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大阪名物「りくろー」カット売りは絶対にしない訳 「家族で楽しんでほしい」気持ちがコト消費につながる

東洋経済オンライン / 2024年9月20日 12時5分

家族や友人で切り分ける楽しさを演出するため、カット売りはしない(写真:リクロー提供)

今年2024年で40周年の節目を迎えた『りくろーおじさんの店』。長きにわたって、関西圏の家族の定番スイーツとして愛されており、近年では大阪土産として人気を博している。

【画像13枚】「カット売りは絶対しない」「レーズンも死守」…大阪名物の「りくろーおじさん」。プルプルゾーンは大人気

前編ー「りくろーおじさん」大阪名物が歩んだ40年の歴史 ホールでも965円!お手軽さと、強いこだわりーに続き、りくろーの強さ、歴史を届ける後編。レシピを変えないなかで行われたレーズンの「ある変更」や、家族で楽しんでもらうための戦略をうかがっていく。

関西人なら知っている? 「レーズン」あり派・なし派

前編でお伝えしたように、約1年間、「レーズンなしチーズケーキ」を販売していたりくろー。「なし派」からは好評だったようだが、販売は終了した。背景にあったのは、

「長く愛され続けるロングセラー商品はいずれも、基本のレシピを変えていない。ならば弊社も妥協せず、レシピを変えないで100年、200年続けて、いつか愛される味になることを目指したい」

という、信念とも覚悟とも言える気持ちだった。

【画像13枚】「カット売りは絶対しない」「レーズンも死守」…大阪名物の「りくろーおじさん」。プルプルゾーンは大人気

ただし、微調整は行われた。昔は「ラムレーズン」だったところを、子供も食べることを考え、お酒を使うことはやめたそうだ。さらに、「あり派」から、「自分が食べた場所にレーズンが入っていなかった」というクレームを受け、レーズンをケーキの円周に沿ってぐるりと並べる形にした。これなら放射線状に切り分けたとき、レーズンが当たらない人が生まれない。

そしてこれは、「なし派」への朗報にもなった。円周ということは、中央部にはレーズンがないからだ。そこでりくろーは、チーズケーキの包装箱に「新発想!りくろーカット」として、レーズン抜きカット術のイラストを記載した。

筆者は、筋金入りの「なし派」で、毎回レーズンを取り除いている。

だが今回、リクロー株式会社で企画部本部長を務める中村真士さんから、レーズンの製造工程を聞いて少し揺らいだ。あのレーズンは、蒸してからひとつひとつ小枝を取り除き、自家製シロップに漬けて炊き上げるという手間暇がかかっているそうだ。この蒸す工程で、ふわふわやわらかい触感となるという。

取材後そう思って食べると、レーズンも悪くないと感じた。読んでいる「なし派」のみなさんも、ぜひ食べてみてほしい。

行列さえも楽しむ、エンターテインメント型店舗戦略

りくろーの一番のファンは家族連れだ。親子はもとより、祖父母と孫での来店も多い。40年もの人気の継続は、いち早く、彼らが楽しめる「コト消費」の意識で店作りをしていることにも要因がある。

例えば、パティスリーの厨房と言えば奥まって見えなかった昭和の時代から、キッチンをすべてオープンにしている。行列に並びながら見て楽しめるように、という想いからだ。

5~10分間隔でチーズケーキが焼き上がると、なんとも言えない甘い香りが漂うのはもちろん、鐘を鳴らし、「チーズケーキが焼き上がりました」と声をかけて知らせてくれる。

さらに店内には、「グリーター」と呼ばれる案内担当係がいて、行列を整理しながら、質問や疑問にも答えてくれる。

また、チーズケーキは周囲のクッキングシートを剥がす際、その衝撃を受け、プルプルと揺れる。数年前にこのシーンを撮影した動画がSNSでバズったため、「プルプルゾーン」なるコーナーが設けられた。スタッフには、撮影しようとする人がいた場合、意識してプルプルするよう呼びかけがなされており、上手下手はあれど揺すって見せてくれるそうだ。素朴だが、立派なエンターテインメントだ。

中村さんは、「これも、創業のやわらかいチーズケーキのレシピを守っていたから生まれた魅力です。やわらかさは、幼児から高齢者まで食べられるファン層の拡大にもつながっており、変えずに続けていくことがやっぱり大事だと実感しています」と誇らしげに言う。

