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「なぜ兄だけに遺産?」親介護してきた"弟の絶望" 「お前に全て渡す」遺言ひっくり返った衝撃顛末

東洋経済オンライン / 2024年10月20日 10時30分

「遺言書が複数存在した場合」について解説します(写真:Ushico/PIXTA)

結婚しても子どもをもたない夫婦、いわゆる「おふたりさま」が増えている。

共働きが多く経済的に豊か、仲よし夫婦が多いなどのメリットはあるものの、一方「老後に頼れる子どもがいない」という不安や心配がある。

そんな「おふたりさまの老後」の盲点を明らかにし、不安や心配事をクリアしようと上梓されたのが『「おふたりさまの老後」は準備が10割』だ。

著者は「相続と供養に精通する終活の専門家」として多くの人の終活サポートを経験してきた松尾拓也氏。北海道で墓石店を営むかたわら、行政書士、ファイナンシャル・プランナー、家族信託専門士、相続診断士など、さまざまな資格をもつ。

その松尾氏が、「『お前に全て渡す』遺言ひっくり返った衝撃顛末」について解説する。

何もしない兄と、父の介護に尽力した弟

会社員のTさんは40代。

【知れば安心】子供がいない&子供に頼りたくない「おふたりさま」の"老後の不安"が全部1冊で解消すると話題のベストセラー

妻は同年代で共働き、まだまだ手のかかる小学生と中学生の子どもがいます。

Tさんの母親はすでに亡くなっていたのですが、70代の父親が3年前に脳梗塞で倒れ、麻痺が残ってしまいました。

Tさん夫妻は毎週末、父親のところに出向き、何かと世話をしてきました。

Tさんも妻も平日に有給休暇などを使い、父親の病院の付き添いなどもしました。

遊びに連れていくこともできず、子どもたちには申し訳なく思っていましたが、父親のために誠心誠意尽くしてきたのです。

Tさんには兄のKさんがいるのですが、兄夫婦は「忙しいから」「子どもがまだ小さいから」といった理由で、まったく手助けをしてくれませんでした。

父親はTさん夫妻の献身に大いに感謝し「何かお礼がしたい」と言い出しました。

そしてなんと「自分の財産はすべてTさんに渡す」という遺言書を書いてくれたのです。

不公平な遺言ではありますが、自分たちばかりが大変な思いをし、何度連絡しても父親の家に顔を出すことすらしない兄のKさんに怒りを覚えていたTさんは、遺言書の内容をありがたく受け入れることにしたのです。

しかし、遺言は「Tさんに渡す」ではなくなっていた…

そして1年ほど前、認知症の症状も出はじめていたTさんの父親は、施設に入所することになりました。そして残念ながら、ひと月ほど前に亡くなってしまったのです。

無事葬儀も終わり、相続の手続きをはじめると、Tさんは驚愕の事実を知ることになります。

なんと、父親はTさんではなく「兄のKさんにすべての財産を渡す」という遺言書を残していたからです。

Tさんは驚きました。父親は「Tさんにすべての財産を渡す」と言っていたはずなのに……。

しかし、兄のKさんによれば「親父はしょっちゅう施設に見舞いに行った俺たちに感謝して、遺言書を書いてくれた」というのです。

なぜ、こんなことになったのでしょうか?

父親が施設に入ってから、Tさん夫妻は安心して会いに行く回数も減っていました。

施設の職員さんの話では、兄のKさんはTさんとは逆に、施設にしょっちゅう顔を出していたというのです。

兄のKさんと父親の間に、実際どんな会話があったのかはわかりません。

想像でしかありませんが、「弟(Tさん)にすべての遺産を渡す」という遺言書の存在が父親から兄の耳に入り、それに業を煮やした兄のKさんが、父親を言いくるめて新しく遺言書を書かせたのかもしれません。

