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台湾への「戦略的曖昧性」をアメリカは変えるか アメリカ新政権で試される日本の外交力

東洋経済オンライン / 2024年9月23日 8時0分

2024年7月、台湾の頼清徳総統(中)が、台湾東部・花蓮で行われた軍事演習を視察した。アメリカの新政権が台湾にどう向き合うか(写真・2024 Bloomberg Finance LP)

アメリカ大統領選が約1カ月あまりとなった。民主党のバイデン大統領からバトンを引き継いだハリス副大統領は、若さ、女性、有色人種であることを武器に支持率で共和党トランプ氏を若干上回ってきた。

保守系の『ウォールストリート・ジャーナル』紙まで、「トランプはバイデンなら勝てたが、ハリスには勝てない」と社説で述べている。とは言え、これまでの例を見ても、最後の1カ月で逆転現象が発生することも起きたことがある。予断を許せない。

岸田文雄首相が2024年4月の訪米した際、議会演説で「日本としては、世界の平和安定のためにアメリカとともに一定の貢献をしていく」とアピールした。

アメリカの台湾政策「戦略的曖昧性」

アメリカの共和党、民主党双方の支持メディアから「日本との同盟関係が最も重要」との見出しで報じられた。極めて戦略的な演説だったと言える。同盟国に負担増をつねに求めくるトランプ氏への先手としても有効であった。

したがって、どちらが大統領になっても「日本との関係は最重要」との認識は変わらないと思える。今のアメリカにとって最大の課題は「中国との競争」であり、安全保障上も経済上も日本との協働なくしては中国との競争に勝てないとアメリカは見ているためだ。

では、アメリカの新大統領登場によって、日本に与える地政学的リスクとは何か。それは、「アメリカが台湾に対してどう行動するか」だと考える。

これまでアメリカは、台湾有事へのスタンスを「ストラテジック・アンビギュイティ(戦略的曖昧性)」としてきた。すなわち、もし、中国が武力で台湾統一に踏み切った場合、アメリカは「軍事介入を行うのか、行わないのかは曖昧にしておく」ということである。

その背景には、2つある。まず「もし、軍事介入をする」と明言すると台湾の独立派がアメリカの軍事介入を期待して独立に向けて動く可能性があるので、これを排除したいという意図。

もう1つは、「もし、軍事介入をしない」と明言すると、中国が安心して台湾統一に向けて動き出す可能性がある。これも排除したいという意図だ。

バイデン大統領はこれまで、4回も「台湾有事となれば、アメリカは助ける」と述べたことがある。ところが、発言直後には国務省「アメリカのスタンスはこれまでと変わらない」と大統領の発言を否定するコメントを出している。まさに、「戦略的曖昧性」だ。

台湾こそ日本への地政学リスク

ところが、この基本スタンスを「変えるべきだ」という声がアメリカで高まっている。「有事の際は、台湾を助ける」と明言すべきだと、複数の元政権幹部が述べている。元トランプ政権にいた幹部だけでなく、超党派の有識者も述べている。

その代表格は、超党派でアメリカ外交問題評議会の会長を務めるリチャード・ハース氏で、「戦略的曖昧性では、中国への抑止力を十分発揮できない」とし、「トランプ政権となれば、戦略的曖昧性から戦略的明確性(ストラテジック・クラリティ)」に変更されるだろう」と述べている。すなわち「軍事介入をする」と明言すべきということだ。ハリス氏が当選しても、このように変更する可能性はかなりある。

しかし、こうなると台湾の独立派に大胆な行動を起こさせる可能性を高めることになる。元来、頼清徳総統は独立志向が強い。アメリカは、台湾への武器の輸出も大幅に拡大する。

アメリカは、これらは「抑止力」として位置付けているが、もし、アメリカが「有事には軍事介入する」と明確な方針に変更すれば、頼総統ら独立派は「千歳一遇」のチャンスと認識する可能性は拭えない。

台湾の人々にとって「独立」は、今に始まった話ではなく、400年前から幾度も挑戦し、実現できなかった歴史がある。1624年にオランダの植民地となったが、その38年後、日本人を母に持つ鄭成功がオランダを追い出し、大陸の清に抵抗すべく政権を打ち立てた。

