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給食メーカーが介護食に大胆進出して遂げた復活 赤字で倒産危機→ニッチを極めて業績回復

東洋経済オンライン / 2024年10月28日 8時35分

給食でおなじみのアップルシャーベットなどを手掛けている、福島県にあるトーニチ株式会社。主に学校給食用デザートの製造を手掛ける同社ですが、倒産危機だった頃も。業績を回復させた「ニッチを極める」戦略を聞きました(筆者撮影)

福島県で主に学校給食用デザートの製造を手掛けているトーニチ株式会社。前編の記事では、給食でおなじみのアップルシャーベット誕生の経緯や味の秘密、ファミリーマートでの直販について聞いてきた。

【画像9枚】「学校給食→介護食」 アップルシャーベットの会社は、実は最近はこんな商品を作っている

しかし、トーニチ株式会社では、一時期は会社が大きく傾いてしまったという。

後編となる本記事でも引き続き、代表取締役社長の岸秀樹氏に話を伺い、“営業改革”で赤字続きの会社を立て直していったことや、少子高齢化で学校給食の需要が減っていく中、介護食や病院食の分野にも取り組み、売り上げを伸ばしている点について掘り下げていく。

「営業マンは現場へ行け」の教えが会社を変えた

―赤字危機について教えてください。

2000年頃から不況になっていき、大手メーカーが下請けに出す量を減らして自社工場での内製化を進めていきました。弊社は下請けが中心の会社だったので、売り上げが落ちていきました。

ちょうど製造工場の建て替えを進めていた頃で、10億円の生産能力だった工場が、2000年に30億の生産能力のある新工場になりました。つまり約3倍です。しかし生産能力は3倍に上がったのに、注文はどんどん減っている……。

私はその頃大学卒業後に赤城乳業で働いて2年目でした。5年は修行する予定だったのですが、「家業がピンチ」ということで実家に呼び戻されました。

【画像9枚】「下請け減で赤字に」「そうだ、介護食を作ろう!」…。給食の定番デザート「アップルシャーベット」で知られるトーニチ株式会社、最近作っている商品はこんな感じ

―大変な時期に戻ってきたんですね。

ありがたいことに救いの手もあって。ちょうどその頃、赤城乳業で営業部長をしていた方が、引退して福島に戻ってきていたんです。当時の赤城乳業の社長が「トーニチが困っているみたいだから面倒見てやってくれ」と伝えてくださり、顧問として来てもらえることになりました。

その方は赤城乳業が売り上げ50億規模の頃に営業部長になり、250億ぐらいまで売り上げを伸ばしていった経験をされており、メーカー営業のノウハウを熟知されている方で。

顧問には数字を見ることや、営業と製造の相互理解を深めることの重要性など、いろんなことを教わりました。特に営業として外に出ることの大切さを力説されましたね。

弊社は下請け主体の会社だったので、営業マンはほとんど外へ出ず電話対応が中心でした。それを見て「なんで営業が外に出ないんだ」と。そこから全国各地、どこにでも行くようにすっかり変わっていきました。

―とはいえ、長年続けてきたスタイルを新しく来た人の助言で変えるって実はすごい大変なことなのでは?

親父がその点賢かったのか、もはや諦めちゃっていたのか、どちらかはわからないのですが完璧に私たち世代(当時20代)に任せてくれました。若手は赤字続きだった時代しか知らないので強い危機意識があり、そんな時に教えてくれる方が来たので反発も何もなかったです。

むしろ的確なアドバイスを貰えるのがうれしかったです。今思えば、褒めたり、やる気を引き出すのもすごく上手な方でした。

―営業先はどのように訪問するのですか?

私も2016年に代表取締役社長になるまではずっと営業で北陸や四国などを回っていました。給食業界でメジャーな方法として同行販売というのがあります。卸さんのトラックに乗せていただいてお客様のところを一緒に訪問して、卸さんが品物を納品している間に、私たちメーカーは商品サンプルやパンフレットを持ってご案内しています。

卸さんと道中話しながらあちこち行くのは楽しかったですね。そこで現場や要望をより深く知ることにつながり、いろんな世の中の需要やお困りごとが見えてきて、自社商品や品数を増やしていくことになりました。その“営業改革”が今の会社につながっています。

ニッチな分野で大手食品メーカーと差別化

―自社商品はどのように増えていったのですか?

顧問が来た頃から、少子高齢化で小中学校の子どもの数はどんどん減っていくので、売り先を考えていくべきだという話になっていました。営業であちこち回った経験や、うちの営業責任者の配偶者が栄養士をしていたこともあり、介護食の需要があることは知っていたので取り組むことにしました。

手始めに、地元の介護施設やデイサービスの人たちにヒアリングをして回り、その情報をもとに、自社商品(ナショナルブランド)として「なごみのひととき」というゼリー、プリンのシリーズを作りました。

並行して、全国各地の卸さんへ片っ端から電話営業をかけて、アポが取れたところへ「なごみのひととき」をサンプルに訪問して回りました。

訪問を続ける中で、卸さんのほうでも介護食や病院向け、高齢者用のデザートの分野において、他社と差別化できる、オリジナリティのある自社のプライベートブランドを求めていることを知りました。その後すぐ岩手の卸さんと取引が始まり、そこからはまたほかの卸さんを紹介いただいてどんどん取引が広がっていきました。

