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QBB「チーズの種類多すぎ」を生む組織作りの秘訣 「開発先導型」と「消費者起点」で描く成長戦略

東洋経済オンライン / 2024年10月25日 8時30分

「QBBチーズ」などの商品で知られる六甲バター。定番のベビーチーズに加え、近年はチーズデザートも人気を博しているが、旺盛な商品開発の背景には組織づくり、風土づくりの工夫があった(編集部撮影)

低糖質ブームや健康志向の広がりの中、糖質が少なく、栄養価が高いチーズへの需要が高まっている。万年ダイエット中な筆者の家飲みのお供も、罪悪感の少ない6Pチーズだ。

【画像6枚】神戸牛入りや、北海道産ホタテ入りもある、QBBのベビーチーズ

そんなわけでよくチーズ売り場に行くのだが、どうもQBBチーズ(以下、QBB)の存在感が大きい気がする。スーパーによっては、乳製品売り場面積の2/3を占めている店もあるくらいだ。

気になって調べてみると、QBBを手掛ける六甲バター株式会社は、長年プロセスチーズ(ナチュラルチーズに加熱処理を施すことで熟成を止め、保存できるようにしたチーズ)のトップシェアメーカー※であることがわかった。しかも社員わずか492名で、2023年の粗利益は63億円。2022年4月には東京証券取引所第1部から、東京証券取引所プライム市場に移行している。 (※インテージSRI+ベビーチーズ4個市場2023年1月~12月累計販売個数)

関西人の筆者としては「昔から神戸にあるチーズメーカー」くらいの認識しかなかったが、結構、優良企業だったらしい。成功の要因はどこにあるのか。

バラエティが生まれる「開発先導型」の社風

1958年以降、プロセスチーズを作り続けて65年。全売上高の95%以上がチーズを占める六甲バターは、ほぼ専業でQBBブランドのプロセスチーズに特化し、商品開発を行ってきた。

【画像6枚】「ベビーチーズは2億本売れる」「しかも17種類も!」…。QBBで知られる六甲バターは、開発先導型の風土で「多すぎる種類」を実現してきた

ライバルとなる大手乳業メーカー各社もプロセスチーズを扱ってはいるが、ほかの乳製品や、それ以外の食品も手掛ける兼業だ。

加えてQBBは、チーズのバラエティが異常に多い。例えば、年間2億本以上を売り上げる一番人気のベビーチーズだけでも、「定番」「プレミアム」「お酒のおつまみ」「日本の名産」と4シリーズ展開しており、合計17種類もある。

スライスチーズは12種類、6Pチーズは4種類プラス、デザートタイプが期間限定を含めて8種類。全シリーズを合わせると60種類以上にも及び、その多彩さは他の追随を許さない。今風の言葉で言えば、「チーズの種類多すぎ(褒め言葉)」なのだ。そして、この多くのチーズからお気に入りを選べる楽しさが、消費者に支持されている。

「開発先導型」で、挑戦をする組織風土を生む

これだけ種類が多い理由は、「新しいことへの挑戦を後押しする社風」にあるそうだ。

この社風は、前会長で現相談役の塚本哲夫氏が常々、「開発先導型活力企業であるべき」「進取の気性を持て」「常に新しいことに取り組んでいこう」などと、社員に語りかけていたことにはじまったという。

具体的にはどういうことか。たとえば新製品発売前に行われる、経営陣の承認を得る会議。この際に同社では基本、「おいしければ承認し、応援する」姿勢だそうだ。もちろん、最低限の利益率の目安は商品ごとにあるが、あえて明確な線引きは設けられていない。

それよりも、絶対に妥協できないのは味。味の担保と材料費のバランスについて、毎回徹底的に議論して、なんとか納得できる妥協点をみつけるという。だからこそ、クオリティが高く、なによりおいしい製品が生まれるのだ。

この姿勢は経営陣だけでなく、社内にも広く浸透している。2022年、ベビーチーズの「焦がしにんにく&ねぎ油風味」の開発の際は、工場から、「この商品を作ると工場全体がにんにく臭くなる」とクレームが出たそうだ。でも、味はどの部署の人が食べてもおいしいと感じられた。「ならば、匂いを気にせず売ろう」と即決したそうだ。

