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「暴落時にだけ利益を上げるファンド」の正体 「ブラック・スワン」的リスクとどうつきあうか

東洋経済オンライン / 2024年8月7日 11時0分

本書にはシカゴ商品先物取引所(CBOT)をモノポリーゲーム盤にたとえるくだりがある。CBOTのトレーダーだったスピッツナーゲルは投資の師匠から伝授された戦略を忠実に守り、底辺から頂点めざして着実にステータスを上げていく。

経験と勘で山を張り、当てれば大きいが大損もするトレーダーたちと彼の違いは、リスク管理をしているかどうかだった。損が出ればすぐに売るルールを地道に貫く。「静観せず、早い段階でパニックを起こせ!」。この言葉に象徴されるリスク管理が投資成功の極意だ。

しかし彼は頂点を目前にしてCBOTを去り、オプション取引というゲーム盤に乗り換えた。コンピュータ取引が台頭し、立会場に未来はないと見切りをつけたからだった。オプション取引の世界でも、リスク管理が他のトレーダーたちとスピッツナーゲルの明暗を分けた。

スピッツナーゲルがヘッジファンドの覇者への道を邁進する一方、ナシーム・タレブは投資リスクを超えて人類の存亡リスクに関心を広げた。パンデミック、遺伝子組み換え生物、気候変動。投資とは異なり、地球というゲーム盤は乗り換えることができない。人類や地球全体に害が及ぶシステミック・リスクはどう管理すべきか。タレブは「予防原則」という概念にたどりつく。

予測できないシステミック・リスク(ブラック・スワン)が存在する、というタレブに対し、ある程度は予測し管理できる(ドラゴンキング)と信じる経済物理学者ディディエ・ソネット。

ゴールドマン・サックスのリスク管理部門長を務めた後に気候変動問題の世界に転身し、気候変動リスクに価格をつけるという金融のアプローチから問題の解決をはかろうとするロバート・リッターマン。

ブロックチェーンを利用してシステミック・リスク保険という新しい分野を切り拓こうとしているマルクス・シュマールバハ。

本書は個性的な人物たちを登場させながら、リスクに対するさまざまな角度からの向き合い方を紹介している。

リスクとどうつきあうか

2024年は梅雨明け前から気温40度に迫る猛暑日が続いた。世界ではインドなど50度に達する地域もある。気象が激甚化しているという話はすでに耳新しいものではなくなった。

本書の後半は、金融市場から地球全体のリスクへと視点のスケールが広がる。太陽ジオエンジニアリングやNASAのDARTプログラム(地球を小惑星の衝突から守る実験)まで出てくる本書は、問題を一刀両断する解決策を示してくれるわけではない。

しかし、膨大な取材をもとに読ませるエピソードをたたみかけながら、「リスクとどうつきあうか」を考えさせてくれる本である。

月谷 真紀: 翻訳家

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