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石破氏が「大逆転勝利」した自民総裁選の舞台裏 「キングメーカー争い」岸田氏"完勝"、麻生氏"完敗"

東洋経済オンライン / 2024年9月30日 12時55分

石破茂氏(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP)

大乱戦となった自民党総裁選は、石破茂元幹事長(67)の“大逆転勝利”で幕を閉じた。10月1日召集の臨時国会冒頭で首相指名を受け、同夜、石破新政権が発足する。石破氏は総裁選5度目の挑戦での悲願達成。“3強”として同氏と激しく競り合った高市早苗経済安保相(63)は決選投票での予想外の敗北に顔を強張らせ、国民的人気で当初本命視された小泉進次郎元環境相(43)は涙目で虚空をにらむなど、3氏の明暗もくっきり分かれた。

自民党総裁選史上でも、「決選投票も含め、投票箱を開けるまで分からない」(自民長老)という激戦は「ほとんど例がない」(党事務局)とされる。「派閥解消により個別議員への締め付けが緩んだことが背景にある」(政治ジャーナリスト)とみられているが、最終局面では派閥を維持する麻生派だけでなく、旧岸田派をはじめすべての旧派閥が“暗闘”を繰り広げ、「派閥政治の根深さを露呈」(同)したのは否定しようがない。

そこで注目されたのが、首相経験者を中心とする“影の実力者”たちの「キングメーカー争い」。なかでも、麻生氏が高市氏、菅義偉前首相が小泉氏、岸田首相が石破氏をそれぞれ支援して水面下で虚々実々の駆け引きを展開したとされるが、「最終的には岸田氏が完勝、菅氏が痛み分け、麻生氏が完敗」という結末に。

石破新総裁誕生後、壇上に並んだ3氏は満面の笑みの岸田氏に対し、菅氏は平静を装ったが、麻生氏は苦虫をかみつぶしたような表情で新総裁への拍手も形だけで、3氏の確執の激しさも浮き彫りとなった。

人事の骨格は「森山幹事長・林官房長官・菅副総裁」

今回総裁選での「5度目の正直」に、眼鏡の奥の感涙をそっと拭った石破氏にとって、最初の関門となったのが党・内閣人事だ。「これまでのような派閥順送り人事に堕すれば国民的不興を買う一方、脱派閥での一本釣りばかりでは、党内に不満が鬱積しかねない」(閣僚経験者)。

もちろん、高市、小泉両氏だけでなく、総裁選で戦った8氏の処遇で、石破氏のトップリーダーとしての手腕が問われることも避けられず、「岸田首相からの“宿題”ともなる『ドリームチーム』の実現は容易ではない」(同)との声が相次いだ。

そうした中、石破氏は総裁就任直後から、複数の側近を中心に、岸田、菅両氏とも秘かに連絡を取り合い、29日中に党・内閣人事のほぼ全容を固めた。まず、「骨格人事」となる党運営を仕切る幹事長には森山裕総務会長(79)を起用、内閣の要となる官房長官は林芳正氏(63)を続投させることを決めた。さらに、菅氏の副総裁就任を決め、麻生氏は最高顧問として遇することにした。

この「骨格人事」について、石破氏は29日のテレビ出演などで森山氏起用については「あらゆることに通暁している」と高く評価、林氏続投には「岸田政権との連続性重視」を挙げた。一方、総務会長就任を打診されたが断ったとされる高市氏の処遇については「登用を積極的に考えたい」と述べるにとどめた。さらに、「菅副総裁」については「気心が知れており、党をまとめる知恵がある」と挙党態勢に資するとの認識を示した。

また、29日夜までに閣僚人事もほぼ固まった。これに先立つ党役員人事では、森山幹事長とタッグを組む総務会長には、鈴木俊一財務相(71)、政調会長には小野寺五典元防衛相(64)を起用、さらに重要閣僚として財務相には加藤勝信元官房長官(68)、外相には岩屋毅元防衛相(67)の起用を内定した。

衆院選「10月15日公示・27日投開票」へ

こうした新陣容も踏まえて、党内外が注視している衆院解散のタイミングとその大義名分について石破氏は、新総裁就任時には「なるべく早く、しかも国民に信を仰ぐだけの材料を示して、という中で、いろんな可能性は否定しない」と繰り返していたが、29日になって「とにかく早く国民の審判を仰ぐべきだ」との森山氏らの進言を踏まえ、30日の新4役決定のための党役員会などの場で、「10月9日に衆院を解散し、15日公示・27日投開票の日程としたい」と表明し、最速の解散総選挙日程を固めた。

これを踏まえ、自民党は30日に野党に対し①10月4日所信表明②同7日と8日に各党代表質問③9日に党首討論実施とその後の衆院本会議で解散――という日程を伝える方針だ。ただ、野党側の猛反発も予想され、一部日程の変更など、なお流動的な部分も残っている。

そこで、改めて今回総裁選の経過と結果を振り返ると、「過去最多の9人出馬だけでなく、すべてが異例づくめというのが最大の特徴だった」(政治ジャーナリスト)ことは間違いない。

