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ほっかほっか亭「コラボ依頼して賛否」への違和感 日清食品「10分どん兵衛」の成功例に倣えるか

東洋経済オンライン / 2024年9月20日 15時20分

YouTubeのチャンネル登録者数が500万人を誇るリュウジさん。「ほっかほか亭」と誤表記があったものの、本音のレビューが好評だった(画像:YouTube「料理研究家リュウジのバズレシピ」より)

料理研究家でインフルエンサーのリュウジさんが9月8日、YouTubeに弁当チェーン「ほっかほっか亭」のレビューを投稿。

【画像】「ほっかほっか亭」が投稿した、リュウジさんへの「“コラボ”依頼」。うっかり誤字も話題に

「のり弁」を食して「うまああ、すげぇほっとする味だわ」と高評価をつけたものの、「しょうが焼き弁当」については「もう少しタレの味が強い方がいいから」と指摘。本音のレビューを配信していた。

それを受けて、ほっかほっか亭が9月18日、公式Xアカウントにリュウジさんへの協力依頼文書を投稿して話題になっている。

依頼文の内容文の一部を抜粋しておこう。

一部の商品に対して頂戴した手厳しいコメントについて、弊社商品本部メンバーで話し合った結果、弊社人気の商品もまだまだおいしくなる伸びしろが隠されていることに気づくことができました。(中略)一度リュウジ様と膝をつき合わせて、どう改善したらより美味しくなるかを議論させていただき、より良いものをリニューアル発売させていただければと考えております

この投稿に対して、SNS上では、ほっかほっか亭の柔軟な対応を評価する声もあれば、「インフルエンサーに媚びている」という批判もあり、賛否両論が巻き起こる結果になっている。

難しい「インフルエンサーとの付き合い方」

ちなみに、リュウジさんの動画での「ほっかほか亭」と店名が誤って表記されていたことも、話題の増幅に拍車をかける結果となった。

まだ打診段階なので、コラボが実現するか否か、実現したとしても商品リニューアルが成功するか否かは、現時点では未知数だ。ただ、筆者としては、結果のいかんにかかわらずこうした取り組みは前向きに評価したいと考えている。

企業のマーケティング活動において、SNSやインフルエンサーの存在は大きくなっているのだが、向き合い方は非常に難しい。

広告を出すのにはお金がかかるが、企業側が発信する情報をコントロールすることができる。SNSにおいても、企業の公式アカウントから自由に情報発信することはできるが、広告的な情報を投稿してもスルーされる可能性が高い。炎上や批判を受ける危険性も常にある。

インフルエンサーについても同様だ。企業側が依頼して、商品やサービスを紹介してもらうというやり方もあるが、宣伝色が強くなると、消費者から受け入れられづらい。

また、2023年10月から、ステルスマーケティング(ステマ)が、新たに景品表示法の不当表示に指定された。企業から依頼を受けた推奨や口コミ行為には、「#PR」を付けるなど、宣伝要素のある投稿であることを明記することが求められるようになっている。

企業としては、インフルエンサーが自発的に推奨してくれるのは嬉しいのだが、それを装った推奨行為は”NG”だ。

「懐かしい」「まだあったのか」

今回話題になっている、料理研究家のリュウジさんは、「味の素」をよく使用することでも知られている。

これに対して「料理人のくせに」といった批判的な意見も多かったが、リュウジさんは、2023年「(味の素が)体に悪いとか言ってる人全員もれなく反ワクチンなのなんでだろう」とXに投稿、反対派がこれにかみついて“炎上”も起きてしまった。

「味の素は体に悪い」というのは医学的な根拠はなく、風評、あるいは俗説と言える。リュウジさんが味の素を使ったレシピを紹介したり、誤解を正したりすることは、味の素側にとって喜ばしいことだと思う。

ただ、これを味の素がリュウジさんにお金を払って同じことをやったとすると、効果は薄かっただろうし、炎上はさらに大きく、味の素側にとって風当たりの強いものになっていただろう。

ほっかほっか亭の話に戻ろう。SNS上では、今回の騒動を受けて、「懐かしい」「まだあったのか」といった投稿も見られた。

ほっかほっか亭は、「ほか弁」という言葉を生んだほど、以前はメジャーな存在だった。詳細は省略するが、2007年に商標権をめぐって対立が起こり、フランチャイズ契約をしていたプレナスが離脱し、「ほっともっと」が誕生した。

以降、「ほっかほっか亭」と「ほっともっと」が並立する状況となっているが、「ほっともっと」のほうが店舗数も多く、売上高も大きい。

筆者自身は、子どもの頃は、ほっかほっか亭の弁当を購入していたが、現在の生活圏にはほっともっとしかない。旅行や外出の際に、ほっかほっか亭を見かけることがあり、「懐かしい」と思ったりする。

