鳥貴族が買収「謎の焼鳥チェーン」人情派な儲け方 赤と黒の看板の「やきとり大吉」は"経営の教科書"だ
東洋経済オンライン / 2024年10月11日 8時20分
1977年の創業以来、独自の「生業(なりわい)主義」でファンを集め、急成長を遂げた「やきとり大吉」(以下、大吉)。多いときには年間120軒店舗を増やし、創業から20年で1000軒を達成した。
【画像11枚】「赤と黒の看板」でおなじみのやきとり大吉。知ってるようで知らない店内の様子はこんな感じ
店主の高齢化で現在は491店舗に減っているが、2023年にふたたび大きな注目を集めることになる。「鳥貴族」を経営するエターナルホスピタリティグループに買収されたのだ。
エターナルホスピタリティグループの大倉忠司社長は買収の理由について、「昔から大吉のファン。鳥貴族として独立してからも、大吉との差別化をずっと意識してきた」と公言している。そこまで大倉社長を惚れ込ませた要因はなんなのか。大吉の魅力と、他に類を見ないビジネスモデルに迫る。
最大の強みは、店主が焼台に立つ「生業主義」
大吉は直営が1軒もなく、全店個人経営のFCチェーンだ。通常、FCチェーンの多くは、FC運営会社が数店舗まとめて運営していることも多い。しかし、大吉は個人としかFC契約を結ばない。
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その理由は、店主が店の一番の魅力であり、強みだと据えているからだ。
焼鳥を売っているようで、店主の人柄や店主との会話を売っている。看板はあるけれど、実際は、「店主の魅力で成り立つ個人店」という位置づけなのだ。
これを大吉では「生業主義」と名付けている。生業主義のポイントは以下の3点。
1. 店主自らが仕入れを行い、食材の品質を直接確認する
2. 店主が毎日焼台に立ち、自らの手で焼鳥を焼き上げる
3. 接客も店主が中心となり、常連客との関係を築く
この3点の遵守により、大吉は各店舗に個性を持たせつつ、品質と顧客満足度の高い運営を実現しているのだ。
運営会社ダイキチシステムの近藤隆社長は、生業主義の徹底について、「店は店主とお客様の信頼関係から成り立っている、という飲食店の根本的ルールだと考えています。だから、なんらかの事情で店主が焼台に立てなくなった場合は、店を閉めてもらっています」と説明する。
飲食店を始めたい人とオーナー志望者をマッチング
大吉が生業主義を取り入れた時期は、1977年の創業時に遡る。当時、ダイキチシステムは「飲食界情報管理センター」という名前だったそうだ。
創業者でカリスマ経営者であった辻成晃氏が、「お金はないけれど情熱を持って飲食店をやりたい人」と「飲食店のオーナーになって、毎月一定額を受け取りたい人」をマッチングする、「店舗銀行システム」(店舗を介して資本を貸借するシステム)としてスタートした組織だったのだ。その根本には、「夢を持った人、若者を成功させたい」という理念があった。
このため、法人からのFC加盟の申し出はすべて断ってきた。店舗が100店を超えて注目される時期になると、「1億円出すから10店舗作ってくれ」という声もあったそうだが、例外なく断ったという。
しかも驚くことに、飲食店チェーンとして法人登録をしたのは平成に入ってからだそうだ。それまでは、情報産業系の企業として登録されていたのだとか。一般的な飲食店経営企業とは、一線を画すスタンスだということがよく分かる。
そんな大吉には、確固たる店舗フォーマットがある。まず、店舗は10坪程度にとどめること。10坪は、焼台から全席が見渡せるギリギリ限界の広さだ。次に、繁華街ではなく住宅街、それも1階路面店であること。このスタイルは、最初の30店舗をさまざまな場所に出した結果、決まったのだという。
というのも、繁華街に出した店は賃料が高すぎ、ネオンもギラギラしていて赤い看板が埋もれてしまったそうだ。
