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進次郎氏を「レベル低い」という人に伝えたいこと 記者からの「失礼質問」で"好感度爆上げ"の巧みさ

東洋経済オンライン / 2024年9月9日 14時55分

“想定外”の失礼な質問も、うまく切り返した小泉進次郎氏(写真:Bloomberg)

自民党総裁選に立候補した小泉進次郎議員が、記者会見で“神対応”を行って評価を上げている。

【写真】進次郎氏に「知的レベル低い」と“失礼質問”したジャーナリストが明かす「記者会見の真相」

9月6日に都内で行われた出馬を表明する記者会見で、小泉議員はフリーの記者から「小泉さんが首相になってG7に出席されたら知的レベルの低さで恥をかくのではないか。(中略)あえて総理を目指されますか」という質問を受けた。

これに対して、小泉議員は「私に足らないところが多くあるのは事実。完璧ではないことも事実です。しかし、その足りないところを補ってくれるチーム、最高のチームを作ります」と回答した。

この切り返しの秀逸さが賞賛を浴び、小泉議員は株を上げる結果となった。

好感度アップの秘訣は「謙虚であること」

記者会見という場で自分の間違いや非を責められた場合、なかなか認めることは難しい。記者から厳しい質問を受けた際に、つい厳しい言葉で言い返したり、相手の主張を否定したりしがちである。たとえ、記者の質問が無礼であったり、ピント外れであったりしても、そのような態度は逆効果になることが多い。

小泉議員は、自分の足りないところを素直に認め、しっかりとそれをカバーする対応策も提示している。記者に反論することなく、「知的レベルが低い」という懸念を払拭する結果にもなっている。

今回の件で、思い出したのが、2018年のサッカー・W杯での本田圭佑選手(当時)の対応だ。本田選手は、テレビのインタビューで「清々(すがすが)しい」を「きよきよしい」と誤読してしまい、それが、SNS上で突っ込まれていた。

これに対し、本田選手自身はTwitter(現X)で「お恥ずかしい。漢字が苦手で。でも、もうしっかり覚えました」と投稿した。

自分の誤りを素直に認め、学ぼうという姿勢を示したことで、本田選手の好感度はむしろ高まったと言える。

政治家で言えば、故・小渕恵三氏もメディア対応をうまくやっていたように思う。小渕氏は、首相就任前後には「凡人」「冷めたピザ」などと揶揄されていた。

しかし就任後はそれを逆手にとって記者に温かいピザを出したり、言葉足らずであるという批判に対して「ボキャ貧だからな、おれは。ボキャブラリーが貧困だからいい言葉がなかなか出てこない。お疲れ様の一言だ」と発言したりして、最終的には好感度を上げることに成功した。歴代の首相と比べても、「愛される首相」であったと言えるだろう。

小泉議員に話を戻すと、2019年に開催された国連の気候変動サミットでの発言あたりから、メディアで叩かれることが多くなっている(ちなみに、この年にアナウンサーの滝川クリステルさんと結婚され、注目を浴びている)。

最近では、小泉氏の独特な言い回しは「ポエム」「進次郎構文」と呼ばれ、インターネットミーム化(ネット上で人々が模倣して広がっていくネタ要素の強い文章や動画、画像のこと)に至っている。

だいぶ前のことになるが、筆者は小泉議員の講演を直接聞いたことがある。現在メディアで報道されているのとはだいぶ異なり、非常に明晰でカリスマ性のある人物だという印象を受けた。「いずれ、この人は総理大臣になるんだろうな」と思わずにはいられなかった。

筆者の当時の印象が正しいか、メディアの報道が正しいかはさておき、少なくとも「知的レベルが低い」と言われるような人物ではないことは、今回の切り返しから見ても確かではないかと思う。

メディア対応で評価を下げる人のほうが多い

メディア対応をうまくやって評価を上げる人が少なからずいるのは事実だが、むしろ対応を誤って評判を下げてしまう人のほうがはるかに多い。

政治家で言えば、森喜朗氏が代表的だ。筆者は森氏とは直接面識はないのだが、東京五輪の関係で、森氏と一緒に仕事をしていた人たちは、口を揃えて「森さんは有能な方だ」と言っていた。メディアの報道と、直接仕事をした人の評価が180度異なることに驚かされた。