―需要があったんですね。

介護食の主食や主菜、副菜は大手企業が手掛けるケースも多く、市場規模が非常に大きいのですが、フルーツなどのデザートは大手がさほど参入していないんですよね。市場規模が小さいのです。でも介護の現場では必要とされているので、そういったニーズに応えたいと思いました。

―大手が参入しにくいジャンルだったんですね。

大手企業では、規模の小さい、ニッチな分野の商品開発はなかなか注力しづらいですよね。中小企業としての差別化戦略はつねに考えておりまして「ニッチな困りごとに応えられるような製品」には近年特に力を入れています。その一つが今まさにお話ししている介護食としてのデザートで、もう一つがアレルギーのあるお子さんも配慮したデザートを作ること。乳、卵、小麦を使わないケーキやプリンの開発に力を入れています。

「食の課題を解決する」がミッション

―確かに今、食物アレルギーのある方が増えていますね。

だからこそ、食卓を囲むみんなで同じものをおいしく召し上がっていただけるシーンを私たちは作りたいと思っております。乳、卵、小麦粉を使っていないケーキはアレルギーのある方も一緒に食べられます。普段ケーキを食べられなかったお子さんから「はじめてケーキを食べました」と喜びのお手紙が届いたりするんですよ。そういったお声をいただくとすごく励みになりますね。

弊社の商品開発のこだわりは、介護食やアレルギー対応商品など、どの商品にしても「誰もがおいしく食べられる商品であること」を大切にしています。「体には優しいけれどおいしくない」というものは商品化しておりません。

―食事って命をつなぐためのものでなく、毎日の楽しみとして大きいですよね。

高齢になると食の選択肢が限られてきますが、「食の課題を解決する」のが私たちの仕事なので、そこはこだわり抜いて今後もやっていきます。

弊社の人気デザートシリーズ「ギュッと完熟」も、咀嚼力・嚥下力の低下してきた祖父母にもおいしい果物を食べてもらいたいという弊社の社員の思いから生まれた商品です。

果汁を固めてゼリーにしたような商品で、風味は果物そのものですが、柔らかいので舌で潰して食べられるのが特徴です。お年を召して歯が弱くなりフルーツが食べづらくなった高齢者の方に、おいしく味わっていただけるようになっています。

ペースト食だと食欲が湧きにくい方もいらっしゃるので、きれいなフルーツの見た目にして楽しく食べていただけるよう工夫しています。また、高齢者に必要な栄養素もしっかり入っております。

「ギュッと完熟」シリーズは桃、りんご、梨の3種類で展開しており、かなり評判が良くてどんどん売り上げが伸びていますね。発売した2020年はコロナ禍で高齢者施設へ案内ができませんでしたが、現在営業にも行けるようになってきて売り上げがさらに伸びています。

オンラインショップでも販売しているので在宅介護で必要としている方や、硬いフルーツを食べづらくなってきた高齢者の方にもお届けできればと思っております。

―食の課題、ほかにはどんなことが気になっていますか?

先日友人の働いている介護施設を訪れたら、お餅を提供していてびっくりしました。「大丈夫なの?」と驚いたのですが、施設長から話を聞いてみると年配の方はお餅が大好きな方が非常に多いそうで。

みんなおいしそうにお餅を食べていたのがすごく印象的でした。好きなものをおいしく食べることは人を元気に、幸せにしますよね。そこで実現可能かはわからないのですが「歯が弱くても食べやすくて、喉に詰まらせずに食べられるお餅をうちで作れたらたくさんの人に喜んでもらえるのではないか」と思いました。

このお餅の話に限らず食の課題は私たちの日常にゴロゴロ転がっています。

45億の生産能力を次世代に残したい

―今後の展望をお聞かせください。

お客様の近いところで商売をしたいとECサイトや道の駅、ファミマさんでの販売を始めましたが、最終的には実店舗のデザートショップを運営できたらと考えております。それが一番お客様に近いですし、福島にはトーニチというデザートを作る会社があることを知っていただけるのではないかと。お客様との接点をもっと伸ばしていきたいなと思っております。

あと、2034年を目標に、30億円の製造工場の生産能力を45億円に拡大する計画を進めています。私が入社したころは赤字続きでしたが、おかげさまでなんとかやってこられて、次は次世代にこの事業を残していくことを考える段階になってきました。

次世代に残すうえで、戦えるための武器を残したいという考えがありまして、その武器というのは物を生産する能力だと考えています。ただし、以前10億の製造工場を30億規模と約3倍に拡大したときは経営が苦しくなったので……。取締役メンバーで慎重に検討して1.5倍の45億だったら大きすぎる借金にもならず、固定費も急激に増えすぎず、次世代につなげられるだろうという話になりました。

同時に食の課題解決はこれからも注力していきます。高齢化が進む中で必要とされる介護食や治療食、そしてアレルギーのお子さんにも食べていただけるデザート、おいしく食べてもらえるように作っていきたいと思っています。

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横田 ちえ:ライター

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