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子ども服で"炎上"「男性下げ」が禁句となった背景 かつては「おっさんの発想だ」なども許されたが…

東洋経済オンライン / 2024年8月1日 15時45分

地方郊外に多く出店し、子育て世代に人気の子ども用品店「バースデイ」(撮影:風間仁一郎)

大手衣料品チェーン「しまむら」グループの子ども用品店「バースデイ」の新商品(7月29日発売)に関し、批判が噴出した。

【写真】すでに公式Xから削除された「問題の商品」<パパはいつも寝てる>

本商品は、現代美術作家の加賀美健さんとコラボしたTシャツや靴下だが、商品に印字されている「パパは全然面倒みてくれない」「パパはいつも帰り遅い」「パパはいつも寝てる」「ママがいい」といった文言に対し、「男性差別ではないか?」といった批判がなされたのだ。

こうした批判を受け、発売翌日の7月30日には、バースデイは公式X(旧Twitter)アカウントなどで「ご不快な思いをさせてしまう表現がありましたこと、深くお詫び申し上げます」「今後この様なことがないように、お客様視点に立った商品企画を行ってまいります」といった謝罪文を掲載、販売中止を決定した。

批判が起きることは十分想定できるような企画であったし、この商品の表現も「完全にアウト」と言ってよいだろう。SNSやネット記事では、「なぜ担当者が事前に気づかなかったのか?」と疑問視する声も少なくなかった。

筆者は、担当者が事前に批判を予想できなかったのは、今回のような「男性を下げる表現」が過去に炎上し、取り下げになったケースが少ないことによると考えている。

この点について詳しく見ていきたい。

過去の“炎上”の大半は女性に関するもの

これまでのジェンダー表現に関する炎上事例を見ていても、大半は女性に関するもので、主に下記のようなものだ。

1.外見・容姿に関するもの(ルッキズムや性的な表現)

2.ジェンダーバイアスに関するもの(男女に関する性役割や固定観念)

今回のケースは2に当たるが、やはり男性を描いて炎上したケースは少ない。

直近では、大正製薬の「リポビタンD」の電車内広告に関して起きた議論も、女性の性役割の固定を想起させるものだった。

男性を描いて炎上したケースとして思い出されるのが、2017年の「牛乳石鹸」のWEB動画「与えるもの」篇だ。

本動画は、「がんばるお父さんたちを応援するムービー」と銘打たれており、父親の視点から描かれている。家庭的な父親になろうと、葛藤しつつも奮闘する男性の姿が描かれるのだが、息子の誕生日に上司に叱られていた後輩をねぎらうために飲みに行ってしまう。このシーンが女性を中心に批判を集めた。

この動画は、男性の“身勝手な”行動を擁護するような内容であったから批判されたのであり、男性を落としていたわけではない。

20年ほども前のことになるが、「女は変わった。男はどうだ」というキャッチコピーの日本経済新聞の駅貼り広告があった。筆者はこの広告を見て引っかかりを覚えたが、問題だとは思わなかったし、炎上もしていなかった。

2011年には、コカ・コーラの缶コーヒー「ジョージア」の「男ですいません。」というシリーズCMが放映されていた。「男は○○」という表現が多用されていたが、炎上はしていなかったし、むしろ「良いCMだ」と好評だった。

このCMは、男性を落とすものではなく、むしろ肯定するような内容だったが、現在であれば「男性のイメージを固定化している」という批判を浴びた可能性はある。

今回の「バースデイ」で使われた文言は、コミカルではあるが、明確に「男性を下げる」ような内容だったし、子ども用の商品であったことも問題であったと思う。

父親のイメージを固定するメッセージ性だけでなく、それを子どもに着用させることで、「母と子が結託して、父親をないがしろにする」という構図ができてしまう。

“強者”と“弱者”が入れ替わる時代へ

商品や広告に関わるものに限らず、表現の世界では(社会的)弱者が強者を叩くことは、(ある程度まで)許容されている。つまり、実社会の力関係と、表現の自由度は逆転しているのだ。

「それはおっさんの発想だ」と言っても批判されにくい(筆者も何度か言われたことはある)が、「それはおばさんの発想だ」と言うと批判されやすい。

権力のある男性が「女性は○○だ」と言えば「決めつけだ」「女性蔑視だ」と大きく批判される(実際、森喜朗氏はそうした発言によって東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長職を辞任した)。

一方で、女性の論客が「男性は○○だ」と言っても、さほど激しく批判はされない。

そうした“非対称性”が黙認されているのは、「男性のほうが女性よりも強い」という社会的通念があるからだ。

しかし、現在は“強者”と“弱者”の境界は曖昧になってきている。上司は部下に、教師は生徒に、大人は子どもに、夫は妻に対して、気を遣うことが求められている。もちろん、まだ上下関係は残っており、完全に平等になったとは言い難いのだが、関係性は変化しているし、多様化もしている。

タレントのフィフィさんは、都知事選の直後に下記のようにXに投稿し、多くの共感の声を集めていた。

「叩かれたら #女性蔑視 のバッシングだなんてすり替えないで下さい。日頃の言動を真摯に受け止めて反省することもできないから支持されないんです。批判して追い込まれたら女性を盾に被害者ぶる、同じ女性としてハッキリ言います、迷惑です。女性は“弱い”と見下して利用してるのはむしろこうした人達」

フィフィさんの発言の是非はさておいて、「女性は弱い」という社会的通念は薄らいでいることは確かだろう。

“強者を落とす”表現に注意

話題を戻すと、バースデイの商品に記された「パパはいつも帰り遅い」「パパはいつも寝てる」という言葉は、すでに現実からずれていたように思う。

女性も働くことが通常になっている現代では、妻のほうが帰宅が遅い家庭も少なくない。子どもの送り迎えをはじめ、子育てを分担している家庭も多い。

筆者の知人には「夫はほぼ在宅勤務で、妻は出勤」という共働き世帯が何名もいる。コロナ以降は、「パパはいつも帰り遅い」どころか、ずっと自宅にいる父親も少なからずいるのだ。

だから「いつも寝てる」という状況が、母親より父親のほうに当てはまるとは限らない。

そうした意図はないのかもしれないが、母親側が専業主婦であることを前提とした物言いのようにも受け止められる。そうした点では、多くの女性から共感を得られる商品でもなかったように見受けられる。

男性を落とす表現が炎上したケースは少ないと書いたが、いまの世の中には、男女に限らず、もとは“強者”とされていたが、そうではなくなった人を落とそうとする発言は少なくない。いずれ、問題になるケースは他にも出てくるだろう。今回のケースを「他人事」と思わないほうがいい。

西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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