「FIREで人手不足」論から抜け落ちている重大側面 より深刻なのは弱い需要による「日本経済の縮小」
東洋経済オンライン / 2024年10月18日 10時0分
むろん、FIREが増えれば労働力が減少することは事実だと思うが、これは絶対数で考えた労働力の減少の議論であり、そのときに「人手」が「不足」するかどうかは需要次第である。
FIREした人がまったく消費をしなくなることは考えにくいが、労働所得がなくなる分だけ消費は抑制されるだろう。前述した日銀の議論と同様に、「人手不足」の議論をするのであれば需要側の変化も調べなければならない。
分析のうち「社会機能が成り立たなくなる可能性がある」という部分には筆者も賛成だが、「労働需給が逼迫して賃金に上昇圧力がかかることで企業にとってコストの増加要因となる。そうなると、企業は利益を補填するために価格転嫁をせざるを得なくなりインフレにつながる可能性もある」という点については「状況次第であり、ミスリーディングな部分がある」と言わざるをえない。
以上の状況を整理すると、「人手不足によるインフレ」という考え方自体が、現在のインフレ環境で受け入れられやすい「ナラティブ」に過ぎないと言える。
言い換えると、「人手不足によるインフレ」ではなく、「インフレだから人手不足」と考えることもできる。
インフレが人手不足をクローズアップしている?
むろん、「インフレだから人手不足」というのは経済メカニズム的にはありえない話だが、「インフレだから(下向きの人口動態の状態を)人手不足(と捉えて問題視しやすくなっている)」という可能性は十分にあるだろう。
例えば、Google Trendsで「人口動態」と「人手不足」の検索数を指数化すると、2014年頃までは「人口動態」の検索数が多かったが、最近では「人手不足」のほうが注目されている。
前述したように、いずれも「下向きの人口動態」という同じ現象を示しているのだが、人々の捉え方が変化している。
ここで、「人手不足」と「人口動態」の検索数の差を示すと、実際のインフレ率と連動していることがわかる。
「人口動態」の検索数自体はそれほど大きく変わっていないことを考慮すると、やはりそのときのインフレ(デフレ)の状況によって人々の捉え方が変化しているのだろう。
人口動態とインフレの関係がナラティブに過ぎない場合、円高など何らかの要因でインフレ局面が終わったときに、他の新しいナラティブが市民権を得て、世の中の見方が変わっていくという可能性がある。少なくとも、経済分析において「人手不足だからインフレ」というナラティブに依存し過ぎることは危険であると、筆者は考えている。
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