お金がほしかったわけではありませんが、Tさんには無力感しか残りませんでした。

父の死を悼む気持ちにもなれず、兄とは「縁を切りたい」とまで考えるようになりました。

介護に尽くした2年間を思い出すと、父親に裏切られたような気持ちになり、なんともいえない虚しさに苛まれています。

財産の大半は「介護をしなかった兄」へ渡ることに

ちなみに、実子には遺留分(最低限保証された遺産の取得分)があるため、財産のすべてが兄のKさんに渡るわけではありません。遺留分の侵害請求権を行使すれば、Cさんは4分の1の遺産をもらう権利があります。

しかし、父親の財産の大半が兄に渡ることには変わりません。

父親の遺産は4000万円ほどで、結果的に兄のKさんが約3000万円、Tさんが約1000万円を相続することになりました。

今回のケースのように、遺言によって深い禍根を残さないためにも、みなさんに知っておいてほしいことが2点あります。

①遺言書は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」がある

主な遺言書の種類として、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。

「自筆証書遺言」は、自筆で書くこと、名前・日付を入れること、押印することなどの条件をクリアしていれば、自分で勝手に書くことができます。

対して「公正証書遺言」は、公証役場で公証人立ち会いのもとに遺言書が作成され、原本が公証役場に保管されます。

おすすめは断然「公正証書遺言」です。

「自筆証書遺言」は盗難や紛失、偽造のリスク、さらに遺言書の不備によって無効になるリスクがあります。

「公正証書遺言」であれば、本人の意思をしっかり確認したうえで専門家が作成するため安心ですし、盗難や紛失、偽造の心配もありません。

揉め事になりやすい「自筆証書遺言」

今回のケースでは、どちらの遺言書も「自筆証書遺言」でした。

「自筆証書遺言」は、公正証書遺言のように第三者の立ち会いがないこともあって、内容が極端に傾きがちで揉め事になりやすいのです。

とくに、Tさんの父親のように認知症を患っていた場合、文字を書くことはできても、判断力が十分であったか、その確証はありません。

「被相続人には判断力がなかったから遺言書は無効である」という裁判を起こすことも可能ですが、時間も費用もかかり、判決もどうなるかはわかりません。何より、兄弟の仲がさらに泥沼化することは必至です。

自筆証書遺言とともに、動画によるメッセージなどがあれば判断力があったというひとつの証拠にもなりますが、それでもやはり公正証書遺言のほうをおすすめします。

②遺言書が複数ある場合、日付の新しいものが有効となる

遺言書が複数存在する場合、後に書いたものが有効です。

今回のように、2つの遺言書が存在し、矛盾する部分がある場合は、日付の新しいものが有効とされます。

自筆証書遺言であっても公正証書遺言であっても、関係ありません。公正証書遺言が優先されることもありません。

そのため、相続人にとっては「自分に渡すという遺言書があるから安心」というわけではないのです。

不公平な遺言書はおすすめできない

遺言は「故人の意思を尊重するためのもの」です。

『「おふたりさまの老後」は準備が10割』を執筆した「終活の専門家」として言わせていただくなら、相続をスムーズにするために、どなたにも遺言書を書くことをおすすめしています。

しかし、「不公平な遺言」はその後の人間関係に必ず禍根を残すことになるため、内容については十分に考えることが重要です。

病気になったり体が弱ったりすると、誰しも気弱になるもの。

つい、現在進行形で世話をしてくれる人に頼りたくなるという気持ちもわかります。

Tさん、Kさん兄弟のようなケースは極めて遺憾ですが、元気だった頃のお父様の真意は「自分亡きあとも、子どもたちが幸せに暮らすこと」だったはずです。

「不公平な遺言」のせいで、結果的に兄弟の仲が悪くなってしまうというのは、残念でなりません。

自分が亡くなったあとのことは「準備次第」で180度変わる場合もあります。

遺言書を書くにしても、急な思いつきではなく、専門家に相談するなど「十分な準備」をしたうえで、「遺族が幸せになる道」を考えたいものです。

松尾 拓也:行政書士、ファイナンシャル・プランナー、相続と供養に精通する終活の専門家

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