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ルネサス閉鎖工場の復活に元社員「複雑な気持ち」 甲府工場が10年ぶりに再稼働、地元の反応は?

東洋経済オンライン / 2024年8月5日 8時0分

民家と田んぼの中にたたずむルネサスエレクトロニクスの甲府工場。元社員の男性は「ここから工場がよく見えるんです」と案内してくれた(記者撮影)

半導体業界がざわついている。震源地は時価総額で一時、世界一となったアメリカのエヌビディアだ。AI半導体ブームに乗って急成長し、マイクロソフトなどGAFAMも一目置く。『週刊東洋経済』8月10日・17日合併号の特集は「半導体 覇権」。日本勢は巨額投資で巻き返しに必死だが……

「裏切られた気持ちはいまだに持っています。本来は喜ばしいことなのですが、正直、複雑な気持ちです」

【様変わりしたルネサスの業績】2019年を底にV字回復

こんな思いを吐露するのは、ルネサスエレクトロニクス甲府工場に勤務していた男性だ。地元の山梨県南アルプス市に住み、当時は日立製作所だった甲府工場に就職。2014年に閉鎖されるその日まで勤務を続けてきた。

当時、工場周辺には日立の研修所や社員寮が建ち並んでおり、最大で1000人規模の従業員が働く「企業城下町」として栄えていた。

2010年に発足したルネサスエレクトロニクス。日立製作所・三菱電機のロジック半導体部門の統合で誕生したルネサステクノロジに、NECエレクトロニクスが合流して誕生した。

”日の丸”を背負った半導体メーカー

が、業績悪化を受けて2013年に官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)が1383億円を出資。INCJが最大69%の株を保有したことを受け、”日の丸半導体メーカー”となった。これまでルネサスは工場への投資を絞る「ファブライト」戦略を進めてきた。2013年に3.3万人だった従業員は、2015年は2万人にまで激減。複数工場の閉鎖・売却に大ナタを振るった。

INCJは2023年末に全株を売却し、ようやくルネサスは“普通の会社”となった。2013年に2000億円に満たなかった時価総額は、足元で4.5兆円となっている。

ルネサス復活を印象づける出来事の1つが、山梨県にある甲府工場の再稼働だ。同工場は2014年10月、経営危機時にルネサスが拠点のリストラを進める中で閉鎖した工場の一つ。新たに工場を稼働させるのは2010年の会社発足後初のことだ。

冒頭の男性が続ける。「閉鎖される直前にルネサスが出した計画では、甲府は残されることになっていた。それが土壇場でひっくり返されたことには今でも煮え切らない思いがあります」。

閉鎖後は当然、ルネサスの全従業員は撤退。日立時代から地元住民に愛されていた近所の食品スーパーも数年前に営業を終了した。地元経済がいかにルネサスの工場に支えられていたかがうかがい知れる。

パワー半導体の生産能力を増強

甲府工場で製造するのは、電力の制御を担うパワー半導体。EV(電気自動車)向けに加えて、多くの電力を使うデータセンター向けにも需要が高まっている。投資額は約900億円で、2025年1月から量産を始める予定だ。

閉鎖直前まで新棟の建設は行われており、閉鎖以降も取り壊されることなく建屋が残っていた。今回の再稼働で活用するのはその製造棟だ。経済産業省から「特定重要物資の供給確保計画」にも認定され、投資の助成も受ける。この工場の稼働で、ルネサスはパワー半導体生産能力を現状の2倍に増強する。

今年5月に行われた会見では山梨県の長田公副知事も駆けつけ、地元経済への影響を歓迎した。甲府工場の再稼働から見えてくるのは、半導体企業の栄枯盛衰とその決定に翻弄される地域の姿だ。

石阪 友貴:東洋経済 記者

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