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習近平の理想は始皇帝、台湾併合は中華統一の一環 強国を目指した始皇帝の思想を中国共産党が踏襲

東洋経済オンライン / 2024年10月26日 15時0分

兵馬俑。死後も始皇帝を守り続けることが求められた(写真:nishi220/PIXTA)

習近平政権の下で、秦帝国や始皇帝の評価が再び高まりつつあります。「台湾などが中国に属するべき」との主張を正当化するうえで、中華の統一者である始皇帝を持ち出すことが好都合だからです。

※本稿は、『中国ぎらいのための中国史』より一部を抜粋・編集したものです。

中国人の国家観

近年の習近平体制のもとで、秦帝国や始皇帝の評価は再び高まる気配をみせている。今回のキーワードは「大一統」だ。これは天下のさまざまな人々が、中華文明の1つの中央権力のもとに統合された状態のことで、多くの中国人にとっては理想と見なされる国家観である。

「我々の悠久の歴史は各民族の共同作業によって紡がれてきた。(略)秦が書体・車軌・度量衡・道徳規範を統一したことは、中国という統一された多民族国家が発展する道筋を開いた。これより後、いかなる民族が中原に入ろうとも、みな天下の統一を自らの責任であると見なして、中華文化の正統をもって任じた──」

こちらは2023年8月15日、中国共産党のプロパガンダ部門の特設サイト『学習強国』に発表された「“大一統”と中華民族共同体意識の確固たる形成」なる論文で引用された習近平の言葉だ(発言自体は2019年9月)。

現在の中国政府の秦や始皇帝に対する評価を示すと考えていいだろう。似た主張は以前からあったものの、党の理論誌『求是』など当局系の媒体の記事や、党に忖度する中国の歴史学者が執筆した関連論文は、ここ数年で明らかに増えている。

現体制下で「大一統」が盛んに持ち上げられるのは、台湾をはじめ、新疆や香港などの周辺地域がすべて「中国」に属するべきだとする主張を裏付ける概念だからだ。ゆえに始皇帝の事績は、現代の中国共産党の価値観から見て好ましいのである。

余談ながら、「大一統」という言葉は『春秋公羊伝』が由来で、さらに『孟子』にも似た表現がある。これらはいわゆる四書5経──。つまり儒家の書物なので、秦帝国の時代には「大一統」という言葉は使われていなかったはずだが、始皇帝が実質的にその最初の実践者だったことは変わりない。

実現に近づく「始皇帝の理想」

ほか、近年の中国では「定於一尊」(一尊を定む)という政治用語が登場している。これは司馬遷の歴史書『史記』「始皇帝本紀」に由来する表現で、中国の統一者たる帝王を唯一の正しき権威とする状態を指す言葉だ。

ただし、現政権下でのこの言葉の使われ方は、多少ややこしい。当初、習近平本人が演説で言及した際には「(西側の政治制度だけが普遍的に正しいという)定於一尊になってはいけない」と、ネガティブな用法だったのだが、2018年ごろから「(習近平や党中央は)定於一尊の最高権威である」という持ち上げる文脈で、党内文献や党幹部の発言に登場するようになったからだ。

この変化については、権力を集中しすぎた習近平を遠回しに「ホメ殺し」にする目的でわざと使うようになったのか、政権内で「文革的」な気風が強まったことで始皇帝の評価が高まり用法が変わったのか、解釈が分かれるところだ。ただ、後者である可能性もある。

たとえば2020年には中国政府の海外向け雑誌『人民中国』に、「大一統」の成果として始皇帝の郡県制を称賛し、さらに「儒表法裏」(表面上は儒家だが実質は法家)という言葉を肯定的な文脈で使ったコラムが登場した。文革末期の儒法闘争を連想させる内容だ。

強大な権力が個々人を支配して「強国」を目指す法家思想を奉じた始皇帝の理想は、中国式の法治と「国家安全」を強調しつつデジタルツールを駆使して全人民を管理しようとする現代の中国共産党のもとで、最も実現に近づいているのかもしれない。

安田 峰俊:ルポライター

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