結果、「焦がしにんにく&ねぎ油風味」は販売後すぐにヒット。すると工場は「よかったやん」と喜び、「売れるんやったら協力するで」と、さらに協力体制が強まった。

「新しい製品や味づくりについては自由度が高いですね。たとえ若手でも、誰かが一生懸命考えたことを、頭ごなしに駄目という文化はありません」と六甲バターのマーケティング本部長・黒田浄治さんは穏やかに話す。

部署間の連携、風通しの良さを作る工夫

さきほどのエピソードでも垣間見えるが、六甲バターでは、部署間の連携を大切にしている。ものづくりをする企業においては、得てして、作る側と売る側の連携がとれていないことも多い。だが六甲バターには、「部署の垣根を越えて議論できる」土壌があるという。

特に製品開発の現場では、ブランディングや味を考える段階から、マーケティング部と製品開発部、営業本部で徹底的に議論を重ね、深めているそうだ。順を追って言えば、まずマーケティング部が消費者調査をしてニーズを掴み、方向性を決めて、営業本部と製品開発部と共有。製品開発部がそれに基づく製品を提案し、営業本部がその販売方法を考えるという流れ。この節目節目で集まって議論を交わし、最終的にお互いが納得したうえで、上層部に上申するスタイルをとっている。

また、後編で詳しく紹介するが、六甲バターでは「開発者による社内営業」も行われる。新製品の発売に当たり、開発者とマーケティング部、営業本部の企画部門担当者が全国の支店を回り、対面で商品説明を営業マン向けに行うのだ。相応の工数がかかるわけだが、結果的に、開発者が営業の視点を育成することにもつながっている。

このように建設的な議論ができるベースには、「営業さんが店頭においてくれないと、消費者に届かないから」「おいしいものを作ってくれないと、消費者に愛されないから」と、お互いにリスペクトし合っている関係性がある。

いったいなぜ、そのような関係になれたのか。黒田さんは、「マーケティング部が5年前にできた、新しい部署であることも大きいのでは」と推測する。

マーケティング部は、現社長兼CEOの塚本浩康氏が、2018年に取締役副社長兼開発本部長になった際、「ものがあふれかえってそう簡単に売れない時代には、マーケットインのものづくりが必要だ」と開発本部の中に作った部署だ。

タイミング的に他社より遅いと感じるかもしれないが、それ以前は、営業本部の企画部門がマーケティングに近い仕事を担当していた。営業本部の企画部門と製品開発部で商品を作り上げていたのだ。その企画部門出身のメンバーが、黒田さんを含めて今もマーケティングにいる。そして、製品開発部出身のメンバーも。

こういった部署をまたいだ異動や昇進があるからこそ、お互いの部署を行き来し、相手の立場に立って物事を見ることができるのだという。

「もちろん、だからと言って手加減することはありません。マーケットインとプロダクトアウト、両方の考え方を融合することを意識して、しっかりと議論しています」(黒田さん)

組織づくりと商品づくりは大きく影響しあう

これは一般論であり、特定の企業について述べたものではないが、新しい部署が新設されることで、人材の交流が途切れる事例は少なくない。

例えば新設部署のトップが、抜擢人事で選出された際に、他の部署のトップからの反感を招くからだ。その結果、部署間の異動が極端に減少し、「今の仕事をずっとしたいわけじゃない」若手は会社を去る決断をすることもある。

また、退社しない社員の中にも、「同じ会社の人間なのに、別の島の人がなにを考えてるのかわからない」状態が生まれてしまう。組織の停滞感を生むのは、往々にして安易な人事差配であることも多いのだ。

その点、六甲バターでは堅実なやり方で、新しい部署を作り、部署間の垣根を生まないままで、よりマーケットインなものづくりを進めてきた。中途入社でマーケティング部に配属された黒田さんの部下は、「社長や相談役、製造や営業の人と、こんなに距離が近いんですか」と驚いたそうだ。

さて、さきほど、六甲バターは「開発先導型」企業であると言ったが、六甲バターが開発しているのは、商品だけではない。仕事の手法や店頭での売り方も開発している。

そこで中編では、QBBチーズを全国に売りまくる営業マンたちの奮闘と、彼らに商品を託す開発部の想い、そして「開発先導型」企業の根底にあるアメーバ経営についてご紹介したい。

笹間 聖子:フリーライター・編集者

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