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「世界で最もクール」に選ばれた日本唯一の街 "未開発地帯"学芸大学が魅力的な納得理由

東洋経済オンライン / 2024年10月10日 10時55分

色と看板の洪水のような学芸大学駅の西口商店街の風景(写真:編集部撮影)

グローバルメディア「タイムアウト」で、学芸大学(東京都目黒区)が2024年の世界で最もクールな街の1つに選ばれた。

【写真】渋谷から4駅、中目黒から2駅……東急線沿いにありながら”未開発地帯”の学芸大学には、駅前から昭和の風景が広がるほか、ユニークな独立系ショップが点在している

全体ではフランス・マルセイユのノートル・ダム・デュ・モントを筆頭に世界38カ所が選ばれており、学芸大学は15位。日本から選出されたのは学芸大学だけ(タイムアウトは、ロンドンを中心に、世界333都市59カ国で展開)。各種の街ランキング上位に出てはこない街なのに、なぜ、世界で評価されたのか。

【10月22日14時30分】記事初出時、メディア説明に誤りがあったため、上記の通り修正いたします。

渋谷から8分の街に広がる「昭和の風景」

学芸大学は東急東横線で渋谷から4駅目。目黒区内にあり、駅名はかつて東京学芸大学があったことから名付けられたが、当の大学は1964年に小金井市に移転。地元の要望から駅名だけはそのまま残った。

急行が停まり、渋谷から約8分と交通の利便性に恵まれた場所だが、初めて駅に降り立つ人は駅前の狭さにびっくりするかもしれない。東口、西口どちらに出ても駅前広場はなく、駅前が即商店街といった状況になっているのである。

当然、バス乗り場もタクシー乗り場もない。歩行者の姿は多いものの、時間によって規制されていることもあって交通量はそれほど多くはない。

しかも、商店街からちょっと横に入るとそこは飲食店が並ぶ路地。カウンターだけの小さな店も多く、どことなく下町風情も感じる、庶民的で気取らない街なのである。そして、これが世界で評価された理由の1つ。駅周辺がこれまでほとんど開発されてこなかったため、昭和の駅前、商店街がそのまま残されているのである。

【写真20枚以上】渋谷から4駅、中目黒から2駅……東急線沿いにありながら”未開発地帯”の学芸大学には、駅前から昭和の風景が広がるほか、ユニークな独立系ショップが点在している

東急東横線ではタワーマンションが林立する武蔵小杉のイメージが強いためか、開発されてきた街が多いように思っている人もいるが、駅前にタワーがある街は渋谷、横浜を除くと中目黒、武蔵小杉に現在開発が進行中の自由が丘くらい。

綱島駅の近くにできたタワマンは東急新横浜線新綱島駅開発によるものだし、2023年に代官山駅前に新しくできた住宅を含む複合施設もタワーというほどの規模ではない。

個性的な店舗が多いと言われる理由

区画整理も含め、開発が行われてこなかった結果、学芸大学の駅周辺には大規模な建物は建てられておらず、飲食店も含め、建物、店舗はいずれもコンパクト。チェーン店もそこそこあるものの、大人数の宴会には向かない街なのである。

近年、賃料等がだいぶ上がってきてはいるというが、近隣にある毎年(!)借地料が上がる街に比べればまだまし。それに規模が小さければ小規模、零細企業、個人でも比較的手が出しやすい。

個性的な店舗が多いと言われるのもそのためだ。家賃が高い都心部では家賃を稼ぐのに必死で店主の個性を出すまでの余裕がないことが多いが、そこまでしゃかりきにならなくて済むなら個性を生かした店、とがった店も作れるというものである。

開発が行われてこなかったことに加え、学芸大学駅周辺は地理的にも恵まれている。駅の北には駒沢通り、南には目黒通りが走っているのだが、交通量の多い幹線道路があると商店街はそこで切れる。

わかりやすいのはお隣の都立大学駅。駅を降りたところから見えるほどの距離に目黒通りが走っており、商店街の主要部分は駅と目黒通りのごく短い距離に立地している。通りを渡ったところにも店はあるものの、幹線道路を渡るというハンディは大きく、商店街は小さくまとまらざるを得ない。

