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能登・仮設住宅浸水、ハザードマップの「想定外」 「地震が起きたあとの水害」リスクは全国各地で

東洋経済オンライン / 2024年10月17日 12時31分

輪島市内では仮設住宅の建設が進み、ようやく落ち着いて生活再建に向けて頑張ろうとしていた被災者も多かった(写真:UPI/アフロ、2024年2月撮影)

今年の元日、令和6年能登半島地震(以下「能登半島地震」)に見舞われた石川県・能登半島北部は、令和6年9月能登半島豪雨により再び大きな被害を受けた。前記事でも述べたように、ようやく復興の兆しがあった矢先、人々の心を折る深刻な被害だった。現地調査を行った筆者が、ハザードマップの有効性はどうだったのかを検証する。

【前の記事】:「地震と豪雨」能登半島ダブルパンチの深刻さ

仮設住宅における浸水被害の原因は?

能登半島地震では多くの家屋が倒壊などの被害にあったため、急ピッチで仮設住宅を建設、入居が進んでいた。

【写真】地震で被害を受けた住宅地の中を、豪雨で出た水が川のように流れていった

ところが石川県によると、今回の豪雨で石川県輪島市・珠洲市にある6カ所の仮設住宅団地が床上浸水の被害に見舞われた。そのうち輪島市街地にあった4カ所について、筆者は各地の被害状況とハザードマップとの関連性の調査・検証を実施した。

下図は仮設住宅の位置をハザードマップに重ね合わせてみたものだ。赤字で示した仮設住宅が、床上浸水の被害があった仮設住宅団地名である。

ニュースなどで「大型店舗の近隣にある仮設住宅」としてよく報道されていたのが「宅田町第2」という仮設住宅である。すぐ西側に「宅田町第3」がある。これらの場所では床上30cm近くの浸水が確認された。

同じ地域の南側に、「山岸町第2」がある。こちらは「床上ギリギリ」の浸水が確認された。

この近辺を「洪水ハザードマップ」で見ると、東側にある河原田川からの浸水を想定して色がついている。しかし今回の豪雨で、最も山側にある「山岸町第2」に押し寄せた水は、南西側の山を流れる小さな河川から来ていた。

この小さな川には暗渠(あんきょ)となっている部分がある。暗渠とは、地下に埋設したり、ふたをしたりした水路のこと。今回の豪雨では、その暗渠が土砂で埋まっていることが確認され、行き場を失った水が外へあふれ出てしまったとみられる。

【画像・写真】「比較的安全な場所はどこか?」検証した結果など

地元の方に聞くと「毎年春先に業者を入れて土砂を取り除いているが、今年は地震があって手をつけていなかった」という話を聞いた。

土砂を浚(さら)っていても多量の土砂流出があった可能性はあるが、このような小さな河川からあふれた水が道路を流れ、仮設住宅に流れ込んだことが氾濫被害につながったことはあまり知られていない。

「稲屋町」でも地元の方のお話から「床上ギリギリ」の浸水があったことを確認した。さらにこの付近は、「以前から浸水しやすい場所である」との話を聞いた。

また今回の豪雨時は、平野を流れる鳳至川からではなく、「山のほうの川に向かう道が40㎝ほど浸水し、道路が川のようになっていた」という。

山側の川に向かってみると小さな橋に流木などが引っかかり、川沿いにある道路が大きく浸食されていた。川が氾濫し、道路を大きく浸食したのだろう。こうした川からの水が、近隣の仮設住宅側に流れ込んだものとみられる。

ハザードマップの評価は…

輪島市街地4カ所の床上浸水があった仮設住宅において、ハザードマップ掲載状況と実際に起きた事象をまとめ、私の見解から下図のように評価した。

宅田町第2、第3、山岸町第2は洪水ハザードマップで3.0~5.0mの浸水想定区域になっていたが、これはあくまで「河原田川の洪水」による想定である。

だが実際に起きた現象は、主に河原田川や鳳至川ではなかった。仮設住宅から見て、それらの川から反対側にある山側の、ハザードマップ作成対象ではない小さな河川の氾濫であったのだ。

稲屋町においては、河川の洪水ハザードマップの範囲外、ごく一部が土砂災害の警戒区域(急傾斜地の崩壊)に相当していたが、実際に起きたのはハザードマップ作成対象となっていない小河川の氾濫だった。

