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小田急ロマンスカー「VSEと性格真逆」EXEの将来 通勤と観光に柔軟対応、次世代特急で置き換え

東洋経済オンライン / 2024年9月11日 7時0分

2023年に完全引退した小田急ロマンスカーのVSE(左)と、現役のEXE未更新車。EXEは将来的にVSEの後継車両に置き換えられる(記者撮影)

東京・新宿と箱根または湘南を結ぶ小田急電鉄の特急ロマンスカーは、観光と通勤の両面で毎日多くの人に利用されている。同社が新たな拠点を置く神奈川県海老名市にも「ロマンスカーミュージアム」を設けるなど、「小田急の顔」であることは昔も今も変わらない。

【写真40枚】こんなのロマンスカーじゃない!と子供を泣かせたEXE(30000形)の未更新車と、いまはもう見られないVSE(50000形)の外観や車内、運転席を車両基地で独占取材

国内外から訪れる観光客には大きな前面窓の展望席を備えた車両、通勤客には乗車定員が多く柔軟な運用ができる車両をそろえ、それぞれのニーズに応えてきた。

VSEの後継車両でEXEを代替

同社は9月9日、2029年3月の運行開始を目標とする新型ロマンスカーの設計に着手したと発表した。内外装デザインは新たにCOA(コア)一級建築士事務所、車両設計は従来の日本車輌製造が担当する。設計の着手は9月2日付。今後、約1年かけてコンセプトやデザインの検討を進めていくという。

【写真】こんなのロマンスカーじゃない!と子供を泣かせたEXE(30000形)の未更新車と、いまはもう見られないVSE(50000形)の外観や車内、運転席を車両基地で独占取材(40枚)

同社は新型ロマンスカーについて「これまでの伝統や歴史、たくさんのお客さまとともに育んできたロマンスカーブランドを継承しながら、国内外のお客さまに一層上質な移動時間を提供できる車両にしていきたい」と説明。そのうえで、現役のロマンスカーのなかでもっとも古いEXE(30000形)未更新車の「代替」、すでに引退しているVSE(50000形)の「後継」と位置づけた。

現在運用中のロマンスカーには1996年登場のEXEと、2008年デビューのMSE(60000形)、EXEをリニューアルして2017年以降に就役したEXEα、2018年に営業運転を開始したGSE(70000形)がある。

新型ロマンスカーの代替対象となるEXE自体は、1963年登場のNSE(3100形)を置き換える目的で開発された。歴代ロマンスカーで初めて、10両編成を6両と4両で分割・併合できる構造を採用し、柔軟な運用を可能にした。分割した場合、片側の先頭車両は自動ほろ装置の付いた貫通タイプ、もう片方は非貫通タイプと、編成の両端でデザインが異なる。

子供を泣かせた?EXE

現在の10両での運転時は578席と乗車定員を最大化した反面、展望席は設けられていない。EXEの愛称は「Excellent Express(素敵で優秀な特急列車)」から名付けられた。ゆったりとしたソファのような座り心地のシートが日常的に利用する通勤客には評判がいいようだ。外観も「ハーモニック・パールブロンズ」と呼ぶ、なかなか渋い車体色をしている。

EXEは1999年までに10両編成(6両編成+4両編成)合計7本を導入し、通勤特急としての色彩を強めていたロマンスカーを支える存在となった。夜の帰宅時間帯の列車名「ホームウェイ」が登場したのも1999年だ。

一方、その地味さゆえに「『ロマンスカーじゃない』と駅で子供が泣いた」という不名誉なエピソードが小田急社内に伝わっている。通勤客と観光客、大人と子供で評価が大きく分かれる車両でもある。小田急ロマンスカーのために創設されたような鉄道友の会の「ブルーリボン賞」は、歴代車両のうちEXEだけが受賞していない。

EXEの後、“ロマンスカーの伝統”に回帰するかのように2005年にデビューしたのがVSEだった。窓の下にロマンスカーの伝統色「バーミリオン・オレンジ」がベースの細い帯を入れた「シルキーホワイト」の車体で、先端から後方へ流れるようなデザインが目を引いた。

VSEの愛称は「Vault Super Express」の略。Vault(ヴォールト)は客室の約2.5mある「ドーム型の天井」を意味する。幅4mの側面窓に沿って、真正面より少し外側を向いたシートを配置した。先頭車の運転室を客室の天井裏に上げ、大きな曲面ガラスで前面の眺めを楽しめるようにした展望席や、車両と車両の間に台車を配置した連接構造を復活させた。

10両編成で、定員は358人。車内は通常の客席のほか、4人がけのセミコンパートメント「サルーン」席やカフェカウンターも設置した。観光特急としてのロマンスカーのフラッグシップとなった。

観光と通勤のバランスは?

2017年以降、EXEは10両編成(6両編成+4両編成)2本を残して、EXEαにリニューアルした。分割・併合を可能にしてフレキシブルな運用ができるようにしたEXEの特徴はMSEにも引き継がれている。MSEは「Multi Super Express」の略。地下鉄乗り入れでロマンスカーの活躍の場を広げ、マルチの名のとおりJR御殿場線直通や朝夕の通勤特急まで幅広い運用についている。

一方、展望席やバーミリオン・オレンジの車体色はGSEで採用されている。GSEは観光特急としての運用とともに通勤利用も考慮した車両で、特殊な連接構造は受け継がず、カウンターやサルーン席なども設けていない。2023年にVSEが完全引退し、展望席のあるロマンスカーはGSEだけになった。

VSEで初めてデザインを担当した、建築家の岡部憲明氏が代表を務める岡部憲明アーキテクチャーネットワークはEXEαへのリニューアルを含めてロマンスカーにたずさわってきた。新たにその役割を担うCOA一級建築士事務所は「誰もが快適な空間で楽しい時間を過ごすことができ、ワクワクするような経験ができる車両を探求していきたい」としている。

目標どおりにいけば2018年3月のGSE以来、11年ぶりに新型が登場することになるロマンスカー。デザインや車窓を重視した観光特急と、大量輸送と運用の柔軟性に対応できる通勤特急のバランスをどうとるのか。

小田急の広報担当者は「EXEはすべてαにリニューアルする予定だったが、コロナ禍の影響で2本の編成については見送られていた。先に引退したVSEの後継車両を投入するタイミングで代替することになった」と話す。「開発の着手を発表したばかりでコンセプトをこれから検討する段階」といい、EXEのように分割・併合できる車両かどうかを含め、運用面についても「まったく決まっていない」という。

今後、情報発信をする小田急の一挙手一投足に注目が集まることになりそうだ。

橋村 季真:東洋経済 記者

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