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「恋愛史上主義」のあの時代を描く名作マンガ 安野モヨコ「ハッピー・マニア」支持されるワケ

東洋経済オンライン / 2024年9月29日 12時0分

腰が落ち着かないという点では『アイドルを探せ』のチカと同様だが、受け身のチカと違って重田はどこまでもアグレッシブ。その底抜けに無軌道なキャラクターが、従来にないヒロイン像として「シゲカヨ」を90年代のアイコンたらしめたのだ。

令和男女のもどかしい恋愛『こっち向いてよ向井くん』

令和においては同性間の恋愛を描いた作品も多い。が、それはまた別の機会にご紹介するとして、ここではガツガツしてない今どき男女のもどかしい恋愛を描いた、ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(2020年~)を取り上げたい。

会社員の向井は、35歳の今も独身で実家暮らし。家には妹とその夫も同居している。学生時代から付き合っていた彼女・美和子とは10年前に別れ、それ以来、彼女らしい彼女はいない。ルックスは平均以上、真面目で気配りもできる彼に、なぜ彼女ができないのか。彼のどこに問題があるのか。男と女の感覚のすれ違い、三十路を過ぎた大人の恋愛の機微が、とてつもない精度で描かれる。

そもそも10年前、彼女と別れることになったのは、向井の「美和子のこと ずっと守ってあげたい」という一言がきっかけだ。それを聞いた彼女は喜ぶかと思いきや、「守る? 守るって一体何から? どうやって? 守るって何?」と詰めてきて、その後フラれた。その場面を思い出した向井は、若かった自分が「美和子から見れば頼りなく映ってたんだろうな…」と思っているが大ハズレ。正解はのちに出てくるのだが、なぜ彼女がそのセリフに引っかかったのか、向井と同じくわからない男性は多いだろう。

そんな向井だが、決してモテないわけではない。前述のとおり、ルックスも人当たりも悪くないので、接近してくる女子は少なくない。会社の派遣社員に思わせぶりな態度を取られ、義弟の店のバイト女子にキスされる。が、どちらもあっさりフラれて落ち込み、思わず元カノ・美和子のFacebook(作中では「FaceLook」)を見て自分関連の投稿が全消しされてるのを知ってまた落ち込む。そうかと思えば、過去に飲み会で一緒になって一度だけエッチした相手から突然連絡があり、婚活疲れしたという彼女に「私と…結婚に向かってみるってどうでしょう?」と真顔で提案される。さらには、学生時代のサークル仲間との飲み会で、来ないはずの美和子と再会し……。

恋愛とは?結婚とは?幸せとは?

浮かれたり沈んだりの向井の迷走ぶりが笑える……と言いたいところだが、男にとっては身につまされる部分も多々あり。義弟の店の常連で、向井が愚痴ったり相談したりする辛辣女子・坂井戸が、女性心理や男の勘違いについて解説するセリフが最高に鋭利で刺さりまくる。もちろん女のほうにもいろんな思惑や間違いがあって、だからこそすれ違い、傷つけ合うことにもなるのだが、「恋愛がうまくいかない男はとりあえずコレを読め!」と言いたいぐらい芯を食った(痛い)描写のてんこ盛りなのだ。

キャラクターの微妙な表情、ダブルミーニング満載のセリフ、心情を可視化した比喩など、マンガ表現としても巧み。恋愛とは? 結婚とは? 幸せとは? という向井の個人的苦悩から、ジェンダー格差や結婚圧力、家父長制や「男らしさ」の呪縛など、社会構造の問題にもつながっていく。昭和~平成初期の「恋愛こそ正義」というのとは違う複層的な視点のドラマは、時代の最先端を鮮やかに描き出す。

南 信長:マンガ解説者

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