そのため、輪島市街地で床上浸水があった仮設住宅の4カ所については、いずれもハザードマップの作成対象となっている河川が氾濫したものではなく、ハザードマップで想定されていない河川の氾濫によるものと考えられることから、すべて「×(不的中)」であると評価した。

一般的に安全な場所は「高台の台地にある平坦地」

輪島市街の浸水被害でみられた事例から、今後、同様の被害を防ぐ方法について考えてみたい。

そもそも被害があった輪島市は、そもそも急峻な山がちで低地が少ないエリア。低地は水害、山側は土砂災害のリスクが高い地域であった。

さらに、能登半島地震によって山側で土砂崩落や堆積などが発生したことで、その後の豪雨によって低地側で氾濫や土砂流出の被害が拡大したものとみられる。

輪島市街地において筆者が調査で確認した範囲では、洪水ハザードマップで想定していた平野を流れる河原田川の氾濫による影響は、輪島市役所周辺などの限定的だった。

一方、住宅の流出や各地仮設住宅の浸水被害をもたらしたのは、ハザードマップで想定されていない小河川の氾濫によるものだった。

これらのことから「ハザードマップで色がついていない場所でも注意」ということが改めて明らかになった。水害については、洪水ハザードマップがあっても、中小河川の氾濫や内水氾濫は想定されていない場合があることを知っておいてほしい。

河川沿いの低地だけではなく、高台と思われている地域でも周囲より低い場所では浸水に注意が必要だ。そしてハザードマップがない小さな川であっても、特に狭い谷の部分や大きな川の合流点付近は、床上浸水以上の被害を受ける可能性があることを頭に入れておく必要がありそうだ。

土砂災害ハザードマップも同様だ。周囲にがけや斜面がある場合、「土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)」の指定基準となる「傾斜度が30度以上で高さが5m以上の区域」に満たない角度や高さでも、崩れてくることがある。

特に、地震などによって山側の地盤(盛土地盤の可能性あり)が大きく崩落などしている場所では、豪雨によって土砂流出が発生する可能性があるので警戒したい。

従来は土砂災害が警戒されていない地域で、急傾斜地崩壊や土石流のような現象が起こることがあった。地震で被害が大きかった場所では、今後同様のケースが起きると想定し、対策と注意が必要になるだろう。

なお、一般的に安全な場所はどこかというと、セオリーからいえば川沿いの低地や傾斜が大きい山地ではなく、高台の台地にある平坦地だ。首都圏では東京都内西部の武蔵野台地、埼玉県の大宮台地、千葉県の下総台地などが該当する。

しかし、輪島市ではこの条件の場所は限られる。市内はすでにハザードマップの色がついているところも多く、それ以外にも山側からの河川の氾濫も想定される状況にある。

輪島市内の台地域は、下図でオレンジ色の場所が台地になる。台地で、かつ平坦地と言えば、緑色の線で囲った市役所南方、旧輪島中(上野台中)付近の台地だろうか。

この場所にも仮設住宅があるが、外観をみたところ氾濫や土砂災害などの影響もみられなかった。現在大きな道路を作っているようであるが、ぜひ貴重な「災害リスクの低い地域」として活用が進むことを願う。

この台地の南側、さらに山側にある気勝平町も傾斜がある斜面の造成地で、盛土地では切盛造成による地震被害は想定されるが、山に近い場所を除けば土砂災害、水害の被害は限られるだろう。

ハザードマップの「想定外」も頭に入れて

このような事例は能登半島だけに限るものではなく、大きな地震の後、その復旧が進まない段階で水害に見舞われる、というケースはどこでも起きうる。

首都圏でも、首都直下地震で堤防などがダメージを受けたあとに豪雨により川の水位が高くなった場合、堤防が決壊等することで甚大な被害を受ける可能性がある。最悪のケースは「地震のみ・豪雨のみ、ではない」という意識を持つことが大切だ。

現状では少なくともハザードマップを参考にするしかないが、輪島市の例だけでみてもハザードマップには「想定外」が発生するのがよくわかる。

災害リスク情報に加えて、それ以上の個々の世帯の状況に寄り添った備えの優先度から、命を失わないため、怪我をしないため、次に災害後にも変わらず生活できるための備えについて、体系的にアドバイスなどができる仕組みが必要な段階にあるように考えている。

【画像・写真】「比較的安全な場所はどこか?」検証した結果など

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横山 芳春:だいち災害リスク研究所 所長・地盤災害ドクター

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