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ヴィレヴァン300店巡って見えた「人材育成の失敗」 POPを書けない、サブカルに疎い店員増加の背景

東洋経済オンライン / 2024年7月27日 13時0分

もっとも、時代が経っているので、『菊地らしさ』をそのまま継承するのは難しいだろう。だからこそ、“菊地ミーム”を現代にリブートさせる必要があるわけだが、ヴィレ全さんによると、ここにさらに「賃金」の話が絡んでくるという。

「ヴィレヴァンのバイトは、基本的に最低時給なんです。書店業界では珍しいことではないですし、以前までなら、それでもよかったんだと思います。

かつての本店などで働いていた人は、自分の『サブカル』観を持っていて、なんなら自分の店をやろうか、と思っていたような人たち。そういう人たちに、ヴィレヴァンという店の一角で好きなものを仕入れさせて販売させるのが昔のヴィレヴァンの形で、いわば、『自分の店を持つ前に、好きなものを売るための販売方法を身に付けられるチャンス』だった。だから、最低賃金でも楽しくできていた。

ただ、今ヴィレヴァンで働く人達全員が、そういう強烈な自己を持っているかといえば、そうではない。『なんとなく面白そうだし、働いてみよう』と思ってやって来る人がほとんどです。だから、そこで面白い売り場が作れるかというと作れない。かといって、いろいろ学ぶといっても、最低賃金だと金銭的にも限界がある。だから、『ヴィレヴァン』が継承してきた『サブカル』を学べないんです」(ヴィレ全さん)

文化を学ぶにも、余裕が必要である……。映画『花束みたいな恋をした』は、主人公たちの実家の太さと文化への熱量が論じられることがあるが、そういう意味ではヴィレヴァンの労働事情も、とっても現代的な話だ。若者に余裕がない現代では、「専門性は自分で身に付けてね」ではダメだということか……。

正社員登用のハードルの高さも、人材の育成の壁に

取材中、そんなふうに考えていた筆者をよそに、ヴィレ全さんはより本質的な指摘を続ける。

「現場の人たちに話を聞いてると、『この仕事は好きだけど、長く働ける職場ではない』といった声を多く聞きます。背景にあるのは、正社員登用のハードルの高さ。同社ではバイトを経てバイト店長になり、その後、正社員になる人が多いのですが、想像以上に難しいみたいなんですよね。

なかなか正社員になれないと、当然ながら自分の生活が成り立ちません。若い人も多いので、『バイト店長のままでは厳しい……』と考えて、職場を離れてしまう人が少なくないそうなんです」(ヴィレ全さん)

もちろん、採用事情は時期によっても異なるはずなので、「私はすぐに正社員になれた」という人もいるだろう。しかし、ハードルの高さは昔からあったようだ。例えば2006年、『商業界』のインタビューで創業者の菊地氏は以下のように語っている。

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