阪神甲子園駅、人知れず残る「路面電車」の痕跡 球場のそばを南北に走っていた「甲子園線」
東洋経済オンライン / 2024年9月18日 7時0分
2024年8月、阪神甲子園球場が完成から100周年を迎えた。
【写真21枚を見る】8月に100周年を迎えた阪神甲子園球場と甲子園駅。その周辺にひっそりと残る「甲子園線」の痕跡。虎ファンなら知っている?
同球場はもともと1924年8月1日に全国高等学校野球選手権大会(当時は全国中等学校優勝野球大会、通称「夏の甲子園」)の開催地として阪神電気鉄道が建設。翌年には選抜高等学校野球大会(当時は全国選抜中等学校野球大会、通称「センバツ高校野球」)も開催されるようになった。
阪神が沿線に球場を建設したのは、乗客の獲得が理由である。利用者を増やすため、沿線に集客施設を設けるというのは、鉄道会社のいわば“定石”だ。最寄りとなる阪神本線の甲子園駅も球場と同じ日に開業。当初は臨時駅だったが、2年後には常設化された。
野球で沿線に集客
そもそも、「夏の甲子園」の第1回大会が開催された豊中グラウンドは阪急電鉄(当時は箕面有馬電気軌道)が開設したものであり、期間中は観客輸送で阪急も大いににぎわった。
【写真】8月に100周年を迎えた阪神甲子園球場と甲子園駅。その周辺にはかつての「甲子園線」の痕跡がひっそりと残っている(21枚)
その点で阪急のもくろみは大成功だったのだが、野球人気の上昇に伴って第2回大会では前回をはるかに上回る観客が来場。早くも輸送力不足に加えて観客席も足りないなどいくつかの課題が発生した結果、第3回大会からは阪神が建設した鳴尾球場で行われるようになり、さらに甲子園球場の建設につながったという経緯がある。
もっとも、「夏の甲子園」や「センバツ高校野球」の開催期間は毎年それぞれ2週間前後であり、それだけでは安定的な乗客獲得とはならない。
そこで阪神は、1935年にプロ野球球団の阪神タイガース(当時は大阪野球倶楽部)を創設。甲子園球場はその本拠地ともなった。以来、阪神タイガースの成績によって波はあるものの、球場への来場者輸送は阪神の経営を大きく支えている。
ところで、現在の甲子園球場の観客席数は4万7359席と日本最大規模を誇る一方、開設当初は座席数が5万人、さらに立ち見などを含めた総収容人数は8万人と資料に記されている。現在よりもはるかに規模が大きく、しかも「夏の甲子園」では初年度から満員を記録するという状況だった。
ここで問題となるのが、鉄道の輸送力だ。今でこそ阪神の列車は6両編成(近鉄に乗り入れる快速急行の一部は8両編成)だが、当時は2両連結運転が開始されたばかりで、車両自体も小ぶり。1列車あたりの輸送力がはるかに小さいため、阪神は臨時列車を大増発することで乗り切ろうとした。ただし、そのためには車両を甲子園駅近くに待機させておく必要がある。
今も残る分岐線の跡
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