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ノーベル物理学賞に「AI研究者」の選出で波紋 AIと物理学の関係とは? 物理学界隈からは賛否両論

東洋経済オンライン / 2024年10月25日 9時20分

もちろん、AIやニューラルネットワークの利用は、物理学への応用にとどまらない。もっと身近で実用的な分野でも活用されている。たとえば気候モデリングの技術は、高度な機械学習技術を地球全体の物理的な理解に統合して気候の予測を改善している。核融合エネルギーの開発では、AIでプラズマ閉じ込め技術や原子炉の研究を最適化し、商業的に実現可能なクリーンエネルギー源への道筋を開いている。

材料科学の分野でも、AIとニューラルネットワークが、これまでにない特性を持つ新材料の発見を加速させている。量子力学と物性物理学が重要なこの分野では、材料の特性を予測し、実験研究に機械学習のアプローチを活用して大きく様変わりしつつある。

このように、AIを駆使する手法を開発している科学者たちは、物理学とコンピューター科学の交わる場所で研究を進めており、物理学における最高の栄誉に値する貢献をしていると言えるだろう。

約120年前にその歴史が始まって以来、ノーベル賞は基礎的な学問分野だけでなく、そのときどきで社会に大きな影響を与える実用的な発明や研究、業績に光を当て、その栄誉を与えてきた。たとえば新型コロナのパンデミックでわれわれにも身近になったPCR分析法の発明は、1993年のノーベル化学賞を受賞している。

このような前例があることを考えても、今年のノーベル物理学賞が決して的外れな基準で選ばれたわけではないと言えるだろう。

AIが「ダイナマイト」にならない仕組みが必要

ノーベルが発明したダイナマイトは、トンネル掘削などの土木工事を飛躍的に早く、安全に進められるようにする革命的なものだった。そしてノーベルは、ダイナマイトの特許によって大きな財産を得た。

やがて戦争が起こると、ダイナマイトは大量虐殺用の兵器として使われるようになった。ノーベルは、ダイナマイトが兵器として使われたとしても、それが抑止力になるのを期待していたという。ところが実際は、ダイナマイトの破壊力は戦争をさらに激しいものとした。

そしてノーベルの兄が死去したとき、それをノーベル本人と思い込んだ新聞が「死の商人、死す」との見出しの記事を掲載したのを知ったノーベルは、人々の安全のために作った道具が、人々を殺すための物だと認識されていることに、大きなショックを受けたと言われている。

現在、大幅に進歩したAIやその応用技術は、人々に役立つものとして大々的に宣伝されている一方で、ダイナマイトのように本来とは異なる使い方がされたり、誤った目的に使われたりすることで、誰かを傷つけたり、誰かの仕事を奪ったり、誰かの権利を侵害したりする事例が発生し、関連する裁判も起こされるようになって来ている。究極には、戦争などで人類の将来を危機にさらすといった、SF映画の中の話のような問題の発生も危惧されつつある。

ジェフリー・ヒントン氏が2023年にGoogleを離れたのは、AIが自身の想定を超える発達を見せ始めたために、その危険性を人々に訴えかけるためだった。

今のところ、AIはまだソフトウェアでしかないが、人々が意志決定にAIの力を借りるようになれば、その判断によっては予想外のリスクを生み出す可能性も考えられなくはない。SF映画の中の出来事が現実にならないよう、AI研究者や科学者、AI企業らには、高い倫理基準や、リスク軽減のための方法を用意することが求められる。

タニグチ ムネノリ:ウェブライター

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