「休まなすぎ上司」と「休みすぎ部下」に必要な視点 休暇制度が整っていても「休めない」人がいる
東洋経済オンライン / 2024年7月26日 8時0分
今年の夏は、例年以上に酷暑になるのではないか――。
【画像】「休まなすぎ上司」3つの理由、ポイントを見てみよう!
昨今「休み方改革」という言葉が浸透しつつある。ビジネスパーソンが休みを取りやすい環境を作る取り組みのことだ。
しかし政府や会社側が「休め」「休め」と言っても、なかなか従わない人もいる。特にベテランのほうが顕著だ。上位役職者が休まないので、部下たちも休めないという組織も少なくない。
ただ一方で、「休みたくても休めない」「休んだほうがストレスがたまる」という人もいる。それは、どういうことなのか? 大事なことはゴールデンウィークや夏休みなどを分散して取れるようにすることではなく、組織にかかる負荷(ストレス)を正しく分散することだ。
今回は「休まなすぎ上司」と「休みすぎ部下」の2つの視点で、この問題を掘り下げてみたい。組織の負荷分散を考えれば、本当の「休み方改革」が分かるはずだ。
「休まなすぎ上司」3つの理由
「休め」と言ってもなかなか休まない上司がいる。このような上司が休めない、疲れが取れない理由は何なのか? その理由は大きく分けて3つある。
(1)リーダーシップの誤解
(2)マネジメントの誤解
(3)プライベートの問題
上司が休まない、休めない一番の理由は「リーダーシップの誤解」にあると私は考えている。
リーダーシップについて誤解している人は、過剰な責任感を持っている。部下が成長できないのは自分の責任だと思い込み、ひどい場合は自分がその不足分を補おうとするのだ。しかし、これは根本的な誤解である。
リーダーの役割は、その名の通り部下をリードすること。部下を信頼し、成長を促すことにある。部下が失敗することも含めて、成長の一部だ。しかし過剰な責任感を持つ上司は、部下に任せることができず、すべての業務を自分でこなそうとする。
このようなアプローチは、部下の成長を妨げるだけでなく、上司自身の負荷を増やし、結果としてチーム全体の効率を低下させる。すると、余計にリーダーは休めなくなるという悪循環が起きる。
マネジメントの誤解とは?
「マネジメントの誤解」も、リーダーシップの誤解とよく似ている。マネジメントの言葉の定義を、多くの人が間違えているからこそ起こる悲劇とも言える。
そもそもマネジメントは、自分でやることだ。マネジメントを他人に任せていいのは、芸能人か経営者ぐらいである。
マネジメントとは、リソースを効果効率的に配分すること。タイムマネジメント、リスクマネジメント、コストマネジメント(原価管理)とも言うように、適切に調整することを指す。
部下はタレントではない。部下のリソースの調整まで上司がやろうとしたら、いつまで経ってもマネジメントスキルが上がらない。上司も自分のリソースを余計に使うはめになり、休まらないだろう。
最後に「プライベートの問題」だ。20代ならともかく、30代後半から40代にかけて、育児や親の介護、地域社会との関わりなど、仕事以外の責任が増える。常に気が休まらない状況が続く。この年代の上司は、仕事においても効率を上げることが難しく、疲れがどんどんたまってしまう。
意識やスキル、エネルギー、時間、そういったリソースは無限にあるわけではない。子どものことが心配。親の面倒でストレスがかかっている。そんな状態で、複雑な組織の問題に直面しているならば、当然休まらないだろう。
仕事が順調であれば、いい。家庭や地域のことにも精を出せる。しかし、そうでなければマネジメントに苦慮する。
なかなか疲れが取れない人は、限られたリソースの配分を見直したほうがいいだろう。人それぞれ事情が違う。
「あの課長も頑張っているのだから、自分もやらなくちゃ」
と受け止めるのはよそう。いつまで経っても気が休まらない。
「休みすぎ部下」たった1つの理由
一方、部下どうか?
