった条件はあまり気になりませんでした。今までADHDやうつであることが一番のコンプレックスでしたが、相手はそれを知っている状態からスタートできるので、とても安心感がありました。今までも隠していたわけではありませんでしたが、両親のことがあったので、障害のある私を受け入れてくれる人がいるということが何より幸せでした」(エミさん)

思考の読みにくい他人とどう付き合っていくか

この恋愛が実を結ぶかはわかりません。しかし、エミさんはようやく人と交流を深めること、そして自分自身を受け入れてもらえる喜びを知ることができました。

障がいを持っている人の恋愛。それは健常者よりも困難だとデータ上では示されています。エミさん自身はどのように感じていたのでしょうか。

「健常者との恋愛も、障がいを持った人同士の恋愛も、人との関わり合いという意味では違いはないと私自身は思います。でも、どうしても障がいがあるとうまくいかないことはありますし、コンプレックスに感じることもたくさんあります。自分の障がいや病気と向きあいながら、障がいの影響で思考の読みにくい他人とどう付き合っていくか、それはやはり難しいことだと思います」(エミさん)

菊乃:恋愛・婚活コンサルタント

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