スタートアップは経済成長に寄与しているのか 「GAFAMを日本から生み出す」という幻想を捨てよ
東洋経済オンライン / 2024年10月16日 13時0分
また、スタートアップが生み出す経済効果についても、明確に効果があるとは首肯しがたい部分もある。下記の図は、国内のスタートアップによる経済効果を表したもので、直接効果だけでも10.47兆円、52万人の雇用を創出したとされている。
一見すると、多大な効果があるように思うが、これにはカラクリがある。これは創業数年の企業だけの数字ではなく、1995年以降に外部出資を受けた企業(たとえば楽天)すべてを含んでいるのだ。つまり、実態としては、ここ30年ほどで創業して現在生存している企業の生み出す富が、直接効果で10兆円ほどということである(参考までに、楽天の連結での直近1年間の売上総額は約2兆円である)。これが大きいか小さいかは一概に判断できないが、印象操作と言われても仕方がない。
そのうえで、政府による支援の実績としても大きな効果があるとは言いがたいのが現状だ。2013年から日本におけるスタートアップへの投資額が10倍になっていることや、東京のスタートアップエコシステムランキングがTOP10に返り咲いたとされている。しかし、これは用いている統計に疑問が残る。10年前とは収集されているデータの質(情報収集能力など)が異なる。そして、そもそも長年公的資金を投入しているのだから投資額(投資対象企業)が増えているのは当然であるともいえるだろう。エコシステムランキングもあくまで東京で限定的に効果があったと言えるにすぎない。政府にとって都合の良いデータを並べている印象は拭えない。
スタートアップに期待されている役割
以上のデータも踏まえた筆者のスタートアップ研究から得た教訓は2つ。
1つ目は、スタートアップが経済活性化における「起爆剤」となる可能性は低いということ。もちろん、一握りのスタートアップがある程度の成長を実現することは間違いないが、多くのスタートアップは経済活性化に貢献しない。そもそも、アメリカ以外の国はGAFAMを出せていないし、それが政府の支援によって簡単に実現できたら、失われた20年、30年はなかったかもしれない。
2つ目は、スタートアップの成長に「特効薬」はないということ。成長はランダムで「運」の要素が強いことはおおよそわかっており、「こうすれば、成長できる」という単純な図式はない。ただ、「創業時の条件」は創業後に影響が持続することがわかってきており、詳しくは拙著を読んでほしいが、たとえば経験のない学生起業よりも、スピンアウトした場合やシリアル・アントレプレナーのように、業界経験や起業経験をもつ個人が起業するほうが成功率は高いことも研究から示唆されている。
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