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若者へ「黙ってろ」と言う上司が"組織を殺す"必然 「ベテランの経験、勘」通用しない時代になり⋯

東洋経済オンライン / 2024年10月30日 8時40分

これまでの経験則がまったく活かせない、逆に邪魔になると判断する場合は、経験に縛られない人たちに思い切り「任せる」ことも得策だ(写真:8x10/PIXTA)

経営コンサルタントとして50社を超える経営に関与し、300を超える現場を訪ね歩いてきた遠藤功氏。

36刷17万部のロングセラー『現場力を鍛える』は、「現場力」という言葉を日本に定着させ、「現場力こそが、日本企業の競争力の源泉」という考えを広めるきっかけとなった。

しかし、現在、大企業でも不正・不祥事が相次ぐなど、ほとんどすべての日本企業から「現場力」は消え失せようとしている。

「なぜ現場力は死んでしまったのか?」「どうすればもう一度、強い組織・チームを作れるのか?」を解説した新刊『新しい現場力 最強の現場力にアップデートする実践的方法論』を、遠藤氏が書き下ろした。

その遠藤氏が、「多様性受容の重要性」について解説する。

ビジネスの現場で「厄介な問題」が増えている

私は過去30年以上にわたり、日本企業の現場を訪ね歩いてきた。その数は300を超え、いまも経営顧問先の現場やコンサルティングを行う企業の現場の人たちとの直接的な触れ合いを大事にしている。

【図1枚でわかる】では、職場の「分断」をなくして「新しい現場力」を生み出す"シンプルな方法"は?

「現場力」こそが、日本企業の競争力の源泉であると信じてきたが、いま現場が解決すべき問題の難易度が飛躍的に高まり、「従来の現場力」では対処できなくなっている。

「テクノロジーの進展によるデータ量の増殖」や「SNSなどによる情報の増殖」によって、ビジネスの構造そのものが複雑化し、企業の現場で発生する問題は「厄介な問題」が増えているのだ。

「厄介な問題」 の具体例としてよく取り上げられるのは、地球環境問題や貧困、いじめ、大規模災害などの社会問題である。

ビジネスの世界での「厄介な問題」では、たとえば、「小分けシャンプーのジレンマ」 はよく知られる例である。

先進国の企業は発展途上国の経済的に恵まれない人たちが買えるようにと、小さな包装の小分けされたシャンプーを使い切りの形で売っている。

そのこと自体は途上国の人たちにとってありがたいことであるが、その包装のゴミが大量に捨てられている。

途上国にはリサイクル処理施設はなく、捨てられた大量のゴミは生活環境を悪化させ、地球環境に負の影響を与えてしまう。

貧困のため大きなボトルのシャンプーを買えない人たちの衛生の問題は解決したが、それが「別の大きな問題」を引き起こしてしまう。

「経験則が通じない場面」も出てきている

問題の複雑性と難易度が高まる中、どのような問題も解決できる「万能な思考法」などない。「既存の思考」を用いれば解決できることばかりではないのも現実である。

増殖する「厄介な問題」に対処するうえで大切なことは、「厄介な問題」は現場だけでは解決できないということを知ること、そして、「多様な思考法」を柔軟に使い分けることである。

一般的に現場というところは、経験がものを言う世界である。常に問題を抱えている現場にとって、経験が「ある」か「ない」かは絶対的な違いとなって表れる。

しかし、「上司をはじめベテラン人材が力を発揮する」という前提は、反復性の高い問題が発生し、その問題の原因も比較的単純であることだ。

そういうときには、ベテランの経験やカン、コツは有効だが、その解決策も前例のやり方が有効とは限らない、「これまでの経験則が活きない場面」も増えている。

とはいえ、経験値の高いベテランが幅を利かすようになると、経験の浅い若手はものを言いづらい雰囲気になってしまう。

これまで経験したことのないような問題に遭遇したとき、「縦」の関係ばかりに依存し、過去の経験に縛られ、発想が固定化していることは、逆に問題解決の阻害要因となりかねない。

