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豪雨からウイーンを守った治水システムの「凄さ」 欧州第二の大河はなぜ洪水を起こさなかったか

東洋経済オンライン / 2024年9月29日 11時0分

雨が小降りになったタイミングで、ドナウ川と水門の状況を確認した。目の前に広がっていたのは、普段とは様変わりした大河だった。川沿いのサイクリング道は完全に水没し、テラスカフェは骨組みだけが残り、倒木がいたるところに転がっている。

倒木に交じり流れ着くカボチャ

ノイエドナウにかかる橋は、水門開放時に取り外されているが、濁流が橋げたにぶつかってガコンガコンと音を立てている。倒木に交じって無数のカボチャが次々と上流から流れてくる光景は異様で、上流で農業を営む農家の被害を考えると心が痛む。

雨はさらに24時間以上降り続くと予報が出ている。翌日はどこまで水位が上がるのか。自宅にある地下への浸水を覚悟し、地下室から上階にものを運び上げ、停電や断水に備える。

ドナウ川と共に生きて50年という、付近に住む人に話を聞いた。

「ドナウ川があふれると、まずは水門を開放するだろ、それから川沿いのサイクリング道が浸水する。今はこの段階だ。そこから一段高い高速道路が浸水するまでは、まだ慌てなくて大丈夫」

堤防のおかげで決壊はしていないが、よく見るとドナウ川の水位は高速道路より高くなっていた。住民はインフラの安全を信じているのだ。

日常を取り戻すドナウ川

雨が4日連続で降り続いた翌日の17日の朝、前日とは一転して青空が見え、日が差したときには、不思議な気分だった。大半の予想に反して、ドナウ川どころか、あれほど氾濫寸前だった市街地のドナウ運河やウィーン川も洪水を起こさず、大災害には発展しなかった。

ドナウ川の水位は3日かけてゆっくりと下がった。ノイエドナウの水門が閉じられ、再び遊水池に戻った。濁流は穏やかな水面に戻り、茶色い水は青空を映している。

水没していた川沿いの散歩道が再び姿を見せ、水鳥が餌をついばんでいる。サイクリング道に残った大量の泥をショベルカーで集めてトラックで運び出す作業が急ピッチで進み、テラスカフェの従業員が営業再開に向けて準備していた。

ウィーン川とドナウ運河も通常の水位に戻った。

1000年に一度の大増水でも氾濫しなかったのには理由があった。ウィーン市街地には複数の地下貯水池と地下トンネルがあり、その容量の限界まで水を貯めつつ、微調整による放水が繰り返されていたのだ。そのため、川はギリギリ決壊しない水位を保ち続けた。

起こりえた被害を防ぐインフラ

ウィーンは、遊水池ノイエドナウの水門開放と、地下貯水池の適切な運用により、過去最悪ともなりえた水害からまぬがれたのだ。

多くの人にとって、今回の豪雨は、「思ったほどの被害をもたらさなかった」と感じられるかもしれない。しかし、その裏には、何百年と積み上げられた治水テクノロジーとインフラ、そしてそれを運用する人々の手があった。

御影 実:オーストリア・ウィーン在住ライター・ジャーナリスト

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