企業価値を50年間「略奪」してきた「真犯人」は誰か 「イノベーション衰退」「極端な所得格差」の要因
東洋経済オンライン / 2024年9月25日 11時0分
その際、2人はラゾニックが構築した「革新的企業の理論」を分析の基礎に置いている。「革新的企業の理論」については第2章で詳述されているが、ここでは次の2点を指摘するにとどめておく。
1つ目は、「革新的企業の理論」が、市場における完全競争を理想とみなし、「株主価値最大化」のイデオロギーの基礎になっている、新古典派経済学の企業理論の大きな矛盾を指摘し、シュンペーターと同様にこれを全面否定している点である。
2つ目は、「革新的企業の理論」に関連して、政府による物的インフラや知識基盤への投資がイノベーションにとって極めて重要だとしている点である。また、一般通念に反して、アメリカが歴史上最も強力な発展指向型国家だったという見方を示していることも興味深い。これは、『企業家としての国家』などの著書で知られるマリアナ・マッツカートとも共通する認識である。
ラゾニックとシンは、価値抽出のトライアングルともいうべき3種類の主体(インサイダー、イネーブラー、アウトサイダー)に着目し、略奪的価値抽出の詳細な分析を行っている。
価値抽出のインサイダーとは、自社株買いをうまく利用して株価をつり上げ、自らの株式型報酬(ストックオプションやストックアワード)による利益を増やそうとする企業経営者を言う。
こうした経営者の行動の背景には、「株主価値最大化」のためには経営者の利益と株主の利益を一致させる必要があり、したがって経営者の株式型報酬を増やすべきだという、マイケル・ジェンセンを祖とするエージェンシー理論研究者の主張がある。
ラゾニックとシンは、こうした価値抽出のインサイダーがどのようにして株式型報酬を増やし続けているのか、その構造を明らかにしている。
価値抽出のイネーブラー
1980年代に入るまで、アメリカでは、1929年の株式市場大暴落の反省を踏まえてニューディール期に整備された金融規制が維持されていた。ニューディール金融規制には、株主と企業の関係に関する次のような大原則があった。
すなわち、(1)インサイダー情報によって利益を得ることを含む「詐欺および欺瞞」を禁止する、(2)株主が集団で行動することを厳しく規制し、投資家カルテルの形成を禁止する、(3)機関投資家に、投資先の分散を奨励し、経営への影響力を行使させないようにする、の3つである。
ところが、新自由主義的な経済秩序への道を開いたロナルド・レーガンが大統領に就任して以降、価値抽出のイネーブラーの手によって、こうした伝統的な金融規制が次々と侵食された。
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