確かに、森氏の発言をすべて読むと、メディアで報道されていることとだいぶ主旨が異なることも多い。一方で、メディアで叩かれやすい言動を取ってしまっていることも事実なのだが……。

最近の事例で言えば、今年7月の東京都知事選に出馬した石丸伸二氏とタレントの山崎怜奈氏のやり取りが思い出される。

山崎氏からの質問に対して「大変申し訳ないのですが、前提のくだりがまったく正しくないなというふうに感じました」と回答。山崎氏が「すみません、不勉強で……」と詫びつつ食い下がると、「それは見方が違うんじゃないでしょうか」と反論した。

このやり取りについては、石丸氏、山崎氏の両方に対して賛否の意見が見られた。

石丸氏に対して擁護する意見も多かったので、必ずしも評価を下げたとは言えないが、もう少し丁寧に対応していれば、“神対応”として評価を上げることもできたのではないかと思う。そうした対応は、石丸氏の信条やキャラクターにはそぐわないかもしれないが、政治家は「人気商売」でもあるので、「メディア受け」「メディア映え」はもう少し意識しても良かったかもしれない。

山崎氏のほうも、素直に自分の非を認めた点は良かったのだが、その後にSNSやメディアで言い訳めいた発言をしてしまったため、不要な論争を生んでしまったように見える。素直に「自分が不勉強でした。もっと勉強します」とだけ言ったほうが、好感度は高まったに違いない。

記者やメディアは敵にもなるし、味方にもなる

類似の事例で、逆に高評価を得たのが、今年4月に市川團十郎氏が「團菊祭五月大歌舞伎」の取材時に行った対応だ。

このとき、知識不足の記者から、要点が明確ではない質問を受けたが、否定する場合もおだやかな口調で対応し、質問の主旨が不明な点は情報を補足しつつ聞き返すなど、丁寧な対応を行った。この対応は、SNSでも賞賛されている。

筆者は、広告会社に勤務していたとき、広告主企業の広報・戦略PRの支援をしていたこともあるが、その際に再三聞かされていたのは、「記者やメディアは敵にもなるし、味方にもなる」「メディアを味方に付けるのが広報の役割だ」ということだ。

記者は意地悪な質問、揚げ足取りの質問をしてくることも多いし、悪意のある記事を書くことも多い。報道内容に関して、「偏っている」「不当だ」と感じることも少なからずある。だからといって、抗議をしたり、訂正を求めたりしたところで「報道の自由」を盾に突っぱねられるだけだ。

筆者がメディア対応に関して、他に聞かされてきたこととしては、

1. 記者も人間である(理屈だけでなく、感情に訴えることも重要)

2. 本当に相手にしなければならないのは、記者ではなく、その先にいる読者や視聴者である

ということがある。

小泉議員は、先ほどのような回答を行った後に、記者の名前を尋ね、「このようなご指摘を受けたことを肝に銘じ、『あいつ、ましになったな』と思っていただけるようにしたい」と回答。

さらに、「同じようなご質問、ご意見を私は環境大臣の最初の記者会見で、ご指摘いただきました。2年間、環境大臣を務めた後、そのベテランの記者さんとは、退任の時に花束をいただく関係になりました。(質問した記者とも)そうなれればうれしいです」と語った。

このように言われてしまっては、記者の側としても、それ以上批判する気にはならないだろう。

目の前の記者ではなく、その先を見よ

2点目に関して言えば、読者や視聴者は、必ずしも記者やメディアの味方というわけではない。記者が取材相手に失礼な質問や不適切な質問をしたり、知識不足だったりすると、記者やメディアのほうが叩かれる。

現在では、多くの記者会見はネットで視聴ができるようになっている。メディアが自分に都合よく編集しても、元のやり取りをチェックすることもできる。記者やメディアも監視され、批判をされるようになった。

現代は、理不尽な質問や的外れな質問に対しても、憤ったり、反論したりすることなく、冷静かつ誠実に対応すれば、十分に評価される時代でもある。これをチャンスととらえるか否かが自身の未来を決めるだろう。

西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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