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東京駅から12分、都民も知らない「謎の街」の実態 上野の隣なのに知名度ほぼゼロの駅「尾久」の魅力

東洋経済オンライン / 2024年10月5日 9時20分

下町っぽさを残した「おぐぎんざ商店街」。尾久駅周辺に4つある商店街のうちの1つだ(筆者撮影)

建築会社や不動産会社などが毎年発表する「住みたい街ランキング」。トップテンの顔ぶれを眺めると、常連の吉祥寺や恵比寿、新宿、目黒、最近だと北千住や大宮なんかも人気だ。しかし、どれも「まぁそうだろうな」と思えるような街ばかり。

この連載では、住みたい街ランキングには決して登場しないけれど、住み心地は抜群と思われる街をターゲットに定め、そこを実際に歩き、住む人の声と、各種データを集めてリポート。そして、定番の「住みたい街」にはない、「住むと、ちょっといい街」の魅力を掘り起こしていく。

今回紹介するのは東京都荒川区「尾久」だ。

駅は北区だけど、街は荒川区

JR東日本 東北本線を利用すると、上野の次が「尾久駅」だ。東京のど真ん中と言っていい。しかし、知名度はかなり低い。「尾久」と書いて「おく」と読むのだが、荒川区民ですら知らない人も多い。

【画像10枚】23区でも屈指の閑散駅・尾久駅は"住むとちょっといい街"だ

JR尾久駅から、隅田川に挟まれた場所に広がるのが、今回ターゲットにしたエリアだ。地図上に赤くマーキングした辺りを歩いた。地名で示すと、東京都荒川区西尾久から東尾久にかけての界隈となる。

レポートに入る前に、尾久の地名と駅名について、若干ややこしい事情があるので、少しだけ解説する。

繰り返すが、尾久は、荒川区の地名だ。しかしJR尾久駅は北区に位置する。駅の北口を出て、明治通りを過ぎるとすぐに北区と荒川区の境界をまたぐことになる。そこから先が地名でいう尾久だ。

さらに、駅名は「尾久駅(おくえき)」だが、地名の方は場合によって「おぐ」と発音されることもある。

【画像10枚】「東京駅から12分と立地抜群」「海抜は低め」…。23区でも屈指の閑散駅・尾久駅は"住むとちょっといい街"だ

駅前で長く飲食店を営んでいる女性に聞くと、「尾久の前か後ろに別の言葉がつくと、途端に”おぐ”に変わるんですよ」とのこと。つまり前に西が付く「西尾久」は「にしおぐ」だ。後ろに「銀座商店街」が付けば「おぐぎんざ商店街」となる。

乗降客が極端に少ないJR尾久駅

駅に関して、もう一つだけ解説を加えたい。周辺の主要駅と比べると、尾久駅は乗降客が極端に少ないのだ。

このように比較すると、尾久駅の乗降客数の少なさがわかる。「閑散駅」と表現されることもあるらしい。駅の背後には広大な車両基地(尾久車両センター)が広がっており、街としてのにぎわいはないのだが、正面の北口を出ると、すぐに明治通りが走っており、ファミレスなどもあるが、乗降客が少ないことが示す通り、比較的静かな雰囲気だ。

ただ、住む側として決して悪いことではない。親の代から同エリアに暮らす40代の男性が次のように語ってくれた。

「尾久駅前は静かだけど、東尾久のほうに行くと商店街もたくさんあるし、賑やかですよ。この地区は、商店街が強いから大きなショッピングモールみたいなものはないんだよ。そのぶん古くからやっている個人店が多いから、最近はそれを目当てにしたお客さんも多い。あと、尾久は他に比べて家賃が安いから、若い家族も増えているんですよ。そういう意味では活気のある街ですね」

調べてみると確かに周辺地域に比べて家賃相場は安い。JR尾久駅を起点にした近隣駅の、ひとり暮らし用マンションの家賃相場(1R~1DK)は以下の通りだ。

尾久駅付近の家賃は近隣の他の駅に比べて2万円〜4万円ほど低めだ。これも「住むとちょっといい街」の魅力のひとつといえる。

しかし、なぜ安いのか。前出の地元民は次のように語る。

「うーん、確かなことはわからないけど、ここらは海抜が低いからね。隅田川、荒川が氾濫したら水没しかねない。そういうことも家賃の安さに結びついているのかもしれないね」

気になったので調べてみた。

地域の北側すぐには隅田川が、その向こうには荒川が流れている。画面左側の北区から、JRの線路を越えて荒川区に入ると、隅田川に向かってかなり低くなっているのがわかる。

国土交通省のハザードマップによると、この地域は洪水浸水想定区域となっており、浸水の想定最大規模は場所にもよるが、大きなところで3〜5mだ。隅田川と荒川に挟まれた足立区小台は想定最大規模が5〜10mだ。

地元の方が語る通り、こうした立地条件が家賃の安さに表れているのかもしれない。ただし、先日(8月21日)に東京都で発生した1時間100mmのゲリラ豪雨でも、特に被害はなかった。防水施設が発達したために、近年では「水の心配」は減っているのかもしれない。

