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「現場丸投げ」では、企業の成長は永遠に不可能だ 「下へ丸投げ=信頼感」は大間違いです

東洋経済オンライン / 2024年10月17日 10時0分

「大胆な目標」で「アイデアを絞り出す環境を整備する」ことが「DXの効果創出」には必要です(写真:Turn.around.around/PIXTA)

ローランド・ベルガー、KPMG FASなどでパートナーを務め、経営コンサルタントとして「40年の実績」を有し、「企業のDX支援」を多く手がけている大野隆司氏。

大野氏のところに届く「経営層からの相談内容」が、このところ大きく変化してきているという。「DXの効果が出ない」という悩みが目に見えて増えてきているというのだ。

なぜ、こうした悩みが生じているのか。大野氏が自身の経験や大手・中小企業の現状を交えながら解説していく。

神奈川県の老舗旅館「陣屋」の奇跡

前回記事(御社の「DXが大成功する」解決策はたった2つだ)ではDXで効果を出すためには「大胆な目標」を設定することも必要だと述べました。

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日本におけるDXが欧米に比べて遅れを取っているのは、実はこの目標設定と進め方に大きな問題があるのです。

一例として「大胆な目標」を設定して大成功したケースをご紹介しましょう。

神奈川県・鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」の例です。

この旅館は、2010年頃より「顧客戦略の転換」「オペレーションの改善」「そこでのデジタル・ツールの活用」などにより、長年の負債を解消し黒字転換を成し遂げました。

廃業寸前の老舗旅館をわずか3年でV字回復させた奇跡の復活劇は業界でも驚きをもって迎えられ、メディアに登場する機会も多いのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。

さらには業界では例を見ない「週休3日制」を導入しているユニークな会社でもあります。

それらに加えて、この会社がさまざまな業界・規模の企業にも参考になるのは、黒字化や週休3日制などを支えている自社の情報システムを、クラウド経由で利用する他社にも外販しているということです(いわゆる「SaaS(サーズ)」といわれる形態です)。

現在は、これの利用料が売り上げの3割以上を占めているともいいます。

この会社のように「大胆な目標の実現」を可能とした業務プロセスやシステムそのものを外販する、という新しい事業も考えられます。

今こそケインズが述べた「週20時間労働の導入」?

これまで「大胆な目標設定」の大切さと述べてきましたが、そういうと「わが社は状況が違う」「うちの業界ではそれは難しい」と考える方もいらっしゃるでしょう。

そこで、すべての業種の方に、全社的な「大胆な目標」としておすすめしたいものを提案したいと思います。

それは「(報酬は現状と同レベルのままで)週20時間労働の導入」です。これはJ・M・ケインズが100年前に述べたことでもあります。

もし実現できれば、働き方のスタイル次第ではありますが、まるまる週に2~3日を休みにすることができます。

このとき従業員一人ひとりは「(会社以外も含めて)何をするべきか」に直面します。経営側も「何か新たにやってもらえることはないか」を真剣に考えざるを得ません。

もちろん真剣に考えたからといって、有意義な結果が保証されるほど甘いものではありませんし、暇があるから良いアイデアが生まれるものでもありません。

ただ、これくらい「大胆な目標」で「アイデアを絞り出す環境を整備する」ことが「DXの効果創出」には必要だと私は思うのです。

とはいうものの、実際には「大胆な目標」を示し、業務効率化のイニシアティブをとれる経営者はなかなかいません。

それどころか実際の経営では、ボトムラインには直接の効果が出ないことが見えていながら、ゴーサインを出してしまうケースが多いのです。

思うに、「現場の時間を捻出すれば、その空いた時間でボトムライン向上の何かが出てくるはずだ」という期待、現場力への強い信頼感があるからではないでしょうか。

「付加価値の高い仕事へのシフト」とは、この信頼感を反映したものにも思えます。

ただし、このスタイルは「下への丸投げ」と言い換えることもできます。

経営者の「現場丸投げ」は最悪の一手

「わが社もDXに取り掛かるぞ。ついては各現場はアイデアを出すように」と現場からアイデアを出させて、それらをまとめてDXの戦略とする企業も少なくありません。というより、多くの企業はこのやり方でやっています。

こうしたボトムアップのアプローチについては良い点もありますが、実際には、ことDXにおいてはデジタル・ツールを使った業務改善のオンパレードとなりがちです。

たとえば、約10年前からは「RPA」といったツールが流行しましたし、ここ数年は「ノーコード・ローコード・ツール」というものも出始めています。

しかし、これらが狙うのは「定常作業・繰り返し作業の自動化や業務効率化」(それが悪いとは言いませんが)がメインとした地道な業務改善です。

また、「生成AIの業務への適用」も話題になることは多いですが、実状は「議事録の自動化」や「情報探査の支援」といった業務効率化の域にまだまだとどまっています。

これでは「トランスフォーメーション(=改革)」にはほど遠いと言わざるを得ません。

しかし、それも無理なからぬことです。

いくら経営側が「今までのやり方にとらわれずゼロベースで考えよう」と言ったとしても、現場はどうしても現状の仕事にひっぱられることは避けられません。

DXで現場という資源を活かしきるためには、まずは経営者が「大胆な目標」を提示し、現場がその実現への知恵を出していくという進め方こそが現場に対する信頼感の正しい表し方でしょう。

DXの成否は「経営者の胆力」にかかっている

現場にいきなり「新規事業を考えよ」というのは厳しいかもしれません。

しかし、既存事業を新しい顧客や市場に展開する、既存市場へ新商品を投入するなどといった成長・拡大の方向性と、大まかな数値目標や目安を決めて現場に下ろすのであれば、実現可能性はグッと高まります。

業務効率化に限定するとしても、より大胆に「CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル/原材料や商品仕入などに現金を投入してから最終的に現金化されるまでの日数)をマイナスにせよ」といった目標の置き方もよいでしょう。

現場という貴重な資源を使うのならば、競合がちまちまとしたDXをやっている隙をついて「大胆な目標」を掲げ、トランスフォーメーションを志向し、競争力をつけていくことが賢いやり方ではないでしょうか。

DXで確かな効果を出すためには、「大胆な目標」を定める「胆力」こそが、今こそ経営者に必要なものだと痛感しています。

大野 隆司:経営コンサルタント、ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ合同会社代表

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