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「物を投げる能力」が変えた人間社会の権力構造 階層制が平坦化した理由はヒトの「肩」にある

東洋経済オンライン / 2024年10月28日 11時0分

物を速く、正確に投げる能力が、私たち人類の社会構造を一変させました(画像:digi009/PIXTA)

横暴に振る舞う上司、不正を繰り返す政治家、市民を抑圧する独裁者。この世界は腐敗した権力者で溢れている。

では、なぜ権力は腐敗するのだろうか。それは、悪人が権力に引き寄せられるからなのか。権力をもつと人は堕落してしまうのだろうか。あるいは、私たちは悪人に権力を与えがちなのだろうか。

今回、進化論や人類学、心理学など、さまざまな角度から権力の本質に迫る『なぜ悪人が上に立つのか:人間社会の不都合な権力構造』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。

ホモ・サピエンスは「投げる」のが得意

私たちの種ホモ・サピエンスの30万年の歴史をたった1年に圧縮すれば、私たちは元日からクリスマス頃まで、ほとんど、非階級制の平らな社会で暮らしてきたことになる。

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最後の6日間に階級制が標準になり、複雑な文明がこの惑星の各地に根を張る。そのときにようやく、支配と専制政治が私たちの特徴となった。私たちの現代社会こそが例外なのだ。

チンパンジーとの共通祖先のアルファオスは、有史以前の多くの人間社会から消えた。では、彼らはどこに行ったのか?

もし、世界一強力なチンパンジーに野球のユニフォームを着せ、最高の指導をし、毎日ピッチングの練習をさせても、せいぜい時速30キロメートルぐらいのボールしか投げられないだろう。

それは、どこにでもいるようなリトルリーグの小柄で弱々しい7歳のピッチャーの球速程度でしかない。

まともな12歳児なら、チンパンジー版のノーラン・ライアンやマリアノ・リベラのような豪速球投手と比べてさえ3倍に当たる時速100キロメートル近い速球でバッターを三振に打ち取れる。

私たちの霊長類の祖先は、ストライクを投げるよりも、バッターにボールをぶつけたり、暴投したりする可能性のほうが高かっただろう。

だが、それは公平な比較ではない。「人間は、物を信じられないぐらい速く、かつ、とても正確に投げられる唯一の種だ」と、ハーヴァード大学の進化生物学者ニール・トマス・ロウチは書いている。

約200万年前、私たちの祖先のホモ・エレクトスは、少しばかり幸運な進化上の外科手術を肩に受けた。彼らは突然、恐ろしい速さと精度で物を投げられるようになった。それが私たちの種の進路を劇的に変えた。

40万年前、私たちの祖先の1人が、イチイの木の枝を尖とがらせた。さらに、空気抵抗を減らす工夫もした。

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