トランプ陣営の攻撃犬になったベストセラー作家 「トランプ後継」バンス副大統領候補の素顔(上)
東洋経済オンライン / 2024年8月17日 11時0分
バンスを有名にしたのは、2016年に出版され、ベストセラーとなった少年時代の回顧録『ヒルビリー・エレジー』である。バンスがイェール大学法科大学院2年生の時、教授に少年時代の体験をもとに回顧録を書くように勧められたことが執筆の動機である。
同書は、保守的で、貧しいアパラチア地域に住む白人労働者の生活の実態を赤裸々に描いた。バンスが生まれたオハイオ州ミドルタウンはアパラチア地域の一部である。そして、ミドルタウンは「ラスト・ベルト(錆付いた地域)」と呼ばれる荒廃した元産業地域の一部でもある。
かつては石炭産業や製造業が栄えた地域であるが、産業の衰退とともに人々は貧しい生活に陥った。多くの住民は貧しさゆえに、アルコール中毒や薬物依存、家庭生活の崩壊に苦しむ一方で、敬虔なキリスト教徒でもある。バンスも、両親は離婚し、母親は薬物依存症で、幼少期は貧困と虐待に苦しんだ。
バンスは、アパラチア文化を「社会の衰退に対抗するのではなく、ますます衰退を促進する文化」と呼び、「悪い状況に対して最悪の形で反応する」絶望的な社会であると描いている。暴力と無責任、怠惰、そして「自分以外のすべての人を責める」社会であると手厳しいコメントをしている。
バンスは厳しい環境を抜け出すために、高校を卒業すると、海兵隊に入隊した。軍隊に入るのは、アメリカでは貧困から抜け出す有効な手段である。除隊すると「GI法(復員兵保護法)」で大学進学の奨学金がもらえる。
バンスは除隊後、地元のオハイオ州立大学に進学し、2013年にイェール大学法科大学院に入学している。卒業後、短期間、弁護士として働いた後、サンフランシスコに移り、ベンチャーキャピタルで働く。その後、オハイオ州に戻り、自らベンチャーキャピタル企業を設立した。2022年にオハイオ州上院議員選挙に立候補し、勝利している。そして一気に副大統領候補にまで駆け上った。まさに「アメリカンドリーム」を実現した人物である。
バンスはかつては「反トランプ」を主張していた。彼の反トランプの立場は2016年7月4日のリベラル派の雑誌『The Atlantic』に寄稿した「Opioid of the Masses(大衆のオピオイド)」に端的に表現されている。寄稿したのは、2016年の大統領選挙が行われている最中である。彼は32歳であった。バンス議員は次のように書いている。
真っ当なるトランプ批判を展開していた
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