“コバホーク”と呼ばれる小林鷹之氏の8月19日の出馬表明から、告示直前の上川陽子外相の出馬表明などによる告示前までの25日間に、選挙戦15日間を加えた計40日間の次期首相の座を巡る戦いは、多くの曲折の中で、石破、高市、小泉各氏が“3強”として脱け出し、最終盤には事実上確定していた「決選投票」をにらんで、各陣営が「未知との遭遇のような複雑怪奇な神経戦」(自民長老)を展開したのが実態だ。

そもそも最終決着の場となった27日午後1時からの「1回戦」とそれを受けての「決選投票」にも、多くのドラマが見え隠れした。

まず、国会議員368人と党員・党友による地方票(368票をドント方式で配分)の合計で争う「1回戦」では、高市氏が予想を超える181票(議員票72、党員票109)を獲得してトップに立ち、石破が154票(議員票46、党員票108)で2位、候補者討論で失速した小泉氏が議員票はトップながら136票(議員票75、党員票61)の3位となり、その時点で総裁レースから脱落した。

他6候補の得票をみると、討論会での安定感が目立った林官房長官が65票で4位、序盤戦では大躍進もささやかれた小林氏が60票で5位、旧茂木派領袖だった茂木敏充幹事長(68)は党員票が伸びずに47票の6位、一時は有力候補とされた上川陽子外相は40票で7位、前回総裁選で岸田氏とトップ争いを演じた河野太郎氏(61)は党員票がわずか8票での30票で8位に沈み、党内に幅広い人脈を誇っていた加藤勝信元官房長官(68)は議員票が推薦人(20人)にも届かない“醜態”もあって22票での最下位となった。

「1回選」での高市氏トップに会場内騒然

この結果の中でも、会場内の議員達と取材席のメディア各社記者を驚かせたのが、高市氏のトップだった。というのも、直前のさまざまな情報では、石破氏1位、高市氏2位が「通り相場」だったからだ。確かに、選挙戦終盤で党員・党友票で猛烈な追い上げが伝えられていたが、高市陣営も「まさかトップに躍り出るとは思わなかった」(幹部)と驚きを隠せなかった。

その時点で、高市陣営は「これで勝てる」(同)とほぼ確信したとみられ、高市氏も隣席の中曽根弘文元外相らと笑顔でささやき合っていた。その一方で、「想定外」の2位となった石破氏は、決選投票での逆転にすべてを賭けるべく、唇を真一文字に結んで虚空をにらんだ。そして、脱落が決まった小泉氏は大きく息を吐いて壇上での発表結果を見つめていたが、その眼には悔し涙が潤んでいた。

ただ、ドラマはこれでは終わらなかった。テレビ桟敷での国民も含め、大逆転を予感させたのは決選投票に先立つ1人5分間の「演説」だった。選挙管理委員会が直前に決めたもので、同委はその間の議員同士の情報交換や多数派工作防止のため、「スマホ禁止令」を出し、場内をざわめかせた。

そのうえで、まず2位の石破氏が演説、簡潔な表現ながら力強く支持を訴えて大きな拍手を受けた。これに対し、高市氏のあいさつは、「さて」「さて」と言葉をつなぐだけで中身も迫力も乏しく、しかも時間切れを指摘されて“尻切れとんぼ”となる失態もさらした。

「決選投票」での大逆転に岸田、麻生両氏の表情も一変

一方、「決選投票」前は、最前列の総裁経験者らが並ぶ特別席で余裕の笑顔の麻生氏に対し、岸田氏は不安そうな落ち着かない表情だった。しかし、各議員や都道府県連代表の投票などが終わり、選挙管理委員の見守る中、事務局による開票作業が進むと、高市陣営とみられる女性管理委員が涙ぐむなど、「大逆転」の雰囲気が会場にも伝わり、石破、高市両陣営の態度と、麻生、岸田両氏の表情も一変した。

そして迎えたのが開票結果の発表。逢沢一郎選管委員長が事務局に手渡された紙をみながら「高市候補194票」と読み上げた瞬間、高市氏の顔が強張り、続いて「石破候補215票」と読み上げると、石破氏はいったん顔を伏せ、メガネを外して涙を拭ったうえで立ち上がり、場内の祝福の拍手に控え目の笑顔で感謝の意を表した。この大団円の瞬間には、会場内のほとんどの議員達が喜び、あるいは落胆だけでなく、多くが割り切れない表情で周囲を見回すという、過去の総裁選では見られなかった光景が、生中継のテレビ画面にも生々しさを伴って、映し出された。

こうした約1カ月半にわたった「総裁選劇場」の盛り上がりと、劇的だった石破新総裁の誕生を受け、各種世論調査での内閣と自民党の支持率上昇は確実視され、それが「電撃解散断行につながった」(自民長老)のは間違いない。ただ、「党・内閣人事での『石破支持議員偏重』が際立ったことでの党内分断」(同)も目立ち始めている。

これに対し野党側は「そもそも、裏金事件への国民の厳しい評価は、総裁が代わっても変わらない」(立憲民主幹部)と攻勢を強めており、次期衆院選で「日本をもう1度、みんなが笑顔で暮らせる安全で安心な国にする」と訴える石破首相にどのような審判が下るかは、「新政権に対する1億有権者の評価次第」(政治ジャーナリスト)であることだけは間違いない。

泉 宏:政治ジャーナリスト

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