筆者のような人は少なからずいると思うが、そういう人が今回の件で、ほっかほっか亭の存在を思い出したり、再び興味を持ったりしただけでも、効果はあったように思う。

リュウジさんとのコラボが実現するかどうかはわからないが、現時点でも話題性は十分あったと思う。一方で、批判的な意見にも一理あると思う。

たとえ味が良くなったとしても、ほっかほっか亭の既存顧客が、リニューアルした商品を受け入れてくれるかどうかは未知数だ。

インフルエンサーの意見と顧客のニーズは一致するか

マーケティングの教科書にも載っている有名な失敗例として、米コカ・コーラ社のニュー・コークの事例がある。

ペプシコーラの攻勢に対抗して、1985年に新しい味の「ニュー・コーク」を発売した。事前の味覚テストは好評だったにもかかわらず、実際に発売したら多くの消費者から猛反発を受けた。結果的に味を元に戻すことになった。

失敗の理由はいくつも考えられるが、要するに、消費者が本当に求めていたのは、飲み慣れていたコカ・コーラの味であって、より美味しくなったコカ・コーラではなかったということだ。

ニュー・コークと同じような失敗が最近日本でも起きている。森永乳業は2022年に「リプトンミルクティー」を終売にして、新たに「ロイヤルミルクティー」を発売した。旧ミルクティーの飲用者から反発を受け、同社のお客様相談室には、667件の復活を求める意見が寄せられたという。

これを受けて、森永乳業は、終売からわずか1年足らずで「旧発売」と称して、リプトンミルクティーを再発売した。

消費者の真の声を汲み取って、商品に活かすことは、思いのほか難しい。1人のインフルエンサーの声が、数多くの顧客の声を代弁しているとは限らない。

ほっかほっか亭のリュウジさん宛ての文章をちゃんと読めば、単純に「インフルエンサーに媚びている」というわけでもなく、しっかり検討したうえでの試みと理解できる。

ただ、「顧客が本当に求めている味は何なのか?」ということは常に意識しておかないと、過去の失敗例と同じ轍(てつ)を踏むことになりかねない。

「リプトンミルクティー」は、復活の際に、お客様相談室に寄せられた声を広告・宣伝に活用して、売り上げを急回復させることに成功している。失敗したら失敗したで、それをチャンスにする可能性も生まれるかもしれない。

話題に相乗りして成功した事例

今回のほっかほっか亭のように、偶発的に巻き起こった話題に相乗りした事例はいくつもある。

有名な事例は、日清食品の「10分どん兵衛」だ。どん兵衛は通常はお湯を入れて5分ほど待って完成なのだが、タレントのマキタスポーツさんがラジオ番組の中で「10分待って食べるとおいしい」ということを紹介して、SNSで話題化したことがきっかけとなっている。

これを受けて、日清食品は、どん兵衛の公式サイトに「日清食品は10分どん兵衛のことを知りませんでした……」というお詫び文を掲載した。

さらに、マキタスポーツさんと日清食品のどん兵衛担当者との“緊急対談”を企画し、サイト上に掲載した。これがさらに話題を呼び、SNS上に実際に試してみた投稿や、どん兵衛のさまざまなレシピを紹介する投稿が相次いだ。

2019年の漫才大会「M-1グランプリ」で、無名だったミルクボーイがコーンフレークをネタにして優勝する出来事があった。これに対して、コーンフレークを生産・販売しているケロッグ社がTwitter(現X)で祝福の投稿をして、大きな話題になった。

コーンフレークを“ディスる”ようなネタだったにもかかわらず、祝福の投稿をして話題になったという点では、今回のほっかほっか亭のケースとも似ていると言える。

さらに、その直後、ケロッグ社はミルクボーイに同社のコーンフロスティ 1年分をプレゼントしたり、ミルクボーイをケロッグ公式応援サポーターにしたりと相次いでコラボレーションを発表して、話題を増幅させた。

インフルエンサーとコラボして商品開発をする事例も多数ある。食品で言えば、YouTuberのヒカキンさんがセブン-イレブン限定で発売した味噌ラーメン「みそきん」が大好評で売り切れが続出したことは記憶に新しい。

今回の「ほっかほっか亭」の対応は評価したい

このように、先行する成功事例はいくつもあるのだが、“インフルエンサーの批判的な意見に対して、商品リニューアルへの協力を公開で呼びかける”という試みは珍しいように思う。

ほっかほっか亭側は、事前に裏側でリュウジさんに打診をして、内諾を得たうえで、依頼文書をX上に投稿している可能性もあるのではないか――と邪推をしたりもしてしまうのだが、たとえそうであったとしても、プロレス的な演出として許容範囲であると思う。

不確実で変化の速い時代には、トレンドに素早く乗っていく必要があるが、多少の失敗を恐れていては、タイミングを逃してしまう恐れがある。

「試行錯誤」「トライアル・アンド・エラー」という言葉があるが、失敗なしに成功は得られない。再起不能になるような大きな失敗は避けなければならないが、小さな失敗を繰り返しながら、継続的に改善を加えていくのが、大きな失敗の回避と大きな成功につながる。

それを実行しているという点で、筆者としては、今回のほっかほっか亭の対応を前向きに評価している。

西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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