チョーヤが「前代未聞の梅不作」でも平気だった訳 40年の信頼と「一見非合理」な非専属契約の繋がり
東洋経済オンライン / 2024年9月16日 13時0分
さらに、梅の調達を安定的に行うために、キャッシュリッチな体制も整えている。現在、負債はゼロ。在庫とキャッシュを多く持てなかった1980~1990年頃には、不作で苦しい思いをする時期もあったという。その教訓が活かされているのだ。
タンクで在庫を大量に持つことも、キャッシュリッチの体制も、他社が一朝一夕には真似できない。不作の年には、「なぜチョーヤだけ大量に購入できるのか」とジェラシーを持つ業者もいるそうだ。だが、半世紀をかけ、梅農家のバックアップ体制をここまで築いている企業は日本に唯一、チョーヤだけだろう。
逆に言えば、農協や農家とここまでの付き合いをしないと、農作物である梅を使った梅酒メーカーとして存続できないということだ。「どこから、どのような梅を、どれぐらい、どうやって仕入れるのか」を完全にコントロールできていることが、チョーヤの成功の要因と言えるのかもしれない。
しかし、盤石に見えるチョーヤを脅かす要素も存在する。最たるものは気候変動だ。世界ではさまざまな気候変動が起きており、梅の豊凶もますます極端になることが予想される。また最近、木の内部を食べて枯らしてしまう外来種のカミキリムシ『クビアカツヤカミキリ』が各地で発生し、梅をはじめ、バラ科の農産物への被害も拡大している。
チョーヤはこのような脅威へのリスクヘッジとして、梅の品種改良に乗り出している。農家、農協、行政と協力して、厳しい環境でも生き残れる梅の新品種を開発しているのだ。数年では結果が出ないため、信頼をおく農家に5年、10年単位で買い取り保証をつけて育成を依頼し、収穫した梅を加工する試みも行っている。
梅の産地の分散も進めている
また同時に、仕入れの中心となっている和歌山県以外の地域の梅が、梅酒に適するのかを確認する研究も進めている。梅は産地によりさまざまな種類があり、暑さ、寒さに強い品種もあるからだ。仕入れ先についても災害のリスクを考えて、あえて100%和歌山産ではなく、8割程度にとどめて分散するようにしているという。
「梅は1年に1度しかとれない貴重な作物です。気候変動についてはすぐには答えが出ませんが、私たちは梅酒だけを扱うメーカー。ほかには見向きもせず、時間をかけて解決方法を模索していきたい」と金銅氏は話した。
ここまでしているのか、と驚かされるチョーヤの取り組み。だが梅酒の絶対王者である同社が実践する戦略はそれだけにとどまらない。中編に続く。
笹間 聖子:フリーライター・編集者
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