反対に、住宅街の店は目立って家族連れも来るようになり、自然に「家族連れでも行ける焼鳥店」というイメージができた。そうなると、繁華街の雰囲気はますますそぐわず、子供に危険も伴う。そこで、住宅街の地域密着店を目指すスタイルになったのだ。
店主との契約形態については、基本、2つの方法がある。1つはリース方式。初期費用149万円で加盟し、本部から店を借りて運営をスタートする形だ。ランニングコストとしては、毎月家賃12万~16万円、店舗使用料12万~16万円、ロイヤリティ3万3000円、設備費用1万1000円を本部に支払う。またこの場合、大吉の空いている店舗を指定されるため、店の場所を選ぶことはできない。
2つ目はオーナー方式だ。初期費用1800万円で店舗を購入し、ロイヤリティのみを払う形である。たいていのオーナーは1つ目のリース方式を選び、経験を積みながら店舗購入資金1800万円を貯金。溜まったらそのまま店を買い取るか、故郷で開店してオーナーになる。月々の店舗使用料がもったいないし、出店場所を選びたいからだ。
現在、9割のオーナーがすでにオーナー方式に移行しており、リース方式の店は50店舗程度だという。
ロイヤリティで儲けず「夢を叶えるサポート」を
通常FCチェーンビジネスはロイヤリティで儲ける。立地戦略や看板で人を集め、店の売り上げが上がるほどに、ロイヤリティも上げるのが一般的だ。
ところが前述した大吉のロイヤリティは3万3000円。店舗の売上高のボリュームゾーンが月々150万~180万円であることを考えると、破格の安さだ。筆者が飲食チェーンを取材して聞く平均的なロイヤリティは、売り上げの3~10%の間である。
ちょっと安いのでは……と尋ねたところ、創業当初はもっと安い2万円だったそうだ。そこからすぐ3万円に上げ、今はそこに消費税10%の3000円が付いてはいるが、40年間ずっと値上げしていないというから驚く。
この金額であり続けているのは儲けよりも、「夢を持った人、若者を成功させたい」という創業理念を追求するスキームだから。単純計算して、毎月本部に入るのはロイヤリティ3万3000円✕約500軒で1650万円。その収入で、わずか10人の社員で身の丈にあった運営をしているのだ。
とはいえ経営者の立場から見ると、もっと儲けがほしいと思って当たり前。近藤社長は以前、創業者の辻氏にロイヤリティの歩合化について質問したことがあるそうだ。
「ロイヤリティを売り上げに対してパーセンテージにしていくと、本部が全店舗の売り上げを管理せんとあかん。それはものすごく大変やろ」
「売り上げをごまかすような人も出てきて、本部と店舗の信頼関係もなくなる」
「それぐらいやったら、なんぼでも売ってくれて儲けてくれたらいい。その代わりに本部に一定の金額を入れてもらう。それが気持ちのいい商売や」
答えは予想外のものだった。ロイヤリティを一定額にすることは、管理の手間削減や、店主との信頼関係の継続にもつながっていたのだ。
「売り上げを管理しない」というコスト削減
この考えに賛同した近藤社長は、今新しいチャレンジをしている一部の店舗をのぞき、売り上げを一切管理していない。店舗と本部はオンラインでもつながっていないそうだ。各店の経営はあくまで、店主の自主性に任されている。
加盟店にPOSシステムを置き、売り上げを管理しようと思えばできるだろう。そのほうが当然、売り上げを上げる施策も打てるに違いない。だが、あえてやらない。「仕組みを知れば知るほど、知り合いや一般の方から『変な会社やね』と言われます。けど、最初からそういう会社なので仕方ありません」と近藤社長は楽しげに話す。
しかしこの体制は、差別化や競争戦略にもなっているのではないだろうか。
楠木建氏の『ストーリーとしての競争戦略』では、「ドライバーに車を売らない買取専門店」という常識破りの手法で中古車業界を制したガリバー・インターナショナル(以下、ガリバー)のFCモデルが「名作」として紹介されている。