しかし、その鄭氏政権も23年後には清に滅ぼされ、大陸の勢力下に入る。ところが清は台湾統治に積極的でなく、地元民による反乱の連続であった。

そこにやって来たのは、明治の日本だ。日清戦争の結果、清領であった台湾と遼東半島の日本への割譲が下関講和条約で決まったが、台湾には正確には知らされなかった。

台湾は、清に見捨てられたことを契機に、1895年5月に「台湾民主国独立宣言」を行い、日本の占領に抵抗した。しかし、ほどなく、抵抗は日本軍により鎮圧され、日本の領土となった。

第2次世界大戦後は、大陸から中国国民党がやってきて、一党独裁の厳しい統治を始めた。その国民党は、1947年の「2.28事件」をはじめ多くの台湾の人を弾圧・犠牲にした。

「台湾独立」は最悪のシナリオになりうるか

国民党以外に民主進歩党(民進党)が設立され、その後現在のような民主主義と自由な社会になったのは、李登輝氏が1988年に総統に就任してからだ。李登輝氏は、一党独裁を廃止し、国民選挙で選ぶリーダーによる政治体制へと大改革を実行した。

1971年に当時のニクソン大統領が電撃的に中国を訪問し、国交を樹立するとともに、「1つの中国」(大陸側の中国のみを国家として認める)を確認した。国連もそのように認識を変更したため、台湾は国家としてのポジションをほぼ失った。

現在、台湾と国交を持つ国は12カ国で、国際的に孤立した状態だ。そうした中で、アメリカが「台湾有事には軍事力を持って助ける」と明言すれば、これまで自制していた400年来の独立への情熱が再燃する可能性は高い。

独立への動きが出てくれば、中国は軍事力で押さえにくるだろう。アメリカの介入があるとしても、独立への動きを習近平主席は黙って見ていることはできないはずである。

米中の軍事衝突が起これば、必然的に日本は巻き込まれる。在日米軍基地が中国の攻撃の対象になるのは明らかだ。

アメリカの戦略シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のシミュレーションでは、「日本の参画がなければアメリカは勝てない」というものであった。

在日米軍基地の戦闘時での使用については、日本の許可が必要となるが、日本がそこでノーを出せば日米同盟の破局に繋がる。それゆえ、日本がノーとは言えないだろう。

在日米軍基地が攻撃されれば、集団的自衛権が発動されて、日本の自衛隊も戦闘に加わることになる。CSISのシミュレーションにおいては、中国軍を撃退できるもののアメリカ軍、自衛隊ともに大きな被害が想定された。これは、「最悪のシナリオ」である。

アメリカとイギリスとの関係を強化せよ

では、「最悪のシナリオ」をどう回避するか。まずは、岸田首相の最大の外交成果でもある「日本への信頼拡大」を継続しながら、防衛費の増大を着実に実行することだ。そして、インド太平洋における安全保障において、傍観者でなくリーダーシップを発揮することである。防衛費増大により、抑止力を高めることができる。

次に、イギリスとの関係を同盟レベルにまで引き上げ、日米英の3カ国がコアになり、インド太平洋の安全保障を守る枠組みを構築することが重要だ。これら3カ国に加え、オーストラリアやシンガポール、フィリピンなど関係が深い同志国との防衛連携を高めることである。(「今こそ日本とイギリスが関係強化すべき3つの理由」参照)

最後は、中国との関係強化だ。外交ルートはもちろん、経済や観光においての関係は強化されてよい。アメリカは、電気自動車などの対中国関税強化などに舵を切っている。トランプ氏が当選すれば、この流れはいっそう大きくなるだろう。

日本は是々非々で判断をし、中国からも信頼を勝ち得る努力が必要である。すなわち「現状を武力で変更するということがない限り、日本と中国との関係も強化され、アジアの平和は担保される」というメッセージを出し続けることが必要である。

中国を孤立させることは決して得策ではない。日本の新首相は、就任早々から東アジアの平和と安定に向けた外交力を問われることになる。

土井 正己:クレアブ代表取締役社長、山形大学客員教授

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