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中国鉄道メーカー、「水素車両」を積極展開の裏側 鉄道見本市、進出難航の「欧州向け」は出展せず

東洋経済オンライン / 2024年10月11日 7時0分

「イノトランス2024」会場内でもかなり目立つ場所に展示されたCRRC(中国中車)の車両=2024年9月(撮影:橋爪智之)

世界最大の鉄道メーカーとして君臨する中国のCRRC(中国中車)。2年に1度、ドイツ・ベルリンで開かれる「イノトランス」(国際鉄道見本市)ではこれまで、同社が何としても開拓したいヨーロッパ市場向け車両のほか、車体の主要構造にカーボンファイバーを用いた地下鉄車両の展示を行うなど、意欲的に自社技術を売り込んでいた。

【写真を見る】CRRCが出展した「玉虫色」の水素燃料車両とゴムタイヤ式トラム。過去のイノトランスで展示したヨーロッパ向け電気機関車や電車の試験線での様子も

カーボンファイバー製車両は大きな注目を浴び、後に中国国内では営業運転も開始されている。

では、2024年のイノトランスにCRRCはどのような車両を持ち込んだのか。

「ヨーロッパ向け」車両は展示せず

今回、同社が会場に展示したのは、水素燃料式都市間特急列車「CINOVA (シノヴァ)H2」と、次世代型トラム車両「CRRC ART(AUTONOMOUS RAIL RAPID TRANSIT)」の2車種だ。

【写真】CRRCが出展した「玉虫色」の水素燃料車両とゴムタイヤ式トラム。過去のイノトランスで展示したヨーロッパ向け電気機関車や電車の試験線での様子も

CINOVA H2は、水素燃料を動力源とする最高時速160~200kmの車両。車内には転換クロスシートを設けているが、通勤電車のロングシートのように横向きにもセットできるという点が面白い。航続距離も1000km以上(時速160km以下で走行した場合)とかなり長い。

CRRC ARTはバッテリー駆動のトラムだが、ゴムタイヤを装備しており、新たに軌道を敷く必要がない。道路上に白線を引くだけで、車両に設置されたセンサーがそれを追随する仕組みとなっている。

初期投資を抑えながら導入可能というのが売りだが、天候状況によって白線が識別困難となった際の制御などは、今後の課題と言えるのではないだろうか。また展示された車両はバッテリー駆動だが、水素燃料のオプションもあるとのことで、顧客に合わせて動力源を変えることが可能となっている。

いずれも中国市場向けの車両で、今回の展示のためだけに本国から輸送されたもので、同社の強い意気込みを感じる。とはいえ、同社が売り込みたいヨーロッパ市場向けの車両が出展されることはなかった。

CRRCは、前回2022年のイノトランスではヨーロッパ市場向け汎用型電気機関車「バイソン」を持ち込み展示した。ヨーロッパの機関車市場は、シーメンスの「ヴェクトロン」とアルストムの「TRAXX」という2車種が席巻しており、それ以外のメーカーは非常に小規模の生産にとどまっている。CRRCはそこへ殴り込みを掛けようという算段だった。

鉄道貨物輸送は、環境問題の後押しもあって今後ますます成長が見込まれていることに加え、各国で使われている機関車の老朽化に伴う代替需要や、国境での機関車交代が不要になる他国直通対応の複電圧機関車の導入が進んでおり、市場は常に活況を呈している。そこへ参入するという選択肢は的を射ているし、同社には機関車製造のノウハウもあるから、まったくの無茶ということはない。

だが、ヨーロッパ市場で運行するために必要な認証試験が、同社の市場参入に壁となっている。

逆風下で「技術力PR」に専念?

すでに何度も紹介している通り(2024年2月10日付記事「チェコに登場、欧州初『中国製電車』数々の問題点」など)、チェコで運行予定だった連接式電車「シリウス」はなかなか認証試験をクリアできず、ようやく本線走行の許可が下りたときには契約を切られ、辛うじて試運転に協力したレギオジェット社との間で短期間のリース契約が結ばれたという状況だ。

オーストリアの民間会社ウェストバーン向けの2階建て電車も、数年にわたって試運転が続けられているが、認証試験にパスしたというニュースは一向に入ってこない。

そして、ヨーロッパ市場で同社の信頼が揺らぎ始めたところへ追い打ちを掛けるように、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。

どちらかといえばロシア側に深い繋がりを持つ中国は、アルストムと提携して製造する予定だったベラルーシ向けの機関車についても、西側の経済制裁のあおりを受けて部品類の供給が絶たれたことから生産停止に追い込まれ、自社で代わりの部品を用意しなければならなくなった。

ヨーロッパ各国は、中国に対する警戒感をより一層強めており、今後しばらくはヨーロッパ市場で受注を獲得する可能性は薄くなるだろうと予想される。

その影響もあって、今回のイノトランスではあえて、ヨーロッパ市場向けの車両展示は行わず、純粋に自社の技術を世間に知ってもらおうという作戦に至ったと考えるのが自然だ。

CRRCが鉄道メーカーの世界シェア首位となって、まもなく10年となる。効率性と国際競争力の向上を目的として、中国国内の2大メーカーだった中国北車(CNR)と中国南車(CSR)が合併して2015年に誕生したのが国有企業CRRCで、合併以来世界シェア1位を保持し続けている。

売り上げの大半は中国国内の需要で、国内向け車両の90%が同社製品となっていたが、合併以降はアメリカやアジアに工場を建設、積極的に海外展開を進めていた。国内需要だけでは、新車投入が一段落したあと、売り上げが頭打ちになるリスクがあるため、国外へも進出しようという目論見であろう。

アメリカでは、地下鉄車両や近郊用客車など、小規模ながら着実に契約を獲得し、存在感を示していた。アジアでは、インドネシアの高速鉄道を筆頭に、こちらも同社が積極的な進出を果たしていた。となると、次に目指すべきは、日本と同じ鉄道先進地域であるヨーロッパ市場であった。しかしふたを開けてみれば、予想以上に参入の壁が高かったことに加え、ウクライナ情勢がその困難さに輪をかけた形となった。

見込みのある市場に注力しては?

だが、同社はヨーロッパ市場への参入をあきらめたわけではない。EUの中では異例のロシア寄りの立場を取るハンガリーに、CRRCが工場を設けることが明らかになっている。今年5月に中国の習近平国家主席がブダペストを訪問した際には、オルバン首相との会談で、ハンガリーの鉄道計画を中国の一帯一路構想の対象となるインフラプロジェクトのリストに含めることに合意したことを発表している。

ハンガリーは中国に協力的な立場を取っているため、仮にもし欧州市場に参入できるとすれば、まずはハンガリーからスタートする、という流れになるだろう。

ただ、鉄道の市場はヨーロッパだけではない。イノトランス会場のCRRCのブースは奇しくも日立のすぐ隣であったが、ブース面積では日立の倍近い大きさを誇るのに、終日通行が困難なほど人が通路にまで溢れ返っている日立に対し、CRRC側の訪問客は中国人が中心で、案内する社員も少々暇を持て余しているかのように、ベンチに腰を下ろしている姿が対照的だった。

可能性の薄いビジネスに賭けるより、より利益を見込める市場へアピールしたほうが、長い目で見た場合、同社にとってはよい選択になるのではないだろうか。

橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター

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