人が少ないのに商店街が4つもある

地元の方も語っていたが、この地域には商店街が多い。少し歩いただけで「おぐぎんざ商店街」「熊野前商店街」「小台大通り商店街」「小台銀座」などにたどり着くことができる。

そのうち、「たぶん最も賑わっている」と地元民が推す「おぐぎんざ商店街」を訪ねた。JR尾久駅から歩いて10分ほどで、同商店街の入り口にたどり着く。そこから約300mの通りに、50以上の商店が並ぶ。

同商店街の組合が発足したのは1959年のこと。それより以前から、通りには多くの店が商っていた。街の歴史や、住みやすさのポイントをうかがうため、方々を訪ねて歩くと「そういう話なら『たうん』のご主人が適任だよ」と、商店街の関係者が教えてくれた。

というわけで、商店街の北側の端に位置する「珈琲専科たうん」におじゃました。紙タバコが吸える、地元民の憩いの場だ。

長いカウンターと4人掛けのテーブルが10脚。週末の午後、客はひっきりなしだ。今回は珈琲とケーキのセット(800円税込)をオーダーした。ちなみにブレンド珈琲の単品は400円だ。深い味わいの珈琲と、甘さを押えたモンブランのマッチングが素晴らしい。

今年でオープンから43年目を迎えるというご主人の年齢は83歳。「お店と尾久のお話を聞かせてください」とお願いすると、快諾してくれたのだが、「色男じゃねぇからさ、顔の写真と名前を出すのは勘弁してくれ」とのこと。

おじゃました日、ご主人はブルックスブラザーズの青いシャツをさらりと着こなしていた。背筋を伸ばして立ち働く姿は粋で男前。とても80歳を過ぎているとは思えない。

「この辺りはね、昔は表通りから一歩入ったら家族で経営している小さな町工場がたくさんあったんだ。家族全員で働くからさ、三度三度の飯を作る隙がないだろ。だから、商店街にはお惣菜屋さんとか、飲食店がたくさんあってね。どこも繁盛していた。

ところが、最近は勤め人も増えて、工場の跡継ぎも不足しているから、商店街の様子も少しずつ変わってきた。それにモノの値段がどんどん上がっているだろ。だから商売がやりづらくなっているというのもあるね。うちのブレンドコーヒーは400円だけど、メディアとかであんまり紹介されたくないんだ。どうしてかと言うと、すぐにでも値上げしたいんだよ(笑)。本当は600円くらいの値をつけたい。豆の値段がここ10年で倍くらいになってるからね。だから値段のことは小さく書いてね(笑)」

そんなご主人に街の魅力を聞くと、

「東京の真ん中だから、交通のアクセスはいいですよ。どこに行くにも時間はかからないし、例えば池袋なんかで飲んでたとして、終電を逃しても、タクシーで3000円くらいで帰って来ることができる」

実際に調べてみた。

都内の主要な場所のどこに行くにも、1時間以内で400円以下。生活するには、かなりポイントが高いと言える。

「そんな立地なのに、緑が多い。これも魅力だね」とご主人が言う通り、界隈には「西尾久八丁目緑地」「尾久八幡公園」「西尾久四丁目公園」「荒川区 尾久小公園」「尾久の原公園」などがあり、少し足を延ばして、荒川沿いまで行けば、河川敷一帯に緑地が広がる。朝夕は犬の散歩やジョギングを楽しむ近隣住民の姿が見られるという。

目に見えてわかる犯罪の少なさ

前述の通り、尾久地区は家賃が安い。そのため、近年では若い夫婦も増えているという。今回歩いたエリアには「至誠会第二保育園(東尾久5-34-6)」や「ピノキオ幼児舎東尾久保育園(東尾久3-27-7)」など、保育園・幼稚園が5つ。小学校は2つだ(どれも筆者調べ)。子育てにも適している。

また、このエリアは下町の香りが残っていることもあり、住民同士の結びつきも強い。そのため、犯罪が少ないことも「住むとちょっといい街」のポイントだ。

見ての通り、今回紹介するエリアはおおむね平和だ。ちなみにお隣台東区上野はどうかというと、上野駅近くの上野6丁目の数字は以下の通りである。

巨大繁華街の上野駅付近と比較するのは少し乱暴だが、これを見ると尾久の平和ぶりがわかる。

そして、生活するうえで外せないのが健康管理だ。今回歩いたエリアには、「宮の前診療所(西尾久2-3-2)」「冨田医院(東尾久5-39-13)」など、地域密着のクリニックが都営荒川線沿いに点在。また同沿線の宮ノ前駅からの徒歩圏内に総合病院の「東京女子医科大学東医療センター(荒川区西尾久2-1-10)」もあり、地域の健康を見守っている。地域全体として、病院・クリニックの分布状況は良好だ(どれも筆者調べ)。

この他にも、かつてあった「尾久温泉」の面影を残す町並みや、地域密着のテーマパーク「あらかわ遊園(西尾久6-35−11)」など、尾久は住むだけでなく、観光地としても魅力のエリアだ。住む、住まないは別として、一度出かけてみてはいかがだろう。

末並 俊司:ライター

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