富士ソフト「物言う株主」に翻弄された数奇な運命 ファンドの争奪戦で創業家と会社が対立構図に
東洋経済オンライン / 2024年9月12日 8時0分
その後も議論の進捗に3Dから揺さぶりをかけられた富士ソフトは、ついに今年8月、KKRのTOBに賛同する意向を表明するに至る。
会社側は非公開化の道を選んだ理由について、「経営推進上の課題である株主構成を整備することが最重要で、その手段としてPEファンドの提案を受け入れることが最善との結論に至った」と説明。特別委も「(2028年12月期に売上高4350億円、営業利益450億円を目指す)中期経営計画の目標実現には、中長期的視点に立った安定した経営基盤が必要」などとの見解を示した。
端的にいえば、非公開化の主目的はアクティビストを追い出すことにあり、「意見のぶつけ合いをしている時間や資金があるならば、成長投資に回すべき」(富士ソフト関係者)といった見方が強まった結果といえるだろう。裏を返せば、3Dの巧みな戦略に翻弄された結果、富士ソフトは戦うことをやめたようにも映る。
非公開化について、独立系にこだわってきた創業者の野澤氏は会社同様、もしくはそれ以上に複雑な決断を迫られたはずだ。野澤氏が株を売ることになれば、50年超にわたり人生をかけてきた会社と資本的なつながりが絶たれることを意味するからだ。
そして9月に入り、ベインも富士ソフトの賛同が得られればTOBを実施する意向を表明した。ベインは3Dが独自に買収提案を募集した経緯などから、富士ソフトが当初非公開化を望んでいないと判断し、十分な提案を行う機会が得られなかったと主張している。富士ソフトが主体性を発揮しないまま、アクティビストが先導する形で始まったように見える異例のプロセスが、想定外の混乱を招いたといえる。
ベイン側についた創業家の意図は
ベインの動きに対抗するかのように、KKRはTOBを前倒しで実施することを発表する。同時に富士ソフトが9月4日に開示したリリースには、「(ベインによれば)創業家株主がベイン以外との間で、ベインによる当社の非公開化に関する一連の取引と競合、矛盾もしくは抵触し、又はその恐れのある一切の行為を行わないことに合意している」との記載が盛り込まれた。
ベインの提案を受け入れたほうが創業家にとって売却価格などの条件面でメリットがあると判断したのか、それともアクティビストに先導される形での会社による非公開化の決断を容易に受け入れがたかったのか――。
創業家の意図は不明だが、いずれにせよ、現時点でKKRの提案に賛同し、TOBへの応募を求める会社側とは対立する構図に発展した。東洋経済は一連の動きが明らかになる前に野澤氏に書面で取材を依頼していたが、9月11日までに応答は得られなかった。
アクティビストに翻弄された末に、半世紀以上維持してきた「独立系」の御旗を下ろそうとしている富士ソフト。その数奇な物語は、いったいどのような結末を迎えるのか。KKRのTOBが成立するかが、目先の焦点となる。
茶山 瞭:東洋経済 記者
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