大事なのは、多様性のある意見やアイデアに積極的に耳を傾け、前向きな衝突を生み出し、議論を「混ぜる」 ことである。

性別、年代、国籍、経験など多種多様な人材をミックスさせることが、「新しい現場力」には不可欠だ。多様さを活かすことが、競争力強化につながることは間違いない。

女性社員、若手社員、外国人社員、キャリア採用社員などが集まり、ひとつの問題に対して異なる視点、異なる発想で意見をぶつけ合いながら解決に導いていく。これこそが「新しい現場力」のダイナミズムだ。

「混ぜる」ことによって、これまでの価値観が変容し、現場の異質に対する受容性は高まっていく。

経験に縛られない人に「思い切り任せる」

しかし、これまでの組織やチームに、多様性をたんに「加える」だけでは何の変化も起きない。現場は基本的には変化を嫌う。

安定性が求められる現場にとって、「異分子」が加わることは安定性を損なうリスクが高まる。だから、どうしても同質性、硬直性から脱することができない。

これまでの経験則がまったく活かせない、逆に邪魔になると判断する場合は、経験に縛られない人たちに「思い切り任せる」ことも得策だ。

古い価値観に縛られている人たちと混ぜると、新しくフレッシュな感性が死んでしまう。

低迷する日本でも、新しい需要やビジネスチャンスは間違いなく生まれている。問題は、そうした「新しいマーケット」や「新しいビジネスチャンス」に「古い現場力」で対応しようとしていることである。

もちろん、ベテラン社員も重要な多様性の一部だ。過去の経験則が活きるものについては、ベテランの知恵や経験を活かすことは、これからも大切だ。

大事なのは、お互いをリスペクトし合う関係性の構築である。

お互いの意見に耳を傾け、意見の違いを尊重し、時には衝突や対立を恐れず、議論ができることこそが「新しい現場力」だ。

「多様性」「違い」を受け入れ、活かす

たとえば、若い社員の中には、ある専門分野に精通した即戦力の人材もいれば、桁外れのエネルギーやきわめて斬新なアイデアを持つ人もいる。

そんな人材を何年も「塩漬け」にして活かさないのは会社にとって大きな損失以外の何物でもない。やる気のある人材であれば、そうした待遇に不満を感じ、退職してしまうだろう。

「お前は若くて何も知らないのだから黙ってろ」は禁句である。

「何も知らない」ことは欠点でもなければ、マイナスでもない。むしろ、「過去に縛られない」という強みである。

人は程度の差こそあれ「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)から自由ではない。

たとえば、職場においても女性や若い人に対して見下したような態度をとったり、軽く扱ったりする管理職はいまだに多く存在する。

多様性の本質とは、ジェンダーやマイノリティに限らず、一人ひとりが持っている「違い」を認め、尊重し、活かし合うことである。

「違い」を認め、活かすためには、経営者や管理職がまっさらな気持ちで社員の一人ひとりと真正面から向き合い、「意見」とは「異見」であることを認識することが必要不可欠である。

「正解」のない時代に前に進むには、本気で意見を交わし、意見の違いや衝突を楽しむ「新たな空気」 を生み出す必要がある。

「厄介な問題」に対処するプロセスにおいては、必ず 「建設的対立」 が生まれる。

衝突を繰り返すことによってのみ、問題の本質に迫り、最適解に近づくことができるのだ。

「厄介な問題」に柔軟に対処し、「多様性を活かす現場力」へシフトすることができなければ、絶好のビジネスチャンスを逃してしまうことになるのだ。

現場力を鍛えて「強い組織・チーム」を作ろうと思えば、多様な個性を連携させ、組織をアップデートしつづけることが必須なのである。

遠藤 功:シナ・コーポレーション代表取締役

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