ところが学芸大学の場合は北にも南にも延びる余地があり、しかも地形的に平らで移動にハンディがない。

実際、商店街は駅を挟んで両側に長く延びており、そこに魚屋などの生鮮三品を扱う昔ながらの店、銭湯などに加えて、前述のクリエイティブな店などが交じり合う。

そのバランスのよさも魅力の1つ。スーパーを利用しなくても生活に必要な品がすべて揃う回遊性の高い商店街は今ではそれほど多くはない。

個人事業主やクリエイターに愛される街

また、個人事業主、クリエイターなどの住民が多いのも特徴だ。

学芸大学では2021年から2024年にかけて高架下のリニューアルプロジェクトが行われているのだが、筆者は2023年に事業主の東急に取材をした。

同社では学大に住む多くの人たちの声を聞いており、それによると「すぐに都心に行ける立地にありながら、ほどよく離れてもいる、そうした距離感のせいか、会社員のみならず、個人事業者が集積している。建築家や編集者、デザイナーその他のクリエイター、プロフェッショナルが多いのが特徴。この街が好きという人が多かったのも印象的でした」(東急株式会社プロジェクト開発事業部で目黒・世田谷を担当する植松達哉さん)とのこと。

個性的な店にクリエイティブで地元が好きな人たちが集うと考えると、街で過ごす時間が楽しくないわけはない。小さな店で隣り合えば顔なじみも増えやすいし、趣味性の高い店もこの街なら成り立つという決断がしやすいはずだ。

加えて地元の町会、商店街もノリがよく、イベント開催を報告すると「いいじゃん、面白そう」と町会でチラシを配ったり、掲示板に貼ったりして応援してくれると聞いた。

新しい取り組み、新しい人たちに対してウェルカムな雰囲気があるわけで、海外から訪れる人、暮らすようになる人にとってこれは大きなポイントになっているはずだ。

外の人ではなく、ここに住む人を意識した高架下

ちなみに学芸大学の高架下は登場した時点から大きな話題になり、今も外から多くの人を集めている中目黒の高架下とは違い、この街に住む人を強く意識した「まちの縁側」というキーワードでリニューアルされている。

商店街と交差する位置にあり、ここで暮らす人達が出会える場として用意されたと言えばよいだろう。大きくメディアで取り上げられることは少ないが、街の人たちにとってリニューアルの満足度は高いと聞いた。

さて、海外からの目という意味では1つ、ほとんどの人が知らないであろう点を指摘しておきたい。筆者は2005年に学芸大学を紹介する記事をウェブで書いているのだが、そこで使われている筆者撮影の写真を借りたいとテレビ局から依頼を受けたことがある。

日本の原宿「KAWAIIカルチャー」の創始者とされ、2010年代以降、今では世界を席巻するKAWAIIカルチャーの世界的な認知度アップに大きく貢献したと言われる増田セバスチャン氏の番組を作るためにその写真を使いたいというのだ。

学芸大学西口商店街のオレンジや水色、黄色、赤とさまざまな色の看板が所狭しと掲げられた、日本人の目から見たらなんてことのない、いや、逆にごちゃごちゃしていてなんだかなあという風景の写真が彼の目からはかわいい商店街に見えたらしい。

どこかアニメっぽくて、ワクワクする

そこから類推するに海外の人たちには学芸大学の商店街はどこかおもちゃっぽく、あるいはアニメっぽく、ワクワクするものに見えている。そしてそれが面白く、クールな街という評価につながったのではないか。見慣れた人にはそんなバカなと言われそうだが、ありえない話ではあるまい。

日本ではいまだにかなりの人たちが開発こそが街を魅力的にするものと信じているようだが、世界の人たちの街の見方はだいぶ違う。無理に合わせる必要はないものの、開発されてこなかった街、学芸大学が評価されていることを考えると、これからは開発以外のやり方を考えてみる必要もあるだろう。

中川 寛子:東京情報堂代表

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