持ち味薄れた?「孤独のグルメ」特別編への違和感 マンネリこそが持ち味のドラマだったが…
東洋経済オンライン / 2024年10月29日 13時0分
そうした流れがあるなか、本作はこれまでの形式から抜け出そうとしている。過去10シーズン守られてきたフォーマットを広げようと試みる、意欲的なドラマになっているのだ。
情報量の多さが特有のおもしろさを損なう?
ただ、そんな本作を第4話まで鑑賞して違和感も抱いた。
確かに、毎話の主人公の人生が映る独り飯グルメにはそれぞれの人間ドラマがあり、そこに井之頭五郎のいつもの食事シーンが重なることで、もりだくさんの内容になっている。充実したストーリーと捉えることもできるが、食事シーンとして見れば、毎話の主人公と井之頭五郎がかぶっている。
また、ドラマ前半の各話主人公の紹介的なお仕事ドラマのパートも長く感じる。中盤ほどでやっと主人公が「腹が、へった」とつぶやいてカットが引いていく、おなじみの“孤独3段カット”があり、そこから食事パートに入る。そして、各話主人公の食事シーンとともに、その店にいた井之頭五郎のいつもの独り飯グルメが、終盤になってようやく差し込まれる。
その情報量の多さは、いまの『孤独のグルメ』を確固たる人気シリーズの地位に押し上げた「特有のおもしろさ」=「ファンのニーズ」とのズレがある気がする。『孤独のグルメ』とは井之頭五郎そのものだ。ファンにとっては、内容がブレていて冗長的に感じるのではないだろうか。
本作は、『孤独のグルメ』の作品性を広げているが、それによって逆に本来の“らしさ”が失われている。その背景には、制作陣の脱マンネリへの意識があることが推察される。
エンターテインメントにかかわるすべての人がぶつかるマンネリの壁。同じことを繰り返していれば客に飽きられ、ほかの魅力的なものに移られてしまう。
だからつねに新しい何かを探し、それを盛り込むことで客離れを防ごうとする。一般的にシリーズが長く続けば続くほど、そこに対する内圧も外圧も強くなる。本作においても当然その議論はあっただろう。
マンネリこそが持ち味だった
しかし、『孤独のグルメ』に関しては、そのマンネリこそ視聴者が心地よく気楽に楽しむことができる持ち味であり、それが若い世代をはじめ幅広い層の心を掴んでいる。だからこそ、シーズン10まで愛され続けてきた。
お腹を空かせた井之頭五郎が街の名もない料理屋に入り、ただお腹いっぱいおいしい料理を食べる。それだけでいい。それだけの情報量のストーリーと、深夜30分(放送開始当初)のテレビドラマという枠がパッケージとなって『孤独のグルメ』が成り立ってきたのだ。
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