ガリバーは長らく、一般客から車を購入はするが、小売販売はしてこなかった。売れずに在庫を抱えるリスクがあるからだ。その代わりに成約率の高い、業者向けの買い取りネットオークションに販売場所を絞ってきた。そうすることで手間を減らし、コスト優位な経営を続けてきたのだ。このビジネスモデルは、ロイヤリティを一定額にする代わりに、管理の手間や人的問題のリスクを減らした大吉と重なる。
焼鳥だからできた、安さと品質保持
大吉のような経営スタイルは、実は、焼鳥だからこそ成立しているそうだ。
というのも、飲食界情報管理センターとして起業した当初は、寿司、焼肉、スナック、お好み焼きなどさまざまな業態を試したという。そのなかで、鶏が最も物価に左右されにくく、全国どこでも品質の良い状態を仕入れやすい材料であり、調理のための設備費も軽かったそうだ。さらに、人件費も安く済み、住宅街の立地で集客できる……など数々の優位性から、最終的に焼鳥一本に絞ったのだ。
この判断は正しく、さまざまなものが値上げされる現在だが、大吉の焼鳥メニューは、今も1本140~200円(税抜)とリーズナブルだ。しかもこの価格は、2024年4月に全メニューの75%を20円値上げした後のものだという。一から店内調理していることを考えれば、十分に安いのではないだろうか。
一体なぜその安さと品質を保持できるのか。最大の理由は、大吉チェーンにはセントラルキッチンがないため、余計な配送費や作業費がかからないことにある。加えて、店主自らが地元の鶏肉店から仕入れ、自分で仕込むことで、調理コストも大幅に落としている。ここにも、大吉を「コスト優位」に導く工夫が行われているのだ。
もちろん、ほかにも安い飲食店はたくさんあるが、大吉ほど味とクオリティを維持しながら値段が安い店はなかなかない。近藤社長は、「新鮮な鶏を自店で仕込んできちんと焼いたら、おいしいに決まってます。冷凍や海外から輸入した鶏とは比較になりません」とにやり。
ここまで、店主の裁量が大きい大吉のビジネスモデルを紹介してきた。けれど、わずか2つだけ、本部から指定している事柄がある。
1つ目は、取引酒販店だ。どうしてか。メディアでもしばしば取り上げられているが、大吉は、取引酒販店にスーパーバイザーの役割を依頼しているのだ。
なぜなら、大吉の社員は1000軒を運営しているときから10人のまま。全国にある店舗管理や運営の把握までは、とても手が回らないのだ。
酒販店は、毎日配送に行く際に、「禁止している生ものや魚を提供していないか」など、依頼項目をチェックして月に1回ダイキチシステムに提出する。「間違った方向にいかないように、親目線で子供を見守ってほしい」とお願いしているそうで、この考えを分かってくれる酒販店に取引先を限定しているのだ。酒販店にチェック費用の支払いは発生しないが、その地域の大吉の酒の仕入れはすべて任せる形で、お互いにウィンウィンな関係を保っている。
もう1つ指定しているのは、アルコール銘柄だ。清酒は全国に13カ所ある酒造のいずれかの銘柄を、それ以外の酒はサントリー製品に限っている。
サントリーホールディングスはエターナルホスピタリティグループに買収される前は大吉の親会社であり、酒販店同様、店舗訪問をしてくれていた間柄だった。売却後はいち取引先となったが、現在も協力体制は続き、何らかの気づきがあれば報告してくれるそうだ。
「経営とはなんぞや」を教えてくれる感のある、やきとり大吉の儲けの仕組み。自分の店を持ちたい人を、持続可能な形で応援する“人情派”な経営スタイルは、独特にして多くの学びを与えてくれる。
ところで、買収の実態は…?
それにしても、20年傘下に入っていたサントリーホールディングスからエターナルホスピタリティグループへの売却は、なぜ、どのように行われたのだろうか。
後編ー最盛期から半減「やきとり大吉」"反転攻勢"の秘策 課題は店主の高齢化、「白い大吉」で若返りを図るーではその経緯と、売却後の変化について解説する。
笹間 聖子:フリーライター・編集者
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