上司に比べて休みすぎではないか、と思える部下がとても増えているように思う。「休みすぎ」といっても、仕事中に休憩しすぎとか、有給とりすぎとか、そういう話ではない。本来かけるべき負荷(ストレス)が足りなさすぎ、という意味だ。
筋肉でたとえると、分かりやすいだろうか。
上司の場合、これ以上鍛えられる筋肉は限られている。にもかかわらず、負荷をめいっぱいかけているので、筋肉が常に疲労している状態だ。
一方、部下はまだまだ鍛えられる筋肉がある。なのに負荷が足りないため、いつまで経っても筋肉が身につかない。負荷をかけすぎるのはもちろんダメだが、適正な負荷はかけていかないと、人生の荒波を乗り越えていけなくなる。
では、その理由とは何か? 理由は、フォロワーシップの欠如である。フォロワーシップとは何かを理解できていないから、負荷のかかる仕事を主体的にできないのだ。
フォロワーシップとは、リーダーをフォローすることではない。組織がよりよい方向に進むよう主体的に動いたり、メンバーに働きかけたりすることだ。
従ってフォロワーシップは、組織のメンバーになっている以上、常に求められる。たとえ新入社員であってもこの意識は必要だ。
しかし、その意識が乏しい若者が多い。若者自身の問題もあるかもしれないが、
「それぐらい、言わなくてもわかるだろう」
と考えている会社側にも責任はあるだろう。
ボート競技で考えてみれば分かりやすいか。8人のメンバーでボートを漕ぐ場合、いくら自分が新人だろうが、勝つために力を尽くさなければならない。ほかのメンバーで不足している部分があれば、何とかカバーしようと意識すべきだ。休んでいる暇などない。
しかし、周りから指摘されない限り漫然と漕いでいるメンバーがいたらどうだろう?
「休むな」
「自分ができることを考えろ」
と注意されるに違いない。
チームにはリーダーシップが不可欠だ。しかしリーダーシップだけで組織がまとまる時代ではない。「競争から共創の時代」と言われて久しい。共に創っていく時代なのだから、メンバーそれぞれのフォロワーシップが十分に備わっていることが、現代の組織の前提条件なのだ。
大事なのは負荷バランスの"正常化"
若者は、経験を積むまでは必要なリソースとしてアテにされない。ボート競技であれば、戦力になるまではひたすら練習を繰り返して、実力を認めてもらうしかない。そうしないとボートに乗せてもらえないだろう。
しかし一般的な企業では、どうなっているか?
先述した通り、声をかけられない限り主体的に動かなかったり、まだ実力が足りないのにもかかわらず、自己研鑽を怠る。そんな若者がいる。ハードワークよりもワークライフバランスを優先してしまうのだ。
この状況を変えない限り、「休まなすぎ上司」はなくならないだろう。十分に漕がず、期待通りのスピードでボートが前に進まないのなら、リーダーが部下の分までボートを漕ごうとするからだ。
休んでいるかどうかは、何にどれぐらい負荷をかけているか。そこで推し量ることができる。表面的な労働時間や、有給取得率などで計測すべきではない。
大事なことは休むことではない。正しいストレスマネジメントだ。労働時間が減らされて、よけいに負荷がかかっている現場はとても多い。
・労働時間を減らす
・休みを増やす
このことで、
・組織全体の負荷が減る
という結果が得られるならいい。しかし、そんな単純なものではない。組織全体の負荷を公正に配分することだ。それも視座を高くし、先を見通したうえで配分するのだ。
何度も立ち止まって見つめ直そう
目先の負荷分散だけを考えたら、どんどん組織の負荷は偏り、「休まなすぎ上司」と「休みすぎ部下」の格差がハッキリしてしまうだろう。上司の疲労はドンドンたまっていくし、若者はいつまで経っても成長しないしで、両者にとって決していいことはない。
上司は正しいリーダーシップを、部下はフォロワーシップを学ぼう。すぐに負荷バランスが公正になるわけではないが、何度も立ち止まってバランス配分を見つめ直すのだ。いったん立ち止まらないと全員の視座を上げることはできないからだ。
誰がどれぐらい労働時間を減らすのか、休みを取るのか、休みの時間に何をやるのかを考えるのは、それからである。
横山 信弘:経営コラムニスト
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