万人が味わえるやわらかいチーズケーキのファンはインバウンドにも広まっていて、なかでも欧米人に人気が高い。海外の濃厚なチーズケーキとはひと味違った菓子として喜ばれているそうだ。ちなみに、「プルプル」見たさに来日したファンが、某テレビ番組に登場したこともあったのだとか。

「コト消費」という言葉がない時代から、真面目に向き合ってきた

加えて、「コト消費」は、自宅に持ち帰って食べるシーンも考えて設計されている。焼きたてのチーズケーキで、カット売りしない理由がそれだ(なお、伊丹空港店では、飛行機内で食べる客に限り、あらかじめ焼き上げたチーズケーキの1/4カットを販売)。

ワンホール約18cmでの販売スタイルを頑なに守るのは、家族で切り分けるシーンで、「おじいちゃんが孫にちょっと多めにあげる」「きょうだいで取り合いの喧嘩になる」などの家族団らんを喚起したいからなのだ。

ところで、マーケティングの定番の入門書に『ドリルを売るには穴を売れ』(佐藤義典著/青春出版社)がある。一見、「ん?」と思ってしまうタイトルだが、本書を読むとその意味がわかる。消費者はドリルが欲しいわけではなく、穴を掘りたいのであり、『穴』という『効果』に注目すべきだ……という内容だ。

同書は、この効果のことを「ベネフィット」と呼び、ベネフィットを起点としてマーケティングを考える重要性が書かれている。そういう意味では、りくろーが売っているのは単なるチーズケーキではなく、「家族や、大切な人との想い出を作ってくれるチーズケーキ」なのだとわかる。

かく言う筆者も、取材中に、

「切り分けて、大きいやつを親は取り分けてくれてたっけ」

「親になった今も、息子とレーズンの押し付け合いしてるもんなあ…」

などとしんみり感じた。筆者がりくろーのチーズケーキから思い起こす数々の思い出も、陸郎氏が作ってくれたものだったのだ。陸郎氏の創業からの思想が受け継がれ、多くの想い出を作り続けていることに、尊さを感じてしまう。

そんなりくろーだが、1984年の創業から紆余曲折を経て、店舗数は現在、大阪府下に11店舗となっている。

今後は他エリアへの進出もあるのではと思ったが、「絶対に関西以外では出しません!」と強固に否定された。あくまでも「大阪のチーズケーキ」というブランディングに徹するという。

しかし、これは元々狙ったわけではなく、商品の品質とおいしさを追求していたことから生まれたもの。味をぶらさないよう、本社の目が届く範囲で出店していたら、自然と大阪土産になっていたのだそうだ。

だから東京での催事出店やFC展開も絶対にしない。「大阪から旅行の際に持っていってもらう、または地方在住の方が大阪に来た際に買って帰ってもらうのが理想です」と中村さん。目指すは、『551蓬莱』の豚まんのような存在だ。

重ねて、たとえ大阪府内であっても、店をどんどん増やす予定はないという。基本は、1店舗新店ができたら1店舗閉める。商品の品質とおいしさを保つためには、従業員に負担がかからないことも重要だからだ。同じ理由から、平均的な残業時間や有給消化率、過去9年間の社員定着率もホームページで公表するなど、透明化、ホワイト化に努めている。

育てるのは「単なる職人」ではない

さらに、従業員採用については20年以上前から短大、大学の新卒採用が中心で、75%以上が女性だ。しかも大半は、入社までケーキを作ったことがないという。

その理由を中村さんは、「私たちはただケーキを作れる職人を育てるのではなく、品質の高いケーキを製造し、お客様を楽しませる販売までできる人になることを重視しています。心・技・体が揃っていないと永遠に一人前にはなれません」と話す。

ここで言う心とは、スマホを向けられればプルプル揺らしたり、ガラスケースに張り付くように眺める子供に手を振ったり、オーダーがあれば対応しているバースデーケーキを作って、「~ちゃんできたよ」と声をかけてあげる気持ちのこと。人を楽しませる、すべての物売り、サービス業の原点ともいえる部分だ。

そして技とは、おいしいケーキを焼き上げる技術。体とは、健やかであること。そのすべてが、40年間行列の店を支えてきたのだろう。「待っている時間に笑顔のお客さんを見るのが、お菓子屋冥利に尽きる瞬間です」と、中村さんは少し照れながら語った。

前編で紹介した画像はこんな感じ

前編はこちら:「りくろーおじさん」大阪名物が歩んだ40年の歴史 ホールでも965円!お手軽さと、強いこだわりー

笹間 聖子:フリーライター・編集者

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