米IBM、中国の「研究開発拠点」をすべて閉鎖の内幕 中国政府のセキュリティ強化で事業環境激変
東洋経済オンライン / 2024年9月9日 18時0分
アメリカのIT大手のIBMが、中国に置く研究開発拠点をすべて閉鎖することがわかった。
【写真】中国の顧客向けのITソリューションを紹介するIBM中国法人のウェブサイト
具体的な対象はIBM中国開発センター(CDL)とIBM中国システムセンター(CSL)の2拠点。IBM中国法人の従業員によれば、CDLでは1000人超、CSLでは695人が働いており、人員整理が実施される見通しだ。
CDLとCSLは1999年に開設され、前者はアプリケーション・ソフトウェアの開発、後者はデータセンター向けのシステム開発などを手がけてきた。両拠点は1995年に開設され2021年に閉鎖されたIBM中国研究院(CRL)と並び、中国における3大研究開発拠点に位置付けられていた。
研究開発を中国国外に移転
財新記者はオンラインで開催されたCSLの社内会議のメモを独自に入手した。それによれば、この会議にはIBM本社のグローバル・エンタープライズ・システム開発担当バイス・プレジデントのジャック・ハーゲンロザー氏らが参加したが、従業員への説明は一方的だったようだ。
ハーゲンロザー氏は、CSLの閉鎖について「全世界の顧客とビジネス戦略をサポートするため、研究開発業務を別の海外拠点に移転することを決めた」と述べた。中国における関連業務は数年前から縮小が続いており、研究開発拠点の移転は「事業環境の変化と激しい競争に対応するため」だと釈明した。
さらにメモによれば、ハーゲンロザー氏は「われわれは中国におけるすべての研究開発業務から撤退しつつある」とも発言した。
財新記者の取材に対して、IBMの中国法人は「わが社は必要に応じて業務の見直しを行う」と回答し、CDLとCSLの閉鎖について否定しなかった。と同時に、「グレーター・チャイナ地区の顧客に対するサポートが影響を受けることはない」とし、事業面の影響は軽微だと強調した。
IBMの中国進出は40年前の1980年代に遡る。同社のサーバーは中国の金融機関や通信事業者に広く導入され、オラクルのデータベースとEMCのデータストレージとともに基幹業務システムのデファクト・スタンダード(事実上の標準)を形成していた。
米中対立の激化が逆風に
ところが、アメリカの情報当局による広範な情報収集が暴露された2013年の「スノーデン事件」をきっかけに、風向きが大きく変わった。中国政府は(国家安全保障上の懸念から)基幹業務システムやインターネットの安全性の管理・監督を強化し、IBMのサーバーを含む外国製品に頼らない情報セキュリティの確保を急いだ。
さらに2018年以降、アメリカ政府が中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)や華為技術(ファーウェイ)などに次々と制裁を課したことで、米中のIT産業のデカップリング(分断)が進行。その結果、(IBMの競争相手である)中国のIT企業が政府の支援を受けて実力を急速に高めた。
こうした事業環境の激変が、IBMの中国事業の逆風になったことは言うまでもない。同社の決算報告書によれば、中国を含むアジア太平洋地域の2023年の売上高は前年同期比6.5%増加したが、中国事業の売上高は逆に同16%減少した。
(財新記者:劉沛林)
※原文の配信は8月26日
財新 Biz&Tech
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