ウクライナ侵攻で浮かび上がった「GDP神話の噓」 経済制裁で苦しむのは「消費重視」の西側世界
東洋経済オンライン / 2024年10月5日 16時0分
民主主義とは何なのか? そこに限界はあるのか? 台頭するポピュリズム、強権主義に対して、民主主義は生き残っていくことができるのか? 現在の民主主義社会が抱える問題点に次々と疑問を投げかける、元外務省主任分析官の佐藤優氏は、一般的な経済指標として使用されているGDPの存在にも疑問を呈します。
佐藤氏が指摘するGDPの問題とは、いったいどういったものなのでしょうか。
※本稿は、佐藤氏の著書『佐藤優の特別講義 民主主義の危機』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
GDPは本当に「国力」を表しているのか?
2007年に世界銀行が発表した報告書『東アジアのルネッサンス』の中で、「中所得国の罠」という言葉が使われました。この言葉には、ある程度民主主義が発展しないと、個人の所得は1万ドルの壁を超えることができない、という意味があります。
一見、なるほどと思わせますが、この説はGDP神話というものを前提としており、ほとんど意味のないものであると私は思います。なぜなら、ウクライナ紛争によって、GDPが圧倒的に多いアメリカが、ロシアを屈服させることができないという現状があるからです。
GDPの指標として、民主主義が成熟した国においてはサービス業の数字が入っており、このサービス業の数字がかなりの曲者です。たとえば、トランプの不倫裁判にかかる費用も、不倫のもみ消し料も、すべてGDPに計上されます。GDPは1国の付加価値の合計だから、こうしたものまで計上されてしまうのです。
アメリカの作家ジョン・デ・グラーフと経済学者デイヴィッド・K・バトカーは『経済成長って、本当に必要なの?』の中で、GDPの問題点を指摘しています。
今は物があふれていて、所有権の移転も多くなりました。交換して所有権が移転するだけなら付加価値は生じないので、GDPには反映されないし、税金もかからない。極端な話、「メルカリ」や「アマゾン」などを禁止すれば、GDPは上がるかもしれません。日本のGDPが伸び悩んでいるといっても、セカンドハンド(中古品)でものを回すことが多くなっているだけです。
ネット空間での物と物の交換のような取引も相当な数に上りますが、そうしたものはGDPに計上されません。GDPのみで経済を判断することには問題が多すぎるのです。
基本的には、GDPではなく、購買力平価で経済の動向を測るのが現実的といえます。購買力平価の実体に近づけて測るようになると、全然違う様相が見えてきます。
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